6月21日

シティポップを彩ったギタリスト、80年代の松原正樹ギター10選

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松原正樹のシティポップにおけるギタープレイをセレクト


2016年2月に帰天された、松原正樹さんのお誕生日ということで、80年代シティポップ10選を、という話を突然いただいた。スタジオミュージシャンとして1万曲のレコーディングに参加したと言われているが、必ずしもクレジットが残っているわけでもないので、今回はある程度クレジットとして残っているものから印象的なギタープレイを紹介することにする。どこまでをシティポップとするかは微妙だが、印象に残る作品、編曲家としての松原正樹さんがクレジットされている作品等を中心に選んでみた。

歌謡曲においては一聴して印象的なギタープレイが多くみられるが、シティポップとカテゴライズされる曲では必ずしもそうではなく、サウンドを彩るリズム楽器、ハーモニーのひとつとしての側面も強い。そのあたりが、「一億人を振り向かせる」(©スージー鈴木)歌謡曲と、「わかるやつだけわかればいい」的な部分を持ち合わせているシティポップとの違いだろう。花火に喩えると歌謡曲は打ち上げ花火、シティポップ系は線香花火だろうか。

作曲家の林哲司さんは2016年にデイリースポーツオンラインにてこのように語っている。

「松原さんはグルーブ感がすごくいいんです。その曲の中で繰り返されるフレーズのリフのノリ、あるいはギタリストにとっての音色の1つであるディストーションのかかり具合とかが素晴らしかった。また、本人の感性に任せるアドリブにおいては、アレンジャーをうならせるいいメロディーを取ってくれる。まさに80年代のAORのサウンドを出すことにおいて、エコー、コーラス、ディレイのブレンドがものすごくうまくて、コードを弾いただけでも世界観が出ていました。」
(※『コード弾くだけで世界観の松原正樹さん ヒットメーカー林哲司のシャラララ人生 芸能』デイリースポーツ online)

松原正樹さんのシティポップにおけるギタープレイといえば、松原みき「真夜中のドア」(1979年)のアウトロの色っぽさに触れないわけにはいかないが、今回は80年代ということで殿堂入りとしておこう。1979年といえばちょうどPARACHUTEを結成したころだ。

というわけで1980年以降の作品から。A面はResort Drive Side、B面はマジックアワーに何か呑みながらという雰囲気で選んでみた。


【Side-A: Resort Drive Side】

松任谷由実 / 真珠のピアス(1982年)


アルバム『PEARL PIERCE』に収録。
松原正樹さんのギターでシティポップ、といえばなんといってもユーミン。松原さんのギターの存在感をこれでもかと見せつける曲は数あれど、イントロのカッティングギターの音で世界観をつくり、歌に誘い込まれてからも世界観を支配するギターが響く。たっぷり聴かせる間奏のギターソロも素晴らしい。アルバム 『PEARL PIERCE』では曲の中盤からだんだん存在感を増し、アウトロでは完全に主役になる「Dang-Dang」も感情を揺さぶるギターが印象に残る。

ブレッド&バター / JAPANESE WOMAN(1980年)


アルバム『Monday Morning』に収録。
ほのかにレゲエな匂いがするグルーヴィーな一曲。茅ヶ崎の風景を想い起こす。間奏のメロディアスなギターが松原さんらしい。編曲は松原さん名義。ギターとは関係ないが、いったいこの曲では何人の女性の名前が囁かれているのだろう。途中まで数えたが両手を超えたところで諦めた。

永尾美代子 / 芦屋セーリング・スポット(1981年)




アルバム『美代子・リバージュ』に収録。
湘南から、一転して関西へ。西宮の大手前女子大学に通う女子大生だった永尾美代子さんがコッキーポップ関連で1枚だけ出したアルバム。イントロ、間奏やアウトロのギターの音色がとても気持ちいい。そういえば芦屋と西宮の境目あたりには昔からヨットハーバーがあったが、いまは日本初のプライベートバース(係留施設)付き邸宅街が芦屋の海辺にあるという。

さだまさし / 長崎小夜曲(NAGASAKI-CITY SERENADE)(1982年)


イントロやサビ前での華やいだギターが松原さんらしい。最初に聴いたときは失礼ながら「え、さだまさし?」と当時高2の私は思ったものだ。完全にフォークの人、映画を作る人、深夜放送で喋る人、谷村新司さんと同類という認識だったから、こんなポップで爽やかな曲を歌うとは思っていなかった。

杉山清貴&オメガトライブ / 君のハートはマリンブルー(1984年)




あまくせつない杉山清貴さんのヴォーカル。間奏のエモーショナルなギターソロに心を奪われがちだが、サビ前のBメロのアルペジオもせつなさ満載。前述した林哲司さんのインタビューによるとこのアルペジオは「そこは譜面に書かれていない、松原さんが自分のイメージで弾いてくれたものです。それが定着しました。後にセルフ・カバーしたんですが、そのフレーズは印象的で外せませんでした」とのこと。

【Side-B: Urban Twilight side】

寺尾聰 / SHADOW CITY(1980年)




松原さんをはじめとしたPARACHUTEのメンバーが多数参加のアルバム『Reflections』からも1曲選んでおきたかったのでこちらを。イントロの高揚感さえ感じるツインギターと、寺尾聰さんのスキャット部分の対比が鮮やか。アウトロ後半のギターソロがエモーショナルでたまらない。

松任谷由実 / 5cmの向う岸(1980年)


アルバム『時のないホテル』に収録
ユーミンの曲で何を選ぼうか非常に迷った。80年代のシティポップで松原正樹さん、というと全部ユーミンになってもおかしくない。実際この選曲作業中、候補の6割は最初ユーミンだった。「5cmの向う岸」が収録されている『時のないホテル』のキャッチコピーは「Featuring Masaki Matsubara on guitar solo」。「セシルの週末」「雨に消えたジョガー」「よそゆき顔で」をはじめとして松原正樹さんのソロがふんだんに聴けるアルバムだ。

1コーラス目ではさほど目立たず軽いオブリ程度のギターが、「♪並んだら5cmも」、の後からのギターソロ~間奏~「♪さよならは混んでたディスコ」になるともうまとわりつく。本当は別れたくないヒロインの心を見透かすようなギターが涙を誘う。なんて憎い盛り上げ方だ。

角松敏生 / City Nights(1981年)




アルバム『SEA BREEZE』に収録。
編曲のクレジットが松原正樹さん。後半のソロ回しを思わせるパートはもちろんギターが主役。陽が落ちて空の色が青から赤に変わりゆく “マジックアワー” に何かアルコール呑みながら、都会の暮れていく様を見ていたい。同アルバムでは、角松さん自身が「Summer Babe」(編曲は志熊研三さん)についても「イントロの松原正樹さんのギターカッティングが好きだ」と『SEA BREEZE 2016』(2016年)のセルフライナーノーツに書いている。

松田聖子 / 小麦色のマーメイド(1982年)


松原正樹さんは、松田聖子さんの楽曲にも欠かせないギタリスト。「渚のバルコニー」での華やかなギターソロが有名だが、AOR的な観点で今回はこちらを。揺れるようなギターのイントロ、アウトロと、Aメロで歌の合間に聴こえるギターがチル。この系統では「蒼いフォトグラフ」もチル系で、昼下がりからの軽いアルコールが進む。

黒住憲五 / Losing You(1982年)




アルバム『Again』に収録。
松原正樹さんがサウンドプロデュースに関わったアルバム『Again』の締めを飾る。西海岸サウンドを意識した1982年の旬のギタープレイが曲全体を包み込む。当時のSSWものの中でも渋めな印象。心地よいギターの音に揺られて、ワインを舐めながらマジックアワーを過ごしたい。


おっと、歌もので10曲が埋まってしまった。松原正樹さんは何枚かのリーダーアルバムをリリースしており、外せない曲をもう1曲だけ紹介させてほしい。

【Bonus Truck】

松原正樹 / YOU BABE(1983年)


アルバム『SNIPER』に収録。
松原正樹さん自身のリーダーアルバムでは、歌ものよりずっとアグレッシブでエモーショナルな歌心にあふれたギターが存分に聴ける。歌謡曲では比較的エモーショナルなソロがあるが、シティポップの歌ものではどうしてもカッティングやバッキングが多くなる傾向になるのをスカッと吹き飛ばしてくれる。ずっとエンドレスで流していたくなる一曲。


――ということで10曲(プラス1曲)。他にもミュージシャン・クレジットに松原正樹さんのお名前がある曲は多数あり、紹介したい曲はまだまだあるが、よくしたもので最近はミュージシャン情報もインターネットや書籍上で確認するのが本当に楽になった。

音楽を聴いて「このギターはもしかして?」と思ったらDig it up!

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2022.06.27
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カタリベ
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