エロには興味ねーよ… と硬派ぶってロックを聴き続けても、ロックの方からエロを提示してくるのはよくあること。
で、これまで何度かここに書かせてもらったとおり、そういうアルバムや曲ほど、煩悩まみれの高校生のハートには焼き付きがよかったりする。そんなわけで、今回もエロ話です、ゴメンナサイ。
「このジャケット、エロいんだよね」
高校一年の秋のある日、後ろの席だった洋楽仲間のタカハシ君が、そう言って最近買ったというレコードを貸してくれた。
ケイト・ブッシュの『ドリーミング』。ジャケットの彼女は今にもキスをしそうな態勢、その舌のうえには何かが乗っている。「鍵、だよ」とタカハシ君。
鍵、ですか…。
家に帰って聴いてみて、歌詞を読んで、なんとなく理解した。『フーディニ』という曲の中に、「キスであなたに鍵を渡して、あなたの舌を感じる~私の唇に残ったあなたの唾液」というフレーズ。
うーん、これはエロいかも…… きっと、自分ちの家の鍵を渡して男を招き入れ、あんなことやこんなことをする女性の歌なのだろうと当時は勝手に解釈していた。
もちろん、ジャケットで背中を向けている、鎖で縛られた男が魔術師ハリー・フーディニであること、鍵がその鎖をほどくためのものであることも知らなかった。
十代の妄想は、やたらと暴走しがちだ。
それはともかく、このアルバム、今まで聴いたことのないエキセントリックな音が響いてきた。
オープニングの『サット・イン・ユア・ラップ』からして凄い。せきたてるようなリズム。1オクターブの音程の急上昇をまじえたシャウトのようなボーカル。
これには狂気じみたものを感じたし、怖くなった。さらに、このアルバムではミキサーの72トラック中、半分の36トラックを、ケイトは自分のボーカル録りに当てたというから、狂った発想というべきか。
そんな凄みも手伝って、ジャケットのキス寸前写真も壮絶さが感じられ、「大人の世界はエロいけどコワい」と思うようになった。
夜にひとりで『サット・イン・ユア・ラップ』を聴くのは、しばらくはためらわれた。単に妄想のせい? いやいや、そもそもケイトのアルバムは『ドリーミング』にかぎらず、聴き手のイマジネーションを刺激するものだから。
自分やタカハシ君の当時のエロ発想だって許されるはずだ……
と弁解しておく。
2017.05.16
YouTube / Silent Beat HD
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