私が10代前半に住んでいた町はブラジルのサンパウロ州アクリマソンという地域でした。中流ほどの人たちが住んでいて、サンパウロの中心街からは少し離れた、比較的安全な町です。
私の家は袋小路の坂道の途中にあったのですが、道の突き当たりの真下には大きなアクリマソン公園があり、私はその公園を横断して学校へ通っていました。もちろん、同じ坂道沿いにあったマンションに住む同年代の子どもたちも同じ学校です。
以前にも書きましたが、この道沿いに7人ほどの仲間がいました。みんな個性にあふれていて、学校が終わった後、いつもたむろっておしゃべりをしたり、時には鬼ごっこをしたり、近くの商店街をブラブラしたりしていました。
その中に時々しか顔を出さなかった、同い年のエドゥという男の子がいました。エドゥに初めて会った時はそれほど目立たない、いたって普通の男の子だったのですが、ある日突然、「僕はダーク族だ!」と言い出し、着る服は全て黒、髪の毛も伸ばし、常に下を向いて話をするようになりました。
仲間のみんなは「何それ?」と最初は笑っていましたが、彼の変身ぶりを尊重し、彼の好きな音楽、言葉遣いや好みをリスペクトしていったのでした。
エドゥの「ダーク族」へのこだわりは半端なく、徹底していました。彼なりにルールを作り、それを一生懸命に守ろうとしていました。彼によると、「ダーク」とはこんな感じです。
① 着る服は全て黒
② 短い髪の毛はいけない
③ 笑ってはいけない
④ 音楽はキュアーかラモーンズ
みんなは音楽で判断し、「それ、ただのパンクじゃない?」と言っても、「いや、ダークだ!」と、彼は否定し続けていました。
ある8月の夜(ご存じの通り、南半球なので、8月は冬です)、珍しく吐く息が白くなるほど寒い日でしたが、彼は半そでの黒いシャツを着てやってきました。
みんなが「寒くないの?」と聞いても、「いや、ダークは寒さを感じない」と言いながらも震えていました。
そんな彼をみて不憫に思ったのか、「なんか盛り上がる曲歌ってよ!」とみんながリクエストしたのです。そこで「いや、ダークは歌わない」と言うのかと思っていたのですが、それはまた違っていたようで、彼はラモーンズの「サーフィン・バード」を歌い始めました。
バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪ バーバーバー♪
「バーバーバー♪(バードバードバード)」としか歌わないので、みんなで首を傾げながら、一生懸命に盛り上げようとリズムを取ろうとしても、よく分からず… 結局、彼の不思議な「バーバーバー♪」に合わせ、みんなでジャンプをして体を温めていました。
あまりにも分からないメロディに彼も悪いと思ったのか、後日、ラモーンズのレコードを貸してくれました。そして、ラモーンズのパワフルな演奏にみんながハマってしまい、その年の冬はみんなで「バーバーバー! バーバーバー!」と歌いながらジャンプして越したのです(笑)。
2016.12.20
YouTube / Ramones Music
Information