2017年の8月頭、ネットニュースに、「24年ぶり3度目」という見出しが躍った。どこかの高校の甲子園出場ではない、斉藤由貴の不倫報道だった。
斉藤由貴といえば、かつても尾崎豊、川崎麻世との不倫がスクープされ、記者会見では不倫道の「斉藤プロ」として名言を残した。尾崎豊のことは「私の同志」、川崎麻世のことは「癒し合う関係」、そして今回の主治医とのことに関しては「甘えたくなってしまって」と言っていた。
24年ぶりの不倫記者会見では「え~と」とか、「記憶にない」とか、歯切れの悪い斉藤由貴であったが、この人は正直な人だなと思って会見を見ていた。この主治医と映画に行って手を恋人つなぎしたのは、「好意があるからふわっと手をつないでしまった」という、彼女の言う通りなのだと思う。ふわっと好きになり、ふわっと関係を深め、ふわっと手もつなぐのだろうと思った。
この「ふわっと」感。それは彼女の歌の持つ雰囲気そのものではないだろうか。1985年2月に「卒業」で歌手デビュー、その歌声を聴いて、まるで春の霞の中に迷い込んだような気持ちになったものだ。その声の透明感は、浮世離れしていた。感情に満ち溢れているようで、実に淡々としている。包みこまれると、極上のマッサージを受けているような、何とも言えない気持ちになった。
特に印象的なのは「AXIA~かなしいことり~」。斉藤由貴は1985年にヤング層をターゲットに富士フイルムが立ち上げたカセットテープ『AXIA』のイメージキャラクターに起用された。その CM タイアップソングで、銀色夏生が書いた歌詞がすごい。
ごめんね 今までだまってて
本当は彼がいたことを
言いかけて言えなかったの
二度と逢えなくなりそうで…
のっけから、「実は二股しててごめんね」という告白を、悪気もないかわいい声で歌っている。詞を書いているのは斉藤由貴ではないが、この「ふわっと」グサッっとくることを言う「斉藤プロ」節にドキッとする。「彼がいるから、もう終わりにしよう」ではないところが、さすがの斉藤プロだ。
彼女に彼がいたことを知って茫然としているであろう「あなた」の腕に、打ち寄せる波から逃げて抱きつくのである。そして見つめたりもする。どうしていいかわからず目をそらす「あなた」になぜと問う、いつものようにふざけろと求める。そして、
今ではあなたを好きだけど
彼とは別れられない
それでもあなたを忘れない
ふたりは迷ったことりね…
…と、勝手に「ふたり」とくくって「迷ったことり」にしてしまう。「あなた」まで同罪にしたらかわいそう。それなのに「ふわっと」相手を捕え、真綿の檻に閉じ込める。なんて残酷なのだろうか。
彼女は別に迷っていない、確信を持って今まで黙っていたわけだから。捕われた「あなた」こそ「ことり」のようだ。それなのに「これから誰を愛してもふたりは胸が痛いのね」と、あくまでも「ふたり」の問題として、話を進めていく。そして最終的には
優しい言葉とため息で
そっと私を責めないで…
優しい言葉とため息で
そっと私を捨てないで…
と甘い呪いを爽やかにかけて終わる。まるで悪いのが、「あなた」のようにもっていく。すべては「でもあなたと同じあの時に 私も恋に落ちたのよ」ということで、正当化してしまっているのだ。彼女が恋に落ちたが最後、なのである。「あなた」は、早く逃げた方がいいと思うが、ここまで来たらもう手遅れ、逃げられないだろう。
AXIA の CM では、斉藤由貴の唇がアップになり、カセットテープに思わせぶりに唇を滑らせていく。そしてカメラに向かって、あまりに強い目力で「一緒にアクシア」と言う。80年代ぽいアニメで男子が「うれしいよ~!」と嬉し泣きする。男の深層心理にある(?)捕われ願望を刺激しているのだろうか。
かつて、「前の人とのことがあったにもかかわらず、学ばない人間なんだなと、自分のことが悲しいです」と言っていたが、この人は悲しんでいない。
ふわっと舞い降りるようにやってきて、ふわっと甘い夢を見させる白昼夢のような「斉藤プロ」の魔力は、30年以上たっても損なわれていない。
歌詞引用:
AXIA~かなしいことり~ / 斉藤由貴
※2017年9月10日に掲載された記事をアップデート
2018.09.10
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