TVドラマ「ど根性ガエル」(2015年)で薬師丸ひろ子さん演じる母親を観た時、不思議と自分の母親とイメージが被ってしまった。
私はかつて茶の間で「ど根性ガエル」のアニメにかじりついていた小学生。CMの間に台所の方を眺めると夕飯を作る母の背中がいつもそこにあった。記憶の回路が誤動作を起こし、特別な感慨が生まれたのは必然だったのかもしれない。“薬師丸母ちゃん” というフィルターを通して、今はもういない母親と再びテレビの中で出会ってしまったような錯覚。思い起こせば、薬師丸さんにはいつも母親の匂いが付きまとっている。
「セーラー服と機関銃」(1981年)では、死んだ父親のために「カスバの女」を歌う女子高生を演じる。そして同級生にこう語り出す。「(父にとって)私は母であり、妻であり、娘であった」と。遺骨を抱いてエレベーターに乗り、不釣り合いな赤い口紅を拭うと魔法は解けて母親の顔からただの少女へと戻るである。
父親の遠戚の遺言で仕方なくヤクザの組長になった後もその母性はより明確になっていく。傷を負った子分を手当てするシーン。子分は包帯を巻かれながら言う。「組長っていい匂いですね… お袋の匂いがします。いい匂いです。」感情が高ぶってつい抱きしめてしまう子分をやさしく抱きしめ返す姿はまるで聖母のようだった。
また『Woman~Wの悲劇より』を作曲したユーミンが「(薬師丸さんの声は)冒しがたい気品というか、水晶のような硬質な透明感がある」とFMで語っていたが、私は加えて彼女のクリスタルボイスは「結晶化した純粋な母性」を表していると思う。
薬師丸さんが「Wの悲劇」(1984年)での燃え尽きるような演技を最後に角川映画を卒業した時に感じた寂しさは、恋人がいなくなるというよりも家族が一人いなくなるような感覚。姉が他の家に嫁いだ後の寂しさとは多分こういうものなのだろう… あの時、私はそんなことを考えていたように思う。
Woman~Wの悲劇より / 薬師丸ひろ子
作詞:松本隆
作曲:呉田軽穂(松任谷由実)
編曲:松任谷正隆
発売日:1984年(昭和59年)10月24日
2016.06.26
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