ニルヴァーナ「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」に感じた戸惑い
1991年のグランジやオルタナティブロックの名盤について、リマインダーでコラムをいくつか書いてきたが、今回はその象徴的な作品であるニルヴァーナのセカンドアルバム『ネヴァーマインド』を取り上げてみたい。
ところで皆さんは「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」を初めて聴いた時、どう思いました? 私は、「こいつら実はハードロックバンドなのに、今、グランジが来てるからってそれっぽくやってるんじゃねーの?」とちょっと懐疑的に感じたことを覚えている。
もともと、中学生でニューウェイブにハマり、後追いでパンクを聴き、同時に80年代メタルブームにもうつつを抜かしていた私は、“パンク気質だけれどハードロックも大好き、でも、商業主義的な音楽はダサい” と思っている血気盛んなお年頃だった。そんなわけで、「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」を聴いた時の第一印象は、ハードロックなの? グランジなの? はたまた、その中間なんてあるの? …という、ちょっとした戸惑いを感じたのだ。
おそらく、私にこうした印象を抱かせたのは、『ネヴァーマインド』がそれまでのグランジ・オルタナ系の作品と比べて圧倒的に音の抜けが良く、サウンドプロダクションもカッチリとしていたからだろう。
カート・コバーンが獲得したパンクの先鋭性とハードロックのダイナミズム
しかし、アルバムを聴きこむうちにその圧倒的なクオリティの高さとカッコ良さにハードロックなのか? グランジなのか? なんてことはどうでもよくなってしまったのだ。
実際にカート・コバーンはブラック・サバスやレッド・ツェッペリン、エアロスミスを聴いて育ち、思春期に入ってからパンクロックに興味を抱き音楽始めたそうだ。また、初めて買ったギターでAC/DCのコピーに勤しんでいたという。このようにカートの中ではパンクもハードロックも自然に同居していたのだと思う。
一方、オルタナやグランジなんて知る前の高校生の頃の私は、クラスメイトと音楽の話をするのが何よりの楽しみだった。その頃、教室ではパンク好きとハードロック好きの間では小さなつばぜり合いが展開されていた。しかし、教室での最大勢力は日本のバンドブームのファンであったため、バンドブームに対抗するときばかりはパンクとハードロックの抗争は休戦し、洋楽ロック連合軍が編成され、最大勢力のバンドブーム軍に対抗していたのだ。
私たち日本人とは違い、カート・コバーンはパンクとハードロックが相反するものだという意識は持っていなかったのだろうけれど、商業主義的な80年代のスタジアムロックへの嫌悪感はインタビューでもよく語っていた。
カートは、80年代のスタジアムロックという最大勢力に抗うためにパンクの先鋭性とハードロックのダイナミズムのいいとこどりを無意識のうちに獲得していたのかもしれない。
そう考えると、私が高校時代にバンドブームという大メジャーに対抗するために画策したパンクとハードロックの連合も先駆的な人事工作だったのだと胸を張って威張りたいものである!
「ネヴァーマインド」を通じてニルヴァーナが教えてくれたこと
あれ? 脱線した話をもとにもどそう。
さて、『ネヴァーマインド』の大成功によって、あれだけ嫌悪していたショウビズの渦中に飲み込まれてしまったカート・コバーン。そして、その後の悲劇については皆さんがよく知るところだろう。
本当に月並みな言い方しかできないが、カートが生きていたらどんな音楽を聴かせてくれたのかと思うと残念でならない。
また、古いハードロックと同時にカートが思春期に聴いていた80年代アメリカのアンダーグラウンドシーンの音楽にも積極的に触れる機会を私に与えてくれた。こうした音楽は、当時はろくに日本盤も出ていなかったし、音楽雑誌にも取り上げられるアーティストは限られていたので、ニルヴァーナをキッカケに知ることができたアーティストも数多く、インディーロック=イギリスという、それまでの私の狭い価値観を打破してくれたのだ。
このようにニルヴァーナは私にパンクもハードロックもインディーロックも同じ価値観で聴いても全然問題ないんだよということを教えてくれた。そしてパンクもハードロックもどっちも好きな私を肯定してくれたのだ。今にしてみれば当たり前のことなのだけれど、パンクとハードロックは相容れないという固定観念をぶち壊してくれた一撃はたまらなく痛快で、よく分からないけど「ざまーみろ!」と叫びたいほど嬉しかった。
70年代ロック好きをカミングアウトできるキッカケに!
80年代、ブラック・サバスやAC/DCが好きなことを公言することは私のティーン・スピリット的にはちょっと恥ずかしいというか、ダサいことだった。しかし、ニルヴァーナのブレイク以降、こうしたバンドも凄くカッコいいと胸を張って言えるようになったのだ。
ニルヴァーナは90年代以降の新たなロックの流れや価値観を提示したバンドというのが、世間での評価なのだろうけれど、私にとっては70年代ロックをもっと知り、大好きになるキッカケを与えてくれたバンドだ。
私の音楽好き人生を振り返ると、ニルヴァーナとの出会いは音楽に対する自由な姿勢を育んでくれたことと同時に、音楽の趣味の幅を大きく拡げてくれたバンドだった。
もう、ニルヴァーナは存在しないし、再結成もあり得ないけれど、彼らから受けたオルタナティブなアティテュードは今後も音楽と接していく上で私の指針になっていくことは間違いない。
そして、クローゼットの奥にしまい込んであるであろう30年前のネルシャツを引っ張り出して着てみようかなとも考えてみているのだが、その前にダイエットが必要なのが悩みのタネなのだ…。
追記:
カート・コバーンが亡くなって、28年になる。
そんな2022年、カートとニルヴァーナを支えたデイヴ・グロール率いるフー・ファイターズのドラマー=テイラー・ホーキンスが3月25日に亡くなった。まだ、50歳、私と同じ年齢だ。
フー・ファイターズは、デイヴ・グロールのソロ・プロジェクトとしてスタートしたが、次第にバンドとしてまとまっていった。
ライブにおいて、テイラーは時にはボーカリストになり、デイヴ・グロールがドラムセットに座ることもあった。そこで披露されるパフォーマンスはとても楽しいもので、ファンからも愛されていた。
カートの死から28年。
デイヴは、再び仲間を失うことになってしまった。
カートの死後、アメリカのロックシーンを牽引したデイヴ・グロールのことだから、今回も立ち直り、二人の分まで思い切りロックしてくれることを願っている。
そして、亡くなってしまったカートとテイラーもそう願っていることだろう。
※2021年9月24日に掲載された記事をアップデート
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2022.04.05