映画『時をかける少女』では、儚い恋心に胸を痛める少女を演じ、『愛情物語』では、清楚で可憐な美しさに磨きをかけた。原田知世は、そこにいるだけで美しく、ちょっと笑顔を見せただけでスクリーンに花を咲かせる。
プロデューサーでもある角川春樹監督が『フラッシュダンス』を意識して作り上げたミュージカル作品の中で、彼女が踊る姿が思いのほか様になっているのを観て、私は驚きを隠せなかった。
人の成長速度を上げるのは簡単なことではない。やはり経験を積ませることが第一だと思えるが、育ての親という存在がいることは大きい。原田知世でいえば、それは角川春樹氏ということになる。
角川氏はまず彼女にミュージカルの舞台を踏ませた。『マクドナルドミュージカル・あしながおじさん』である。『時をかける少女』のキャンペーンに追われながら、原田はダンスレッスンに邁進していく。
場を踏ませ、“ダンサー原田知世” をお目見えさせるとすぐに、今度はミュージカル映画『愛情物語』の主演である。角川氏は、制作発表の場で「私は大林さん(大林宣彦監督)のようにやさしくはない! 原田知世という存在を徹頭徹尾叩きのめす。」と言い放つ。そして、一流のブロードウェイダンサーをかき集めると、彼女をその真っ只中に放り込んだ。女優を育てるということが、いかに大変なことかこの映画を観ているとよくわかる。
たとえ才能があったとしても、本人の力だけでどれほどのことができるだろうか。花には水を与えなければならない。愛情という水と肥料を与えて育てることがどれだけ大切なことか。
そして、原田知世はその期待に応えて、急成長を果たす。
デビュー作であるテレビドラマ『セーラー服と機関銃』のときもそうだった。まるで学芸会のように稚拙だった演技が、回が進むにつれて加速度的に上手くなっていくのが素人目にもよくわかった。失敗するかもしれない興業の世界ではなく、まずテレビドラマで知名度をあげる。続く、『ねらわれた学園』で主役を演じていた頃には、現場にもすっかり慣れていたのではないだろうか。ばっさりと髪を切り、彼女が自然な笑顔をみせたときの透明感は、まるでオードリー・ヘップバーンのようだった。
きみはダンデライオン
傷ついた日々は彼に出逢うための
そうよ運命が用意してくれた
大切なレッスン
今素敵なレディーになる
(ダンデライオン〜遅咲きのたんぽぽ より)
この曲は、角川氏から彼女へのプレゼントだったのだろう。ユーミンが作詞した言葉に込められた思いはそのまま、角川氏からのメッセージのようにみえる。
一人の少女という花を美しく咲かせるために、キレイな水を与える あしながおじさん。最近、そんな話をあまり聞かなくなった。スター不在といわれる現代。それは言い換えれば、花を愛でるように人を育てる、そんな大人がいなくなったということなのではないだろうか。
2017.05.19
YouTube / KadokawaPicturesJP
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