8月5日

長渕剛「LICENSE」お前たちは “これからの時代をどう生きていくのか?”

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長渕剛「雨の嵐山」でレコードデビュー。「順子」でブレイク!


1980年代に大きな脚光を浴び、今も圧倒的な存在感を見せているシンガーソングライター長渕剛は、1956年9月7日に鹿児島県日置郡(現在の日置市)で生まれている。

中学生時代に、ちょうど台頭期にあった日本のフォークと出会い、自分でもギターを弾くようになった彼は、カバーだけでなくオリジナル曲も手掛けるようになり、ヤマハのポプコン全国大会に九州代表として出場、1977年に出場曲の「雨の嵐山」でレコードデビューする。しかし、この時は反響を得ることが出来ずにプロとしての活動を断念する。

そして翌1978年のポプコンで「巡恋歌」で入賞し、同曲で再デビューを果たす。

「順子」(1980年)のヒットでブレイクするが、実はそれ以前にセカンドアルバム『逆流』(1979年)がチャート1位を記録しており、アルバムアーティストとして認知されようとしていた。そして、このアルバムの収録曲だった「順子」があまりに人気が高かったために、約半年後にシングルカットされたものだった。

歌に感じた、フォークの原点ともいうべき純粋さ


この頃の長渕剛に僕は、ナイーブで素直なフォークシンガーというイメージを感じていた。当時のフォークシーンは、かつてのメッセージ性の強い曲を歌っていた第一世代に続くシンガーたちが登場して日常の機微を抒情的に歌う傾向が強くなっていったという印象がある。

長渕剛はそうしたフォーク第二世代のなかでも一段と若かった。しかし、その音楽性には第二世代よりもむしろ第一世代に近い匂いがあると思えた。「順子」には、当時の抒情フォークに通じる “純愛” のニュアンスを感じたけれど、他の楽曲にはよりストレートに“彼の想い”が描かれているという印象があった。

長渕剛の歌には、彼自身のその時々の正直な想いが込められている、という印象があった。作家として自身を客観的に捉え、フィクションも交えながら時代の空気を切り取っていくのではなく、彼は自分の置かれた立場から、ふつふつと湧きあがる情念や情熱を歌にしていった―― そんな、自身と歌との距離の近さには、まさにフォークの原点ともいうべき純粋さがあった。

アルバムごとに大きくなる “表現のスケール”


おそらく、その時々の “想い” をストレートに作品に反映させるという長渕剛の歌に向き合う姿勢は今も変わっていないのだと思う。だからこそ、さまざまな角度からの “想い” を託した楽曲を収めたアルバムからは、その折々の彼の心情、そして彼の意識の変化も見えてくる、という気がする。

例えばデビューアルバム『風は南から』(1979年3月)から『逆流』(1979年11月)、『乾杯』(1980年)と続く初期のアルバムには、素直な青春の想いが強く感じられた。言い方は悪いかもしれないけれど、変に擦れていない “純朴” な青年が、精一杯に自分を見つめ、想いを吐露している。そんな気配があった。

しかし、5枚目のアルバム『時代は僕らに雨を降らしてる』(1982年)、『HEAVY GAUGE』(1983年)の頃になると、彼の歌には葛藤や闘いの匂いが強く感じられるようになる。志を抱いて世に出た青年が、現実のさまざまな理不尽や悪意にぶつかり、それでも安易に妥協せずに、いかに志を貫こうとするかと格闘する姿が感じられるようになる。

音楽的にも、いわゆるフォークスタイルだけでなく、バンドサウンドをはじめとするさまざまな表現スタイルも試みられるようになり、表現者としての可能性を真剣に追求していることも感じられる。それも、けっして流行に乗るというのではなく、どうすれば自分の想いを “時代” に突き刺すことができるかの格闘を重ねていったという気がする。

それだけ、歌にも演奏にも強さが感じられるようになっていくし。表現のスケールも大きくなっていったという気がする。

表現の成果「LICENSE」は、歌だけでなくサウンドも注目!


そうした、自らの表現を貫く試行錯誤のひとつの成果といえるのが、1987年8月に発表された『LICENSE』だと思う。

前作『STAY DREAM』で、原点に戻ったかのような弾き語りを中心としたシンプルな表現を見せていたが、ここでは弾き語りのニュアンスを生かしながらも、しっかりとした重量感のあるビート、そして楽曲のテイストに寄り添ってそれぞれの歌の世界を際立たせていくムダのないサウンドが、この『LICENSE』をきわめて存在感に満ちたものにしている。

中心にあるのはあくまでも長渕剛の歌とギターだ。しかし、その楽曲も歌も、この時期にはいわゆるフォークというイメージには収まらない迫力と多彩な表情をもつものになっている。

そうした一筋縄ではいかないその歌を、重厚なビートサウンドがガッチリと受け止め、その表情をさらにイマジネーション豊かにしているのだ。まさに、これまでのさまざまなサウンドアプローチの成果とも言えるのではないか。

その意味で『LICENSE』は、歌だけでなくサウンドも聴くべきアルバムだと思う。

自ら確立させた“長渕剛”のパブリックイメージ


さらに、このアルバムは長渕剛のパブリックイメージを確立した作品とも言えるのではないかと思う。

収録曲の「ろくなもんじゃねえ」は長渕自身が主演したドラマ『親子ジグザグ』の主題歌で、同年5月にシングルリリースされてヒットしている。さらに9月には『LICENSE』から「泣いてチンピラ」がシングルカットされている。これらの時期に、長渕剛の武闘派的パブリックイメージが広がっていったという気がするのだ。



もちろん、不良っぽさをアピールすることは、ロック色の強いアーティストにとって珍しいことではない。既成の価値観に対する反抗は、ロックのアイデンティティでもあるのだから。しかし、長渕剛が発散させるアウトローの匂いは、それとはややニュアンスが違うように感じる。それは、デビュー以来の長渕剛が取り組んできた、社会の理不尽さに対する闘いの中で彼が得たひとつの結論だったのではないだろうか。

それぞれの夢を抱いて社会に身を投じていく多くの若者たち。しかし、その多くは挫折を経験し、自らが掲げた夢に手が届くことのないまま諦めてしまう。さらに言えば、強力な人脈、金脈無しに、人生の “勝ち組” になることは至難の業だ。それどころか、ちょっと気を許せば “じゃない方” に追いやられてしまう可能性だってある。

生存競争と言えば聴こえはいいが、現実にはアンフェアだらけの世界で、何の伝手も無い人間がなんとしてでも自分を貫こうとした時に、ドロップアウトやアウトローの価値観もひとつの突破口になる可能性があるのではないか。長渕剛は、あえて、そのような仮説を提示していたのかもしれない。

もちろん、これはあくまでも僕の想像にすぎないのだけれど、1987年という。まさに日本がバブルの頂点に向かって浮かれ初めていた時代に、そこから落ちこぼれるであろう多くの人たちに向けて “お前たちは、これからの時代をどう生きていくのか” というメッセージを真剣に送ろうとしていたのではないか。

そのために、長渕剛は歌の世界だけでなく、実際にもそのロールモデルとなる人物像を本気でつくりあげて、メッセージを届けようとした。そんな気がする。

レコード大賞・アルバム大賞を受賞。長渕剛ならではのメッセージ性


長渕剛は、あくまでも時代の波に乗ろうとせず、その陰にあるものを見つめ続ける類まれなアーティストだ。華やかなサクセスストーリーではなく、報われることが無くても必死に生きている市井の人々や、弱者として切り捨てられる人に、夢と強く生きるための勇気を贈る。そうした長渕剛ならではのメッセージソングの在り方が、はっきりと表れたのがこの『LICENSE』というアルバムだったのではないだろうか。

その意味で、『LICENSE』は1987年という時代に投じられた、画期的なコンセプトアルバムだった。けれど、このアルバムが優れているのは、そうしたメッセージ性と同時に、あくまでも音楽としてきわめて聴きごたえのある作品になっていること、音楽として人の心にメッセージをとどけることが出来る作品になっているからだと思う。

このアルバムが、この年のレコード大賞のアルバム大賞を受賞したのも不思議ではない。

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2022.09.07
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カタリベ
1948年生まれ
前田祥丈
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