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ニュー・オーダーとイアン・カーティスについてもう一度考えてみる

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photo:Warner Music Japan  

私が初めてニュー・オーダーを聴いたのは高校1年生の時でした。当時『rockin’on』で特集されていた新作『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』(2005年)がやたら絶賛されていたので、レンタルしてきて、今となっては過去の産物と化した MD に録音して聴きました。

とはいえ初めて聞くこのバンド名、ロックバンドにしてはやたら地味だし意味不明、アルバムのアートワークも白地に “No” とだけ書かれた、何の捻りもないこれまた果てしなく地味なジャケット。

というわけで全然ワクワクしないまま聴いてみたものの、肝心の内容のほうも、当時ガキな感性しかもっていなかった自分にはやっぱり地味でしかなく(笑)。

その頃80’s エレポップ勢で特にハマっていたデュラン・デュランのキラキラさとか、ワム!の炸裂したアホッぽさを期待していた自分にはヤケに高揚感の無いシンセポップにしか聴こえず、大人はこんな面白くない音楽で騒いでいるのか。という感想を抱いたくらいで、一回聴いたまま部屋の MD ボックスに永久に葬られたのであります。

あれ以来あの MD は見ていないのでおそらく実家を出た後に母親に捨てられてしまったのだろう… 我が音楽史における反省点である。

とはいえ、思うに音楽との出会いにしたって、重要なのはそのタイミングだと思うのですよ。きっとみなさんも経験がありますよね、子供の頃聴いていた音楽を、大人になってから聴くと感じ方が変わる現象。例えばあの頃はダサかったけど、今ならなんか許せる… みたいな。

でも、当時の私にはまだニュー・オーダーはダサかったんですよ(偉そう…)。友達もなく鬱屈とした高校生活を送っていた私は、大人しく小ぎれいなシンセポップよりも、退屈な毎日をブチ壊してくれる、もっとデカダンでダークなヒーローを必要としてたわけです。

そんな痛々しい女子高生に救いの手を差し伸べてくれた音楽が70~80年代のポストパンクだったのであります。中でもヒーローバンドのひとつがもちろん、ジョイ・ディヴィジョン。パンクのように破壊的なだけじゃない、知性と陰鬱さを備えたイアン・カーティスの詞世界とバリトンボイス。それにただ開放弦を鳴らしているだけじゃない(笑)、ピーター・フックのジワジワと暴力的なベースラインなんてまさしくデカダンス。まさかあのチャラチャラしたニュー・オーダーの前身バンドであることは当時知る由もなく(笑)。

こうしてジョイ・ディヴィジョンにハマった一通りの中二病期を終えた私は、結局順当な流れでもう一度ニュー・オーダーを聴き直したのであります。アルバムを発表するごとにダンサブルにポップ化していく音楽とジョイ・ディヴィジョンを比較して嘆くなんてこともなかった。

よくジョン・ライドンがパブリック・イメージ・リミテッド(PIL)になってポップになったのを悲しむピストルズファンがいるけど、そもそもおかしい。だってそれとこれは別物で、新しく変化していく音楽性は進取の気性の現れだと思うんですよ。その精神性こそが新しいカルチャーを生み出していくのであって、そこに私はパンクを感じるのです。

特に『権力の美学(Power,Corruption & Lies)』以降のニュー・オーダーの音楽性に、ジョイ・ディヴィジョンの影はもうありません。しかし、イアン・カーティスを失った喪失感が間違いなく今のニュー・オーダーを作ったのだと思わせる曲があるんですね。

言わずと知れた彼らの代表曲「パーフェクト・キス」。多幸感あふれるメロディーラインで新宿系ディスコでもよくかかるダンスチューン。それだけにてっきり最初は青春っぽいラブソングなのかと思っていたんですけど、歌詞をよくよく見ると全篇を通して “死” の匂いがするのです。


 Then I knew it from the start
 This friend of mine
 would fall apart
 Pretending not to see his gun
 I said let's go out
 and have some fun

 その時からわかってたんだ
 そいつがこれから精神的に
 ボロボロになるっていうことが
 なのにそいつの「銃」なんて
 見えてないようなフリをして
 じゃあ出かけて楽しもう
 そんな風に言ったんだ


これは実際はヴォーカルのバーナード・サムナー(以下バーニー)がアメリカである男の家に居候した時の体験がモデルになっているらしいです。その時について彼はこう語っております。


「… 彼がベッドの下から銃を取り出してきた。それは彼の武器だった。そのあとで僕らは一緒に出掛けて素晴らしい夜を過ごしたんだ」


なんとも支離滅裂だけど、とりあえずハッピーエンドでよかった逸話。しかし「パーフェクト・キス」には12インチでしか歌われない歌詞というのが存在します。そこでの結末がこんな感じ。


 When you are alone at night
 You search yourself
 for all the things
 That you believe are right
 If you give it all away
 You throw away your
 only chance to be here today
 Then a fight breaks out
 on your street
 You lose another broken heart
 in a land of meat
 My friend, he took
 his final breath
 Now I know the perfect kiss
 is the kiss of death

 夜にひとりぼっちだと
 自分で探すものなんだ
 正しいと思うものを
 なにもかもすっかり諦めてしまったら
 今日ここにいるたった
 ひとつのチャンスまで
 捨ててしまうことになる
 すると近くでケンカが始まって
 欲望の溢れる世界の中で傷ついて
 また落ち込むんだよなあ,
 あいつは息を引き取ったよ
 今ならわかる「最高のキス」ってヤツは
 命取りになるものなんだ


―― どうやら結局は死を選ぶ男の話らしい。

これはアルバムヴァージョンや7インチでは歌われない歌詞なので、「パーフェクト・キス」が何なのかも、悲しいことを歌っているのかどうかも12インチを聴かないとサッパリ分からないのがニュー・オーダーの憎いところ。

実際に「歌詞を書くときは抽象的なイメージを言葉で描写していく」のを好むというバーニー、まさにこの曲においても抽象的な “自殺” のイメージを仄めかしているがゆえに、ファンの間ではイアン・カーティスの死について歌っているともっぱら推測されております。

と、これを踏まえたうえで、先日私が読んだピーター・フックのインタビューでイアン・カーティスの死について赤裸々に語ったものがこの曲を思い起こさせるものだったので少し紹介しようと思います。

「あとで振り返って色々気づくことがあるんだ。でも、その渦中にあるときに不穏な予兆を察知するのは難しいものでね。…(中略)…(イアンは)自分が抱えている葛藤を隠すことに長けていた。イアンはいつも自分の力で立ち直って “オッケー、心配はいらないよ、さあ取り掛かろう!” って感じだった。だから俺たちは、彼に何が起きているのか分からないでいた。すごく悲しいことなんだけどね」


不安な様子に気づけなかった戸惑いと罪悪感のようなもの、見て見ぬふりをした “銃”… やっぱりイアンの影がちらついてしまうのは単純なファン心理だけでしょうか?

しかしあくまで曲のイメージは聴き手に委ねられるべきもの。兎にも角にも、こうして想像力を刺激してくれる、『24アワー・パーティー・ピープル』が作り出すポップソングからにじみ出る切なさ、彼らにしか醸せない独特の光と影が現れた、これぞニュー・オーダーの真骨頂だと思わせてくれる名曲。それが「パーフェクト・キス」なのであります。

ジョナサン・デミが監督した本作の MV では、映し出されるスタジオの壁にジョイ・ディヴィジョンのポスターが貼られており、こちらもミステリーを掻き立てる演出。

この MV で扱われているのはもちろん12インチヴァージョンのほう。バーニーの音痴っぷりからスティーヴン・モリスのおぼつかないシンセプレイなど、何から何まで下手くそな彼らのセッションが約10分に渡って映し出されます。

ところで、よくモテる女は「俺でもいけそう」と思わせる隙があるとか言われるけど、個人的にはニュー・オーダーがまさにそれなんである。彼らの下手くそプレイはいつだって「俺でも演れそう!」と勘違いさせてくれる。なんて夢のあるバンドなんだ。そんなことを思いつつ MV でニンマリしてみるのもまた一興。

ちなみに12インチは CD 化されておらず、当時のレコードを探すか MV で見るしか方法がないので、私はバッチリ、レコードを入手しました。B面には続編的な「キス・オブ・デス」、「パーフェクト・ピット」も収録されてるので断然レコードを手元に置いておくのがオススメです。

2019.08.21
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  YouTube / neworder


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