僕は、着の身着のままの貧乏旅行が好きだ。学生時代には、ヨーロッパのユースホステルを渡り歩いていた。ドイツから格安の国際列車に乗りプラハに行った時のこと。狭い個室に7時間閉じ込められ、プラハ中央駅に着いたのは深夜。同じく閉じ込められていたアメリカ人から「プラハには東欧一のクラブがあるんだ」ということを聞いていた。偶然そこは、宿泊予定のホステルのそばだったので、せっかくだから行ってみることにした。
入るとどうやら純粋に音楽を楽しみに来ている人は、ほとんどいないようだった。しかしフロアでは、みんな酔って暴れるように踊っていた。ウォール・フラワーになるのもつまらないので、酔いに任せて知らないアーティストのビートになんとなくのっていた。
しばらくしてDJが変わると、今までバーでたむろしていた人たちもフロアにやってきた。そしてプレイされ始めたのが、デッド・オア・アライヴの『ユー・スピン・ミー・ラウンド』だったのだ! 周りにいるのは、私と同世代か若いくらいの人ばかり。みんなが、あのゴリゴリ・ビートに歓声をあげながら踊り始めた。
その後はBPMの高い曲がノンストップ。これはエイティーズ・ナイトでもない、ゲイ・ナイトでもない、プラハで名の知れた「東欧一の」クラブでの光景なのだ。これは2011年の話だ、決して東亜会館Greeseや青山キング&クイーンでのことではないのだ。
汗まみれになって踊ったプラハの素敵な夜のきっかけは、大好きなエイティーズ・クラシックだった。一緒に踊って意気投合した人たちと飲みながら、デッド・オア・アライヴの話をした。みなこれはスタンダード・ナンバーで最高だと話していた。そしてそれは、EDM全盛期の直前だったのだ。
のちに世界中に広がるこのムーブメントの基礎は、HI-NRGと呼ばれたエイティーズの名曲にあったのではなどと、振り返り思うのだ。そして後追いの僕も、あの1曲で80年代ディスコの熱気を少しばかり感じられたような気がして嬉しかったのだ。
2016.04.23
YouTube / DeadOrAliveVEVO
Information