僕等の終わりは 僕等が終わる
誰れもそれを語れはしないだろう
「NEXTのテーマ~僕等がいた~」
作詩:小田和正
通り過ぎた あの日が輝く
君との確かな 思い出として
「流れゆく時の中で」
作詩:鈴木康博
バンドの “解散” に際して書かれた曲による、これほど真摯な締めくくり方を寡聞にして僕は知らない。
35年前の1982年9月21日、5人時代のオフコースの最後のアルバム『NEXT SOUND TRACK』がリリースされた。
このアルバムは、8日後の29日にTBSで21時から放送されたオフコースのテレビ番組『NEXT』のサウンドトラックであった。この番組こそが5人オフコースの正真正銘最後の活動となった。
ジャケットは同じテレビ番組のサントラ盤ということでビートルズの1967年の『マジカル・ミステリー・ツアー』を意識したのか、メンバーが着ぐるみに身を包んでいる、率直に言ってオフコースらしくないポップなもの。
アルバムには代表曲やメドレー、ライヴヴァージョンやインストが収められていて、純然たる新曲は2曲だけ。しかしこの2曲こそが、5人時代のオフコースの有終の美を飾ったのであった。
まずはB面の1曲め、アルバムでは7曲めの「NEXTのテーマ~僕等がいた~」。小田和正が書き、タイトル通り番組のテーマ曲になり、アルバムのリードトラックとなった曲である。
誰れの為にでもなく 僕等がうたい始めて
歌が僕等を離れていったのは
ほんの少し前の冬の日
いつだってほんとうは
ひとりよりふたりの方がいい
あの時 大きな舞台の上で
僕は思っていた 夏の日
小田が二人の方がいいと言ったもう一人が、オフコース結成当初から共に苦楽を共にしてきた鈴木康博である。鈴木はオフコース脱退の意志を示していた。
その時そこには 君たちがいたね
こころひとつで 君たちがいたね
僕等はいつも 憶えているよ
そのこころの叫びを
1番のサビでは “君たち=ファン” への呼びかけがなされる。しかしファンが登場するのはこれが最初で最後なのかもしれない。
2番は冒頭で取り上げた部分に以下の歌詩が続く。
切ない日々も あのひとときも
通り過ぎてきたのは 僕等だから
当事者でないと分からないことがある、と静かに、ぴしゃりと宣言している。“ロック” とも言える姿勢ではないか。
そして2番のサビでは主語が変わる。
あの頃確かに 僕等がいたね
誰れも知らない 僕等がいたね
何も見えない明日に向かって
走る僕等がいたね
“君たち=ファン” から “僕等=小田と鈴木”へと主語が変わった。2番は全体が小田から鈴木に向けて歌われているのだ。そしてトランペットのソロの間奏を挟み三度(みたび)サビが歌われる。
新しい時の流れの中で
いつかまた会える時がくるね
その時またここから 歩き出せばいいから
このサビでは誰と会うか、歩き出すかが明言されていない。鈴木康博なのかファンなのか、その解釈は聞き手に委ねられる。1番と2番のサビで主語を変えた上で、間奏明けのサビでの主語不在。素人目にも分かる巧みな詩作だ。もう一度2番のサビが繰り返されて曲は終わる。
ともあれ「NEXTのテーマ~僕等がいた~」は、総じて小田和正から鈴木康博へのメッセージであることは間違い無い。「言葉にできない」同様、私的な想いをテーマにした曲であった。
それが抜群に劇的なメロディーと、シンセベースとラウドなドラムを始めとした力強いアレンジで、やはりこの年にリリースされたヒット曲「YES-YES-YES」を彷彿とさせる名曲となった。
当時 “歌詞が女々しい” 等と、軟弱な女性向けの音楽と揶揄されていたオフコースであったが、この凛とした曲のいったいどこが軟弱なのか。僕はオフコースに対して植え付けられていた偏見を改めざるを得なくなっていた。
「NEXTのテーマ~僕等がいた~」の次に収められていたのが鈴木康博作の新曲「流れゆく時の中で」であった。鈴木のオフコースでの最後の曲であり、脱退に際しての心境を歌ったこの曲、その詩の世界は小田和正とは異なるものであった。
続きはまた明日。
歌詞引用:
NEXTのテーマ~僕等がいた~
/ 流れゆく時の中で
オフコース
2017.09.21
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