5人時代のオフコース最後のアルバム『NEXT SOUND TRACK』。2曲の新曲は小田和正と鈴木康博が5人のオフコースが終わるにあたりその心境を歌ったものだった。
小田の「NEXTのテーマ~僕等がいた~」に続きB面2曲め、アルバム8曲めに登場するのが鈴木の「流れゆく時の中で」である。
今僕は 流れゆく時の
静かな音を 聞いてる
鮮やかな昨日と 何も見えない明日
心に思い比べながら
Aメロが2つ続くが早くも歌詞に『行く末=未来』が出てくる。「僕等がいた」と比べても早い。
歌うことは 自分を見つめていくこと
僕の勇気と涙 確かめること
Bメロの部分のこの歌詞はオフコース脱退を決めていた鈴木の確たる決意表明であろう。見つめるため、確かめるためにはオフコースに残ることは出来なかったのだ。
通り過ぎた あの日が輝く
君との確かな 思い出として
Aメロに戻りようやく『来し方=過去』が顧みられる。君とは小田のことだろう。「僕等がいた」で小田が鈴木に「ふたり」と呼びかけたように鈴木も二人称で小田に呼びかける。「確かな」という優しい言葉を添えて。しかしこの箇所を最後に、1コーラスだけで鈴木は振り返ることを止めてしまう。
めざすものは 今も変りはしない
信じるままに 僕は追いかけてゆくよ
新しい波は いくつもいくつも
寄せては返し 消えてく
流れゆく この時の中に
僕は何を残して ゆけるだろう
間奏明けはBメロから始まり決意表明が歌われる。そしてAメロが2回繰り返され、最後には行く末への想いが歌われ曲は静かに終わる。最早来し方には全く触れられていない。
「流れゆく時の中で」は、オフコースの1980年の傑作『We are』の中の鈴木康博の名バラード「いくつもの星の下で」を彷彿とさせる美しいメロディーを有している。しかしこの曲にはオフコースらしいコーラスが無く、録音も鈴木単独で行われている様に聞こえる。
オフコースを脱退する鈴木としてはバンドを感じさせないこの様なサウンドが当然だったのかもしれない。この点でもバンドを感じさせる小田和正の「NEXTのテーマ~僕等がいた」とは対照的である。
小田と鈴木は互いに宛てながらも、小田は「僕等がいた」で来し方を、鈴木は「流れゆく時の中で」で行く末を歌った。これがこの時点でのオフコースに対しての二人の答えだったのであろう。
1982年6月30日の5人オフコースの武道館最終公演で「言葉にできない」で涙を見せた小田に対し、鈴木は終始淡々としていた。その違いもこの2曲に表れていると言えるだろう。
繰り返しになるが、バンドの “解散” にあたりこれほど真摯な曲による締めくくり方を僕は知らない。
私的な想いが強いからなのか、この2曲はベスト盤にも収められることなく、このアルバムでしか聴くことは出来ない。
「僕等がいた」は1988~89年の4人オフコースの解散ツアーで歌われて以降、長い間小田和正のソロツアーでも歌われなかった。2004年にTBSの小田のレギュラー番組『風のようにうたが流れていた』で15年振りに、ソロでは初めて披露。その後2008年にツアーでも取り上げられた。
そして「流れゆく時の中で」も同じ2008年に、鈴木康博の還暦記念ライヴで漸く披露された。
それから8年後の昨年2016年の小田のツアー “KAZUMASA ODA TOUR 2016 君住む街へ” の途中から「僕等がいた」はセットリストに組み込まれた。このツアーは昨年リリースされたオールタイムベスト『あの日 あの時』を受けてのツアーでこのベストからの曲がほぼ全て。このべストにも収められなかった「僕等がいた」のセトリ入りは異例であった。
のみならず毎年恒例のTBS『クリスマスの約束』の最後に歌われたのもこの曲であった。
アルバムチャートで5週1位を記録し、5人時代のオフコースの有終の美を飾った『NEXT SOUND TRACK』はベスト盤とライヴ盤、インスト盤の性格をも兼ね備えた名作である。僕が初めて買ったオフコースのアルバムだが、30年以上経った今でも飽きることは無い。このアルバムでしか聞けない小田と鈴木の新曲2曲が重要な役割を果たしていることは改めて言うまでもないだろう。
歌詞引用:
流れゆく時の中で / オフコース
2017.09.22
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