僕がザ・バンドの名前を知ったのは、1983年に彼らが再結成したときだった。
記事は伝説のロックグループの復活をおおむね歓迎していたが、文章の最後にこんな言葉が添えられていた。「ただひとつ、ロビー・ロバートソンが参加していないことだけが、返す返す残念である」と。
ロビー・ロバートソンは、僕がもっとも好きなギタリストのひとりであり、もっとも尊敬するソングライターのひとりでもある。そして、言うまでもなくザ・バンドは、ロックの歴史において極めて重要なグループだった。今でも彼らが残した音楽に耳を傾ければ、大地に根ざしたアメリカ音楽の全貌を俯瞰することができる。そんなグループはザ・バンドをおいて他にない。
ロビーは、1976年にザ・バンドを脱退してから数年間、ほとんど表立った音楽活動を行わなかった。80年代に入ると友人であるマーティン・スコセッシ監督からの依頼でいくつかの映画音楽を手がけているが、こちらも裏方に徹した印象が強い。あと思い出せるのは、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのアルバム『サザン・アクセンツ』に、共同プロデューサーとしてクレジットされていたことだろうか。
ロビー・ロバートソンの本格的な復帰は、ザ・バンド脱退から11年後、1987年にリリースされた初のソロアルバム『ロビー・ロバートソン』まで待つことになる。
アルバムには、ザ・バンドのメンバーだったリック・ダンコとガース・ハドソンがゲスト参加しており、オープニングナンバー「堕ちたエンジェル(Fallen Angel)」は、前年に亡くなった同じくザ・バンドのリチャード・マニュエルに捧げられている。
しかし、ロビーがこのアルバムで目指したのは、ザ・バンドとはまた違う音楽性だった。地に足の着いた印象のザ・バンド時代に比べると、音の境界線が曖昧で、空間的な広がりがあり、どこか神秘的でもあった。
このサウンドの変化には、ロビー自身の出自が大きく関係していたと思われる。ロビーは幼い頃に父親を失くし、女手ひとつで育ててくれた母親はモホーク族インディアンだった。自分の体に流れるネイティヴアメリカンの血を、ロビーは様々な場面で意識させられてきたに違いない。
ザ・バンド時代は他のメンバーもいるため、自分だけの都合で音楽性を決めるわけにはいかなかったが、ソロになったことで、ロビーは自分自身のルーツと向き合う機会を得たのだろう。実際、アルバムが発売された当時のインタビューで、ロビーは自分の出自を音楽で表現したかったと語っている。それでも脱退から11年の歳月を要したのは、このテーマがそれだけデリケートな要素を含んでいるからに他ならない。
このアルバムは、そんなロビー・ロバートソンの新たな音楽の旅のスタート地点と呼べるものだ。そして、そこはもしかすると、ザ・バンドが『南十字星(Northern Lights - Southern Cross)』で辿り着いた旅路の果てなのかもしれない。
あの時あの場所で、ロビーは仲間と袂を分かち、ひとりになり、そこから長い時間を経て、また歩き出したのだ。洗練されたサウンドの向こう側からは、気品と孤独、豊潤さと深い情感が伝わってくる。
それはザ・バンドが『南十字星』で提示した終わりのない寂寥感と、どこか通じるように思うのだ。
2018.07.05
YouTube / RobbieRobertsonVEVO
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