1977年 11月25日

原田真二「キャンディ」ふわふわヘアの王子様がもたらしたポップスの洗礼

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原田真二のセカンドシングル「キャンディ」がリリースされた日
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photo:NIPPON COLUMBIA   

ランキング形式の音楽番組「ザ・ベストテン」が始まった


昭和50年代初頭、我が家のルールは厳しく、小学生だった私は夜9時以降はテレビを見せてもらえなかった。だから8時から放送していた『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』を観て電線音頭は踊れても、10時からの『夜のヒットスタジオ』は観れず、教室で話題になると悔しい思いをしていた。

そんな私の耳に入ってきたクラスの噂、それは『ザ・ベストテン』なる音楽番組が始まったという話だった。スタートは1978年1月、司会の掛け合いが面白いランキング形式の番組だと。時間は夜9時から。

どうしても観たかった私は、母に泣きついて交渉した。クラスの話についていけない、仲間外れにされてしまう、どうか観せてほしいと涙ながらに訴えたのだ。母はモーレツに怒ったが、同居していた祖父が取りなしてくれ、夜9時以降のテレビは『ザ・ベストテン』だけはOKという新ルールが誕生した。ありがとうお祖父ちゃん!

丘の上の王子様のような18歳! 原田真二から受けたポップスの洗礼


そうしてドキドキしながら初めて観たベストテンに出演していたのが原田真二だった。まだあどけなさを残した少年が頬を紅潮させ、ピアノを弾きながら「キャンディ」を熱唱していた。何位だったかは覚えがないが、私はぽかんとしながら魅入ってしまった。

まるで少女漫画から飛び出してきたような男の子。後に黒柳徹子から「ビーバーちゃん」というニックネームをもらうことになる18歳。「キャンディ」と呼びかけているのに、漫画の登場人物であるアンソニーにもテリーにもアルバートさんにも似ていない、ふわふわのヘアスタイルが可愛らしい丘の上の王子様。

プラス、それまで聴いてきた歌謡曲とは違う、初めて耳にするような柔らかいメロディーと幻惑的な歌世界が新鮮だった。まだユーミンも達郎も聴いたことがなかった10歳の私は、たぶんこの時原田真二からポップスの洗礼を受けたのだと思う。

デビューから3ヶ月連続、松本隆とのコンビでシングルリリース


フォーライフ・レコードのオーディションに合格して広島から上京、同郷の社長・吉田拓郎のプロデュースにより18歳でデビュー。シンデレラボーイと謳われ、キュートなカーリーヘアで私たちの前に彗星の如く現れた原田真二。

作詞家・松本隆とのコンビで、1977年10月の1stシングル「てぃーんず ぶるーす」を皮切りに、11月に「キャンディ」、12月に「シャドー・ボクサー」を3ヶ月連続リリースし、3曲全てをオリコンチャートのベスト20位内に同時ランクインさせるという離れ業を完遂。また、テレビ出演や雑誌の表紙を飾るなど、Charやツイストと共に「ロック御三家」として、お茶の間に新たなロックの風を吹き込んだ。

原田自身は2枚目の「キャンディ」はあまりにアイドル然とした内容で歌うのに抵抗があったそうだ。当時は、始まりのフレーズを歌うと合間に「真二~!」の掛け声が入るのが苦痛で、なぜアイドルをやらなければならないのかとクサっていたらしい。だが、年齢を重ねて歌詞のすごさに気づいたと言う。

松本隆が語る「キャンディ」というタイトルのエピソード


「キャンディ」というタイトルについて、松本隆はこんなエピソードを語っている。

最初は「ウエンディ」というタイトルだった。同時期に同タイトルの曲が出るというので、変えなければいけなくなり、僕がヨーロッパに行くため空港の出発ロビーにいるところに、原田真二とディレクターが青い顔でやって来た。何も思いつかず、ディレクターに少女漫画の雑誌を山のように買ってきてもらって、主人公の名前を研究して決めたんだよね
(ソニーミュージック公式サイトより)

少女漫画とはもちろん『キャンディ・キャンディ』だろう。雑誌名は「なかよし」。当然私も毎月読んでいた。でもだからと言って「キャンディ」の曲を聴いて漫画の主人公、キャンディス・ホワイトを想像したかと言えば、それはない。キャンディのキャラクターはソバカスのあるチャーミングなおてんばレディーであり、この曲の「眠れる森の美女」のようなストーリーとは異なる。幼い私の耳にはそれがちょっぴり不思議で、でもそのギャップがまた謎めいて魅力的だった。「なぜキャンディは眠り姫なんだろう?なぜ?」

そこで歌詞のストーリーを私なりに紐解いてみたい。

ちょっと怖い個人的解釈、「キャンディ」の歌詞はプラトニックな愛の昂り?


 キャンディ アイラブユー 目覚めてよ
 窓を越えてぼくは来た
 イバラに囲まれ眠る横顔を
 揺り起こすのは風さ

茨に囲まれて眠っている美女。窓を越えて王子様たる僕が助けに行く。そして優しいキスでキャンディが目覚めるのかと思ったら、彼女を起こすのは風なのだ。想像するにこの風は「風街」のイメージではなく、強風でガタガタ鳴る音だろう。でも、きっと彼女は眠ったままだ。

 キャンディ アイラブユー 許してよ
 ダイヤモンドは持ってないけど
 草の葉に光る朝のきらめきを
 素肌にかけてあげる

そして、なんてこった。僕はキャンディに捧げるプレゼントの宝石を持っていない。お金はないけれど、朝のきらめきをあげると言う。職業は詩人かもしれない。

 ぼくは君の中溶けてゆく
 寒い心 そのやさしい手で包んで…
 Umm キャンディ

 君はぼくの中 ひとつだね
 夢の渦に巻きこまれて舞い上がるよ
 アイラブユー

そうしてやっと会えた2人の愛は燃え盛るのかと思いきや、ちょっと待って欲しい。この曲にはキャンディ側の意思はない。王子様の熱情と願いがファンタジックに綴られ、夢の渦に飲み込まれていく。つまり、これは僕の夢…?

 キャンディ アイラブユー 泣かないで
 君が泣けば空も泣いちまう
 誰も君の髪さわらせたくない
 死ぬまでぼくのものさ
 寒い心 そのやさしい手で包んで…
 Umm キャンディ

深い森の奥の館で眠るキャンディのもとへ窓を越えてやってきた僕は、朝のきらめきをキャンディに捧げ、泣かないでと懇願し、誰にも触らせたくないと嘆くけれど、実はキャンディは眠り続けており、その眠る彼女を僕は愛して世話をし、優しく崇拝しているのではないだろうか。だってキャンディは死ぬまで僕のものなのだから…。

ちょっと怖い解釈になってしまったが、私は「キャンディ」からそうした熱情と寂しさ、若さゆえののめり込み、一方的で一途な激情といったプラトニックな愛の昂りを感じる。一縷の望みと一筋の恐怖がふんわりと絡み合い、ビートルズを彷彿させるドリーミーなメロディーと相まって、無国籍のおとぎ話を紡いでいる。それはとてもロマンティックでセクシーだ。

本家・原田真二とカバーアーティスト・三浦大知の「キャンディ」


松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』には三浦大知が歌う「キャンディ」のカバーが収録されている。亀田誠治プロデュースによる、余計な音を削ぎ落とし研ぎ澄まされたサウンドで新たに甦る「キャンディ」。アレンジがシンプルだからこそ、その分メロディーと歌が滑らかに際立っている。

まるで梅雨時の湿気のように肌にまとわりついて離れない三浦大知のシルキーなボーカルは、正直とてもエロティック。本家・原田真二のボーカルが無垢さの残る少年の甘い夢の中のプラトニック・エロスだとしたら、三浦の声は粘っこく執拗にピンポイントで攻める大人のエロスである。

となると、にわかに「キャンディ」の歌詞はまた違った激情を帯びてくる。いくらでも妄想が湧き上がる。松本隆の歌詞の恐ろしさはそこにある。決して一つの意味合いに収まらない、無限の解釈がいつだって生まれる。何度聴いたフレーズであっても、聴き手は一粒で何百通りという味わいを新たに見出せるのだ。

なぜ「キャンディ」をセレクトしたかの問いに三浦大知は「もともと大好きだったから」と答えているが、彼のボーカルテクニックと原田真二に対するリスペクトを存分に感じ取ることができる素晴らしいカバーだと思う。必聴です。


2021.07.15
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カタリベ
1968年生まれ
親王塚 リカ
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