出典不明の南国の曲?「君たちキウイ、パパイア、マンゴーだね。」
私が幼稚園の頃、母と私はディズニーランドの年間パスポートを持っていて、よく遊びに行った。パレードを見ながら、ミニーちゃんのアイスや、ドナルドのガラス容器に入ったかき氷を食べていたことを思い出す。
中でもよく覚えているのが、1999年から2000年にかけて、アドベンチャーランド・ステージで行われていた『フィエスタ・トロピカール』というショーだ。その名の通り、南国の雰囲気に包まれたステージで、色とりどりの衣装を纏ったダンサーたちがミッキー、ミニーと一緒に舞い踊る。このショーは母も私も特にお気に入りで、ビデオカメラで録画した映像を自宅でもよく見ていた。
母は、しばしばこの映像を見ながら「♪ 君たちキウイ、パパイア、マンゴーだね~」と歌っていた。ショーの本編に全くそんなシーンも曲も出てこなかったのだが、幼い私の中には、なぜかこのディズニーランドのショーと母の鼻歌がしっかりとリンクされてしまったのだった。
その後も定期的に母の鼻歌に「♪ 君たちキウイ、パパイア、マンゴーだね~」は登場した。弟が生まれたあと、母は弟を膝の上に載せ、手を握り交互に引っ張りながら「♪ 君たちキウイ、パパイア、マンゴーだね~」と歌っていた。なんとなく、この辺でディズニーの曲ではないことには気が付いていた。
ただ、我が家のカーステレオでユーミンや松田聖子はかかるけど、この曲は一度もかからない。出典不明のこの南国の曲の正体をずっと探し求めていた。わざわざ母に聞くことでもないし、なんとなく自分の胸の中で引っかかっていた… という感じと言った方が正しいのだが。
発見! カネボウ化粧品のCMで使用されていた
それから私は小学6年生になり、阿久悠氏の追悼番組で触れた音楽たちに後押しされ、昭和歌謡の世界にどっぷりと浸っていた。そんな時、YouTubeで検索して、初めてこの「君たちキウイ、パパイア、マンゴーだね。」が使われたカネボウ化粧品のCMの動画を見つけることになる。
当時は今ほど昭和の曲たちがネットに上がっていたわけではないから、フルバージョンなんて観られるはずもなく、ただただ、この世にこの曲が存在したという事実に
「本当にあったのか!!」
… と、たまらなく感激し震えたことを覚えている。だって、いい曲だったもの。
「♪ 君たちキウイ、パパイア、マンゴーだね~」って。すこし不思議だけど、絶対、この世にあってほしいと思っていたから。
今でこそ検索すれば大抵の曲には出会えるが、あの頃は、誰かの記憶の中にある、断片的な南国の曲が実在していることを確かめるなんてすごく難しいことだった。ほんのCMのワンカットだけ、それが、私がたどり着いた「君たちキウイ、パパイア、マンゴーだね。」だったのだ。
“幼い頃の母の記憶” というジュークボックスで知った中原めいこ
さらに時は流れ、私が20を迎えようとしている頃、母を亡くした。なんとなく、母を思い出すような歌謡曲は聞きたくないな… という思いと、このまま好きだった曲が聴けなくなるのは嫌だな… と思い、荒療治かとは思ったが、思い切って歌謡曲バーでアルバイトをしてみることにした。
すると、「君たちキウイ、パパイア、マンゴーだね。」が、店内でよくかかる。お客様からのリクエストでレコードを流す店だったのだけど、「君たちキウイ、パパイア、マンゴーだね。」はこんなにもメジャーな曲だったのだ。しかも驚くことに、タイトルはそのまま「君たちキウイ、パパイア、マンゴーだね。」だった。
アルバイトをするたびに耳をする、中原めいこが歌う、この危うげな南国のメロディは “幼い頃の母の記憶” というジュークボックスで知った曲だった。それを、ディズニーランドのショー、弟をあやす瞬間、インターネットで断片的に見たCM、そして平成の終わり、大人になってバイト先でたびたび耳にしていた。
メロディ、タイトル、詞のセンス… 爆発的な個性をもった中原めいこ
音楽が時代の中で残っていくということは、とてもおそるべきことだと思う。この曲の中に私の時間が刻まれている。そして今、コラムを書くために歌詞を見返しては、「果実大恋愛(フルーツ・スキャンダル)」って読ませるのか、普段聞いてると意識しないけど字面すごいな、と思い、また息を呑む。
中原めいこはシンガーソングライターだ。本人は不服だったようだが、デビュー時には所属レコード会社の東芝EMIの大きな期待から「第二のユーミン」というキャッチフレーズがつけられたという。
「君たちキウイ、パパイア、マンゴーだね。」のヒットをきっかけに忙しくなった生活に心身をすり減らし、活動は減少。2000年代には楽曲提供等を行ったりもしていたが、その後は目立った活動もなく現在も表舞台には姿を表していないという。
あれほどまでに耳に残るメロディと、ユニークすぎるタイトル、そして「果実大恋愛」という言葉を紡ぎだせるセンス。どれをとっても中原めいこという人が気になるのである。「第二のユーミン」などではなく、そこには爆発的な個性があったはずだ。しかしそんな彼女を追うことは今や叶わない。
やっぱり、「君たちキウイ、パパイア、マンゴーだね。」は、私にとって永遠に “謎の南国の曲” なのかもしれない。
2021.05.08