4月21日

ヴォーカリスト鈴木雅之、山下達郎も参加した傑作アルバム「Radio Days」

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鈴木雅之のセカンドアルバム「Radio Days」がリリースされた日
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ロックンロールの妙味を隠し味にしたポップミュージック


ロックンロールの熱狂とポップミュージックの関係性について、これまで語られることはあまりなかったように思う。

ロックンロールの熱狂とは、例えば、走り気味のリズムであったり、ちょっとしたギターのミストーンであったり、ヴォーカリストの声が裏返ったり、メロディラインにそぐわないコーラスが入ったりという、完成されたパッケージからはみ出した熱量―― つまり “ダイレクトな精神世界が生み出す妙味” である。

こういった不完全とも言える部分がロックフリークにはたまらないものがあるのだが、数々の名盤を紡ぎ出すポップミュージックの職人の中でも、こういったロックロールの熱狂を知り尽くし、自らの指針にしているアーティストがいる。

ロックンロールをポップミュージックに落とし込んだ大瀧詠一と山下達郎


彼らはダイレクトな精神世界をどのようにポップミュージックの完成された世界に落とし込んでいくかという部分に注力する。すなわちそれは、極めてマニアックなディテールへのこだわりにより唯一無二の作品を生み出すということだ。

ここに代表すべきは、今年は記念すべきリリース40周年の年となる『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』のレコーディング時、ヴォーカルスタイルに苦悩する佐野元春へ「バディ・ホリーのようにもっと自由に歌ったほうがいい」とアドヴァイスした大瀧
詠一、そしてアナーキーやブルーハーツのファンと公言し、舘ひろしが在籍していたことでも知られるクールスRCのアルバムプロデュースも担った山下達郎だろう。

彼らは各々の理論でとことんディテールにこだわりながらロックンロールの妙味を隠し味としてポップミュージックに落とし込み、数々の名盤を世に放ってきた。

一流のエンターティナーへ! 深みを増したシンガー鈴木雅之 の魅力


前置きが長くなってしまったが、鈴木雅之もまた、彼らと同じようにロックンロールの熱狂を知り尽くしながら、ソウルミュージックへの敬愛の念を自らのモチベーションとし、ポップミュージックへと昇華させたシンガーだ。

東京に隣接する工業地帯、大森。このダウンタウンの不良たちによって結成されたシャネルズは、ナンパにケンカ、バイクに明け暮れながらコーラスの腕に磨きをかけ、コンテストで勝ち抜いたストリート上がりのドゥーワップグループだった。

彼らの転機は、シャネルズからラッツ&スターに改名後、大瀧詠一のプロデュース、アンディ・ウォーホルのジャケットワークで世に放った『SOUL VACATION』だった。このアルバムに収録され、松本隆×大瀧詠一のソングライティングでスマッシュヒットを記録した「Tシャツに口紅」は、そんな不良たちが、極上のポップミュージックを吸収し、一流のエンターティナーとして堂々と勝負した “転身” の1曲だったと言えよう。

言うまでもなく、ロックンロールの熱狂を内包した鈴木雅之のヴォーカルは深みを増し、不良はジェントルマンへと成長していった。当時シャネルズのファンだった僕はそこに一抹の淋しさを感じたのも事実だが、それと同時にエンタテインメントとして確立した音楽への親しみ方が少しだけ理解できたような気がした。

山下達郎もプロデュース、鈴木雅之の傑作アルバム「Radio Days」


鈴木は1986年のソロデビュー以降も、飽くなき探究心とシンガーとしての矜持を併せ持ち、自らの存在を深化させてゆく。同時により幅広い層に自分の音楽スタイルをどのように効果的に響かせるかにも注力していたと思う。

そんな鈴木が1988年、山下達郎が参加した傑作セカンドアルバム『Radio Days』をリリースする。満を持しての山下達郎プロデュースと言ったところだろうか。達郎の気合の入れ方も相当のものだったようで、当初は、レコードの片面分をプロデュースする予定だったものを、こだわりに妥協を許さない職人の性は予算と時間を圧迫させた。

最終的には「おやすみロージー」「Guilty」「Misty Mauve」という冒頭3曲のプロデュースとなった。しかし、アルバム全体のバランスも絶妙で、大澤誉志幸がプロデュースしたファーストアルバムで感じたポピュラリティとは違った黒人音楽への憧憬、メロウなグルーヴが全編に香り立つ。

確かにアーバンな世界である。仕掛けられた達郎のドゥーワップへのオマージュがたまらない。そんなメロウなラブソングの中に確かに感じるゴツゴツとした無頼漢のような印象。ソロデビューから約2年という短い月日の中で確立された完成度の高さの中に隠されたスパイスは、やはり熱狂を知り尽くした者たちの妙味と言わざる得ない。

唯一無二の色彩を醸し、多くの人を魅了する鈴木雅之


その後レイ・パーカーJr.、小田和正と、時にはシャネルズという出自から考えてみれば畑違いのアーティストがプロデュースを担い、より幅広い層に響くクオリティの高い楽曲をクリエイトしていく。

近年の活動に至っては、シンガーとしての独自性を全面に打ち出しながらも様々なカバーソングに挑戦する鈴木雅之。ドゥーワップ、ソウルミュージックをルーツに持つ鈴木の歌声は、一見癖の強さを感じずにいられないが、オリジナル楽曲の持つ普遍的な魅力を損なうことなく、唯一無二の色彩を醸し出している。

ロックンロールの熱狂を知り尽くしたシンガーは、様々な音楽的解釈を飲み込み超一流のエンターティナーとして、令和の今も多くの人を魅了し続けている。

2021年紅白歌合戦で実感! 鈴木雅之の“ロックンロールの熱狂”


ロック自体がマイノリティになりつつある令和の時代に、この熱狂を飲み込み、心の奥底に忍ばせながら活躍を続けるアーティストが音楽の深みを教え続けてくれている。

2021年の紅白歌合戦で、シャネルズ時代からの盟友、桑野信義、佐藤善雄と共にステージに立ち披露したラッツ&スター時代の名曲「め組のひと」は、当時のオリジナルより若干BPMを落とし、歌声のすばらしさを際立たせていたが、盟友たちと醸し出すグルーヴは、普段とは幾分違っていた。そこにシャネルズ、ラッツ時代の面影を垣間見れたことも確かなこと。

―― そう。鈴木雅之の心に忍ぶロックンロールの熱狂こそが、エンターテイナーとして今もステージに立つモチベーションなのだろう。

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2022.02.03
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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