ジョー・リノイエ。知っている人はかなりの音楽通である。
しかし、1980年以前に日本に生まれた人ならば、きっと彼の作ったサウンドを耳にしたことがあるはず。彼こそ、バブル末期に一斉を風靡した「Synchronized Love / シンクロナイズド・ラブ=通称・武富士ダンスCMの曲」の創作者だ。
1960年、横浜市生まれ。シンガーソングライターであり、プロデューサーであり、DJでもあり、武富士以外にも多くのCMやドラマ、アニメの音楽を手がけてきた超実力派のミュージシャンである。
そのCMはバブル末期の1990年に始まった。
レオタード姿で踊っているのは、当初は3人(新井由美子・三瀬真美子・清水玉恵)だったが、CMが新しいバージョンになる毎にどんどん増殖、EXILE並みに大人数になり、男女混成の時もあった。
ちょうど東京キー局が、一時禁止していた消費者金融のCMを再び解禁したこともあって、武富士のCMは、深夜を中心に怒涛のオンエア量となり、いい意味でも悪い意味でも社会の話題をさらった。中には「武富士ダンサーズは借金を返済するために踊らされている女たちだ!」なんて都市伝説もあった。
CMが広く知られるにつれ、自社CMのパロディとも云える奇妙奇天烈なバージョンも登場する。武富士のOLと思しき女性が、オフィスのロッカールームで、まるで座敷わらしのように登場する武富士ダンサーズを目撃するものや、浜辺で「シンクロナイズド・ラブ」のメロディを聞いたビキニギャル(古い、死語)が踊り狂うものなど。遊び心溢れるクリエーティブは、すべて中央宣興の手による。
その社会的な広がりを証明するエピソードとして、キンチョーこと大日本除虫菊がCMでパロディにしたのは有名だ(引用した「武富士ダンスCM集_美画像9作品+オマケ」最後のオマケに注目!)。
また、会社の宴会芸として武富士ダンスを踊る姿が、ホテルや温泉旅館の大広間でたびたび目撃されたものだ。AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」だ、逃げ恥の「恋ダンス」だと、最近やたらと学校や会社で集団で踊るシーンが見られるが、どれもこれも、その源流は「シンクロナイズド・ラブ」である!と言い切ってしまいたい(笑)。
こうした明るく能天気なCMの話題性とは裏腹に、武富士は過払い請求金ほか数々の黒い噂の霧に包まれる。2003年にはトップの指示によるジャーナリスト宅盗聴事件で当時の会長が逮捕、2010年には4,336億円もの負債を抱えてついに倒産。そして武富士のCM扱いに売上の多くを依存していた中央宣興も連鎖倒産、ダンスの舞台に幕が下りた。
しかし、ジョー・リノイエ「シンクロナイズド・ラブ」は今も輝き続ける名曲である。
このシリーズの前篇もぜひお読みいただきたいのだが、広告やCM音楽の歴史を振りかえるとき、サントリー、資生堂、カネボウ、SONY、松下電器、トヨタ… といった格調の高い企業ばかりに光が当たる。一方で、深夜のスポットCMの功績を讃えるものは、ほとんど無い。けれど、ACCなどの受賞作ばかりが、時代を映すCMではない。
カメリアダイヤモンドと武富士ダンサーズ、ともに深夜に咲いたどす黒い時代の徒花(あだばな)であった。綺麗な花には棘も毒もある。
2017.03.29
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