12月も半ばに差し掛かると、街のデパートなどでお歳暮商戦が佳境を迎えてくる。 先日、僕がよく行くスーパーでもきれいに包装された贈答品が山積みされていて、その一角で店員さんが大声でお客様を集めていた。師走そのものの風景だなぁと横目で見ながら、僕は何となく昔を思い出していた。 振り返ってみると、僕はお歳暮というものを貰ったことがない人生だった。贈ったり、贈られたりするような職場を経験してこなかったのだ。けれども、昔は僕の父親宛に「ハムの詰め合わせ」や「和菓子ギフト」などが、さりげなく届いてたんだよなぁ…。 今回のコラムは、その頃お歳暮で頂いていたカルピスの思い出と懐かしのアニメ番組、そして尾崎亜美の歌った CMソングについてあれこれ語ってみたいと思う。 ―― 僕がまだ幼かった昭和40年代後半、毎年のようにお歳暮で「カルピス詰め合わせギフト」を贈ってくださる方がいた。 これは僕の勝手な想像だけれど、ギリギリ高度経済成長の時代だったとはいえ、ジュースが常に冷蔵庫に入っていたり、それこそカルピスが常備されていたり… そんな家庭は、ずいぶん裕福な暮らしだったんじゃないかと思うのだ。 僕の実家はまだ社宅であり借家暮らし。家の冷蔵庫を開けると、そこにあるのは麦茶である。そんな平凡な家庭にお歳暮とはいえカルピスが届くのだ。平静を装ってはいるが、心の中は狂喜乱舞である。 あぁ甘いカルピス… 暮れも押し迫る時期に届くカルピスの詰め合わせが、僕はもう楽しみで、楽しみで、仕方なかった。 贈る側も、きっと子どもがいる家庭を配慮してのことだろう… ちゃんとクリスマス直前にカルピスが届くよう手配されていた。さすが、わかっていらっしゃる。そう、子どもだった僕にとってクリスマスケーキと骨付きチキン、カルピスという組み合わせは、まさに “ご馳走” だった。ちょっと大袈裟だけれど「いつまでも12月だったらいいのに」なんて思っていたくらいだし…。 さて、カルピスと言えばこの当時、子ども向けアニメ番組として『カルピスまんが劇場』が放送されていた。それはもう毎週日曜日の夜が待ち遠しくて、19時半までにご飯を食べ終わってテレビが観られるようにと、夕食の支度をする母親を散々急かしたものだった。 僕の記憶にある作品は1971年の『アンデルセン物語』からで、続けて『ムーミン』『山ねずみロッキーチャック』『アルプスの少女ハイジ』などが挙げられる。『フランダースの犬』の最終回では泣かされたなぁ。 『ペリーヌ物語』(1978年)まではカルピス株式会社の一社提供で放送されていて、そのためか番組の途中に挟まれる CM はバリエーションに飛んでいた。中でも印象深かったのは、確か冬の時期に放送されていた「るふるん、るふるん、雪うさぎ、雪降る夜には~」というものだ。 “ハンバーグ” の愛称で人気だった菅原洋一の優しい歌声は、当時どう表現したらよいのかわからなかったけれど、いま思えばそれは僕にとって切なさを感じさせるものだった。番組は1月スタートで丸一年放送され、どれも12月末が最終回だった。もしかしたら、一年が終わるという寂しさが混ざっていたのかもしれない。 『カルピスまんが劇場』は、その後、複数各社提供、ハウス食品の一社提供へと移り変わり、『世界名作劇場』『ハウス食品 世界名作劇場』とシリーズタイトルの変更を行っていく。それでもこのシリーズは、「子どものための良質なアニメ作品を日本中の家庭へ届ける」という大切なコンセプトを曲げることなく忠実に受け継ぎ、1997年3月末まで続けられた。(※シリーズ中断後、BS 放送で2007年~2009年までに3作品あり) そして、時は1983年―― 友だちの家へ遊びに行き、カルピスと水との割合が他の家より薄いのではないか? と、何やら気づき始めた僕は、すでに高校生になっていた。カルピスの CMソングが、女性の歌うポップで軽快なミディアムバラードになったのもその頃である。 耳にしたのは、夏頃だっただろうか… 爽やかで、ちょっぴりハスキーなその歌声は、キャッチーなサビとメロディーの美しさもあって何処かノスタルジックな雰囲気を醸し出していた。調べてみると、それは1982年5月にリリースされた尾崎亜美の「My Song for You」。CM では商品に合わせて「カルピス for you」と歌っていた。 尾崎亜美といえば、当時本人が歌っている姿を僕はテレビで観たことがなくて、何故か曲だけを聴いたことがあるという不思議な印象だった。杏里のデビュー曲「オリビアを聴きながら」や、ペドロ&カプリシャスを脱退した髙橋真梨子のソロデビューシングル「あなたの空を翔びたい」は、尾崎の楽曲の中でも特に有名で、その他にも松田聖子や岡田有希子など、女性アイドルやシンガーへ曲を提供するソングライター、あるいはプロデューサーとして活躍することが多かったからかもしれない。 さて、今回この「My Song for You」を、改めてじっくりと聴いてみた。曲を流しながら、尾崎亜美が紡ぎ出した歌詞をゆっくりと目で追ってみる。するとそこには、人と人とのつながりや絆の大切さがしみじみと綴られていた。 My love for you いつだって My love for you そばにいる 手をのばし抱きしめて 優しさは さりげない愛 My song for you ネットや携帯電話、スマホの普及によって顔を合わせなくても簡単にコミュニケーションが取れる世の中になった昨今、そんな些細なことが実は奇跡の積み重ねであって、それは現代が平和だからこそ成り立っているのだとこの曲を聴きながら思い至った。 大切な人がそばにいる… そして笑顔を交わすひとときがある。それこそが、かけがえのない時間であって愛なのだ。 尾崎亜美は、メロディーもさることながら想いを美しく表現できる詩人であった。 想いを歌にして伝えることも、映像として、アニメとして伝えることも、手法は違えどもそれは大切な文化のひとつ。『カルピスまんが劇場(世界名作劇場)』が、子どもたちの未来のために良質な番組を提供してきたように、それを観て育った僕らひとりひとりが役割を担い、今度は子供たちの未来を守る番だと思う。それが大人の役目ってものじゃないかなぁ。たとえそれが微力であろうとも、みんながそう思うこと、願うことで、安心して子どもがカルピスを飲めるという平和な明日へ繋がってゆくに違いない。 あぁ、真面目に語ってしまった(笑)。 ホットカルピスでも飲んでホッと一息ついて終わります。“さりげなく” ね。
2018.12.16
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