「一番好きな女性ロックヴォーカリストは誰?」 こんな質問されたら、僕は迷わずこう答える。 「プリテンダーズのクリッシー・ハインドだよ。彼女を超える女性ロックヴォーカリストを僕は未だに知らない。男性ヴォーカリストを加えてもTOP10入りするかもしれない。そのくらい彼女の才能は凄いし、カッコいい。」 1980年、プリテンダーズの最初のヒット曲「恋のブラス・イン・ポケット(Brass In Pocket)」で僕はクリッシー・ハインドに出会う。この時はまだ、全英1位を記録した新しいバンドのヒット曲、という程度の認識で、いい曲だなとは思ったけど、特にプリテンダーズに嵌ることは無かった。 ド嵌りしたのは1984年、アルバム『ラーニング・トゥ・クロール』を聴いた時だ。ありがたい事にこの時既に貸レコード屋全盛期。手軽に興味のあるアルバムを聴くことが出来たので、1983年のヒット曲(ビルボード最高5位を記録)「チェイン・ギャング(Back On the Chain Gang)」が収録されたこのアルバムを借りてみたんだ。 針を落とした瞬間の衝撃は未だに忘れない。1曲目の「ミドル・オブ・ザ・ロード」で僕はぶっ飛んだ。 「ちょっと待て、なんて、カッコいいんだ・・・。」 僕は一瞬でプリテンダーズの、いやクリッシー・ハインドの虜になってしまった。当然、デビューアルバム『愛しのキッズ(Pretenders)』とセカンドアルバム『プリテンダーズⅡ』を速攻借りに行く。 ヒット曲を連発するプリテンダーズだけど、アルバムを聴かないとこのバンドの凄さ、カッコ良さはわからない。少し時間が掛かったけど、僕は敬意を表して『ラーニング・トゥ・クロール』を含めた3枚を自分のライブラリーに買い揃えた。 何故、プリテンダーズではなく、敢えて “クリッシー・ハインドの虜” という表現を僕がするかというと、彼女がバンドのリーダーだからだ。そう、プリテンダーズはクリッシー・ハインドのバンドであり、他のメンバーは彼女のために集められる。 クリッシー・ハインドは変わった経歴の持ち主だ。彼女は1951年9月7日生まれのアメリカ人。そう、プリテンダーズはロンドンで生まれたバンドにも関わらず、主役の彼女はアメリカ人なのだ。彼女がイギリスに渡ったのは23歳の時で、イギリスで有名な音楽雑誌のライターとして働き始める。キンクスの大ファンを公言していた彼女には、アメリカより、イギリスの方が理想の場所だったのかもしれない。 ちなみに、プリテンダーズのデビュー曲はキンクスのカバー「ストップ・ユア・ソビン」である。しかも、彼女はミュージシャンとして有名になった後、なんと、キンクスのリーダー、レイ・デイヴィスと結婚してしまうのだから凄い。 音楽好きが高じて音楽活動を開始したクリッシー・ハインドは、その才能を有名なプロデューサーであるクリス・トーマスに見出され、慎重にデビューの準備を重ねた後、満を持して28歳でプリテンダーズとしてデビューする。 これはかなりの遅咲き。しかも元々ミュージシャンでもないのにこのクオリティ。この経歴を見ても、彼女が如何に天才であるかが証明されていると僕は思う。 クリッシー・ハインドが作りだすサウンドは実に多彩で多様だ。ロックであったり、パンクであったり、ポップスであったり、彼女の曲作りの引き出しの多さは尊敬に値する。 だからアルバムで聴かないとダメなんだ。プリテンダーズのアルバムは玉手箱のようなもの。何度聴いても飽きることはない。こんなバンドはそうはない。 そんなアルバムの中でも『ラーニング・トゥ・クロール』は僕にとって神アルバムだ。何故このアルバムが神アルバムか。実はバンドが大変な状況の中で制作されているにも関わらず、素晴らしい完成度で仕上がっているからだ。僕は、ここにクリッシー・ハインドの凄み、カリスマ性(神)を感じる。 1982年、プリテンダーズは、ドラッグ中毒となってしまったベーシストのピート・ファーンドンを泣く泣く解雇することになる。ところが、その翌日、ギタリストのジェイムス・ハニーマン・スコットがヘロインの過剰摂取により亡くなってしまうのだ。さらに、クリッシー・ハインド自身がレイ・デイヴィスと離婚してしまうという最悪な状況となる。 普通ならここでバンドは空中分解、挫折を迎えるのが普通。しかし、クリッシー・ハインドは、この苦境の中、「ミドル・オブ・ザ・ロード」、「チェイン・ギャング」、「ショウ・ミー」を含む最高傑作『ラーニング・トゥ・クロール』を世に送り出す。 ね、クリッシー・ハインドって凄いでしょ。そこら辺の男では太刀打ちできないでしょ。メンバーは変わっても彼女がいる限りプリテンダーズは存在し続けます。2016年にリリースされたアルバム『アローン』も相変わらずカッコいい。
2017.08.19
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