その昔、物品税という税金がメジャーだった時代がある。その後、消費税が施行された。消費税はいまだに国民の話題になるわけだが、実は消費税の施行により安くなった物が結構ある。その一つが、そう、CD だ。
消費税が施行される前、CD アルバムの値段が大体3200円であったなか、アルバムのカセットは2800円、レコードも2800円が普通の値段と認知されていた。こうして平成元年の4月から消費税3%が施行された一方で、物品税の問題やらなんやらで、なんと CD が安くなったのである。
この時代、昭和天皇が崩御し、年号は平成へと変わり、バブル景気真っ盛り、ファミコンやパソコン等が台頭するなどデジタル時代の幕開けもこの頃だったか。
そんな中、1989年3月25日に長渕剛の「昭和」というアルバムが発売された。この前年に長渕剛は TBS ドラマで主演を熱演。そう、ヤクザドラマの『とんぼ』である。このドラマはかなりの高視聴率を記録しているし、シングル曲「とんぼ」も大ヒット。だが、これ以前の長渕剛を知ってる人は困惑したに違いない。
長渕剛といえば、ロングヘアーで気のいいあんちゃんという風貌だったし、そういうキャラだったように思える。ドラマも歌もチンピラ的な空気もなかった時代がある。だが、そんな気のいいあんちゃんが、この「とんぼ」というドラマの前、髪の毛を切り少しチンピラ風になっていた。
そこまでは、誰もが「乾杯」「順子」のイメージだったように思えるが、この頃は「泣いてチンピラ」「ろくなもんじゃねえ」「スーパースター」等で歌われるように、どことなく “おしゃれなチンピラ” であった。まだまだハスキーボイスは健在だったし。
だが、TBS のドラマ『とんぼ』の第1話を観た人たちはびっくりしたのである。おしゃれなチンピラだった長渕が、いきなり本物のヤクザみたいな顔になり、坊主に近い髪形、しゃがれた声、とんぼ以前までのイメージはどこへやら… であった。
そもそも火曜日のゴールデンタイムで堂々とヤクザのドラマが放映されてるだけでも凄い話だが、内容も凄まじいものであった。毎週毎週描かれる生々しい素手や木刀での暴力、回し蹴り(長渕キック)、とにかくヘビースモーカー、耳をナイフで削ぐ、桑田佳祐をドラマ内で罵倒するなど「何があったんだよ… 長渕…」と思える内容であった。
だが、ドラマとしての出来は良質なもので今鑑賞しても問題なく楽しめる内容である(コンプライアンス問題は別)。だからこそ暴力だらけのドラマなのに高視聴率になり、主題歌の「とんぼ」もヒット。
ドラマの内容は確かに良かったが、当時の過去ファンの少年少女の「いやだから… 何でそんなに怒ってんだよ? 何かあったんか?」という気持ちを置いてきぼりにした長渕剛はさらに波にのっていく。今度は映画『オルゴール』でもヤクザを熱演し、その主題歌「激愛」もヒット。
そして「とんぼ」と「激愛」が収録されているアルバムが発売され、なんとオリコンにおいて3週連続1位を記録している。新しいファン層に受けたというか、時代が前向きだったにも関わらず、かたや一方で生臭い文化の名残もあったため、男臭いものはまだかっこよいと思える時代でもあった。
そして消費税に話が戻るが、このアルバムは少年少女に結構売れたどころか大人にも売れていたように思う。消費税を身近に感じたのはこのアルバムからだった。3200円が3008円になったからである。厳密にいえば施行寸前であったが3008円で発売された。
もちろん長渕だけではないわけだが、このアルバムは日頃シングルしか買わないライトユーザーにも売れたので消費税が色んな意味で身近に感じられたようである。
さて、このアルバムの時代背景だが、テレビでは『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで』がスタートしている。邦楽は X Japan がデビューしている。他はドリカム、コンプレックス、リンドバーグ、プリンセスプリンセスの「ダイヤモンド」がヒット。その一方でCCBが解散するなど、やはり新しい時代の幕開けといった感じがする。
そんな中、この『昭和』は売れに売れた記憶がある。少し言い方は悪くなるけれど、あまりファンじゃない人でも、この当時この『昭和』が売れに売れたのは肌感覚で覚えていることと思う。
このアルバムは67分弱の長さで12曲。元々フォークシンガーである長渕の、アコギだけでなくロックバンド形式の曲やバラード等、軸がブレてないのでとにかくアルバムとしてのバランス加減が素晴らしいのだ。そして何よりも昭和から平成へと変わりゆく時代の空気が詰め込まれているように思えてならない。
長いようで短かった? 短かったようで長かった? 人それぞれであるとは思うがこの令和元年という時代にあたり、昭和と平成の匂いを嗅いでみてはいかがだろうか?
しかし… 「この当時を境に何でそんなに怒るようになったんだよ… このアルバムの時期に何があった?」といまだに考えていたりする私である(笑)。
2019.06.26
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