1991年、社会人2年目の私は徐々にサボり方のコツを摑みつつあった。ある朝ホワイトボードに上司が知らない客先を列記し、サボりモード全開で会社を後にした。
何故なら、どうしても一度行ってみたいところがあったからである。私は秘密が守れる新卒の後輩を連れ立って渋谷に出かけた。道玄坂を登りその中腹を右に曲がるとすぐに赤色に黄色字の電飾看板が目に入る。
私と後輩は前後左右を二度確認してから受付でチケットを買った。
中に入るとものすごい音量で音楽が流れている。色とりどりのライトがミラーボールに反射してキラキラしている。場内はピーンと張り詰めた雰囲気と熱気とタバコの煙が渦巻いていた。人生でこれほど真剣に舞台を見つめている大人たちを見たのはそれが初めてであった。
その大人たちが見つめている先には一糸まとわぬ美しい女性が……。そう、一度ストリップという所に行ってみたかったのである。
平日の早い時間にもかかわらず、場内は満席で立ち見状態である。我々同様にスーツ姿のサラリーマンも目に着く。後から聞いた話だが、巡業する踊り子さんにくっついて全国を回るファンも多いらしい。
ショートカットの踊り子さんの舞台が終わり、今度はロングヘアーの娘が登場した。BGMは一世を風靡した「ランバダ」である。踊り子さんが出てくると、最前列に陣取った一人のサラリーマン風の男が、足下にある営業鞄から何かを取りだした。
「えっ、え~!」
私は目を疑った。そのサラリーマンが営業鞄から取りだしたのはタンバリンだったのだ。サラリーマンはランバダのリズムに合わせて、見事な手さばきでタンバリンを振る。私は感嘆した。
「何なんだ、このカオスは!」
続いてサラリーマンが営業鞄から取りだしたのは「紙テープ」だった。その紙テープを踊り子さんに投げる。投げた瞬間にサラリーマンは腕を回し始めた。
「何をしているのだろう?」
私はサラリーマンを凝視した。そのサラリーマンは紙テープで舞台が汚れないように、紙テープの根本にゴムを付け、それを指に巻き付けていたのだ。腕を回すことによって舞台に投げ入れた紙テープが上手に回収されていく。
「えっ、え~!」
私は再び目を疑った。もう踊り子さんよりサラリーマンから目が離せなくなっていた。その日、私はサラリーマンの奥深さを知った。と同時にサボってないでちゃんと仕事をしようと思った。社会人2年目の夏だった。
2017.04.01
YouTube / ClubMusic80s
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