さて今回は、「80年代音楽解体新書」という元々のコンセプトに戻り、分析的なネタをご披露したいと思います。
今回のネタに、あえてそれっぽいタイトルを付ければ、「日本におけるカノン進行の源流を探る」というものです。少し前の原稿でご披露した「sus4イントロの源流を探る」に続いての「源流モノ」になります。
そもそもこの「カノン進行」という言葉が世に広まったのは、BS12の番組『ザ・カセットテープ・ミュージック』で私も共演させていただいているマキタスポーツ氏の著書『すべてのJ-POPはパクリである。』(扶桑社)がきっかけだと思います。
この本で「カノン進行をベースに作られている主な楽曲」として紹介されているのは、以下のような曲です(抜粋)。
『クリスマス・イブ』山下達郎
『ひこうき雲』荒井由実
『大阪で生まれた女』BORO
『愛は勝つ』KAN
『それが大事』大事MANブラザーズバンド
『負けないで』ZARD
『TOMORROW』岡本真夜
このリストから彷彿とされるのは、以下のような時代の流れです。
1. 荒井由実『ひこうき雲』(73年)が、日本においての、ごくごく初期の「カノン進行」楽曲である。
2. 山下達郎『クリスマス・イブ』(83年)のジワジワ広がった大ヒットが、「カノン進行」の浸透を決定付けた。
3. そして90年代初頭、KAN『愛は勝つ』(90年)に代表される「がんばろう系」Jポップによって、「カノン進行」は爆発的なブームとなる。
さて、ここで前後しますが、そもそも「カノン」とは何なのか。これは厳密には、ある作曲法を意味する音楽用語なのですが、ここでは作曲法ではなく、17世紀に作られた、未だに人気の高いバロック曲=『パッヘルベルのカノン』のこととします。そして「カノン進行」とは、あの曲の(ような)コード進行とします。
『パッヘルベルのカノン』と言って、お分かりにならない方は、先の山下達郎『クリスマス・イブ』の間奏の部分をお聴きください。あの荘厳なア・カペラで再現されているのが、何を隠そう『パッヘルベルのカノン』です。
余談ですがこの曲、『クリスマス・イブ』もさることながら、お風呂の給湯器でよく使われていますね。かくいう我が家も、お湯が沸いたときに『パッヘルベルのカノン』が4小節流れます。まぁ、給湯器によって『パッヘルベルのカノン』が広まったというより、逆に、給湯器で使われるくらい、『パッヘルベルのカノン』の人気があったということでしょう。
では、「カノン進行」とは、どのようなコード進行なのか。最も典型的なコード進行は、キーをCとした場合、このようなものです。
【C】→【Em/B】→【Am】→【Em/G】→【F】→【C/E】→【Dm】→【G】
音楽的特徴は、
■コードを8つも使った、大きな循環コードである。
■ベースが ド→シ→ラ→ソ→ファ→ミ→レ と1つずつ下がっていく。
となります。この2点より醸し出されるのは、少々抽象的ですが、「ゆっくりゆっくり心が平穏になっていくような感覚」です。『パッヘルベルのカノン』は、そもそもが教会音楽なので、キリスト教の教義と、その「心が平穏になっていくような感覚」がリンクしていたのかも知れません。
いよいよ歴史分析に入ります。
まず前提として、「カノン進行」を緩く捉えます。上のコード進行を、そのまま直接的に使っているものは、実はかなり少なく、いろいろなバリエーションを施すことによって、個性を主張しています。そこで、以下のように「緩い」定義を立てます。
1. 循環コードである。
2. その循環コードの冒頭が以下のいずれかである(キーをCとした場合)。
【C】→【Em】(/B)→【Am】
【C】→【G】(/B)→【Am】
3. 鍵盤楽器(ピアノ、オルガン他)基調の編曲である。
4. 何となく「敬虔」な感じがする。
実に「緩い」定義ですが、これらの定義を複数満たすほど「カノン進行らしいカノン進行」になるということです。
…… と、前置きだけで字数が多くなったので、具体的な歴史分析は、次回に委ねます。ただし次回のイントロだけ置いておくと、私の見たところでは、「カノン進行」を日本で普及させるキッカケとなった洋楽が4曲あります。それは、
『青い影(A Whiter Shade of Pale)』プロコル・ハルム(67年)
『男が女を愛する時(When a Man Loves a Woman)』パーシー・スレッジ(66年)
『レット・イット・ビー』ザ・ビートルズ(70年)
…… です。あ、1つ足りないって?
いやいや、残り1つはもちろん『パッヘルベルのカノン』じゃないですか。
2018.04.16
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