映画『火花』(2017年11月公開)の主題歌としてカバーされた、ビートたけしの「浅草キッド」。本人の作詞曲ということもあってか、歌手ビートたけしの代表曲といえばまずはこの曲で、「嘲笑」(作詞:北野武 作曲:玉置浩二)と並んで人気が高い。 もちろん、どちらも味わい深い名曲なのだが、私が聴いて欲しいのは、80年代初頭、瞬く間に世間を圧倒した、たけしの勢いそのままが、声として吐き出されたような当時の歌だ。中でも極みは、’82年発売のシングル「BIGな気分で唄わせろ」。 初の楽曲提供が沢田研二への「おまえにチェックイン」という大澤誉志幸が、ほぼ同時期に同じ作詞家:柳川英巳と組んでの作品だ(編曲は清水信之)。 甘いローズピアノとアーシーなハモンドオルガンの音色で始まるゴスペル調のイントロに思わず心を許していると、そこに飛び込んで来るのは出だしから上のA(ラの音)までくい込む、たけしのハイトーン。 子供(ガキ)の頃はよく 木登りして だれにも 負けなかったもんだ かしこい子は とちゅうでくじけても オレは てっぺんまで登った いかにもたけしの少年期を描写したかのような巧いフィクション。注目すべきは、このイントロ16小節、文字数にすると56文字の中に、濁点が8つという言葉選びの妙技だ。 たけしの倍音成分多めの声紋と、濁点とが編み出す、歌声のパンチ力。この時点ですでに軽く痺れる。 やがてギターに電気が通り、イン・テンポとなって走り出すメロディー。そこには、もう何曲も共に作品を創ってきたかのような馴染み感がある。大澤誉志幸はきっと何度も繰り返し聴いたのだろう。前年 ’81年のツービート名義でのアルバム『ツービート・オール・ライブ・ニッポン』の終盤で、たけしが唄った「ハングリー・ハート」(ブルース・スプリングスティーン)と「ホット・レッグス」(ロッド・スチュワート)を。そして、どの音程のあたりで、たけしの声に最も熱が入りやすいのかを熟知したに違いない。 次第にバンドも唄も温まり、いよいよ迎える頂点が、2番出だしのココ。 ホラ吹き男に 見えるかい? バカゲタ夢だって 笑うかい? だけど俺を 信じてくれるなら 一緒に 登ってほしいのさ この “信じてくれるなら” の高音シャウトで、当時何人のファンが身悶えたことだろう。ここで完全に、たけしが切望した ROCK と、大澤誉志幸の “企み” が一致する。言わば、それまでコミカルさ重視のレコーディングによって膨らんできた、たけしのジレンマがここで弾け、持ち合わせていた ROCK 魂に火がついた瞬間、そう、着火点だ。 この曲の、このシャウトに、ファン達の気絶しそうな歓声が沸き上がる『野戦病院~ビートたけし&たけし軍団ライブ』(1985年)のCD化を、なんとかお願いできないものだろうかと、私は長らく思っている。歌手ビートたけしの歴史の中で、それくらい意味のあるシャウトなのだから。 TV番組『一流芸能人が嫉妬したスゴイ人』(2015年12月放送)に出演したビートたけしは、「自分が嫉妬する人物」として、甲本ヒロトの名を挙げた。 “ 俺、もしかすると(漫才じゃなくて)これやりたかったんじゃないかな。こういう感じで、こういう歌、歌いたかったんじゃないかなって気が付いたら、ちょっと嫉妬したね。” さらに―― “16~17歳の頃を思い出すんだよな。その時にこんな歌があれば、涙したんだろうなっていう感じがあって、いいなあと思って” と、語っていた。 そんなたけしさんに私はお伝えしたい。私は14歳の時に、あなたの唄を聴いて、心を熱くし、何度も涙した。九州厚生年金会館での人生初めてのコンサート。お小遣いで初めて買ったアルバムも、あなたのものだった。TVタレントとしてのビートたけしではなく歌手としてのビートたけしを愛していた、と。 先日話題となった、たけしの「オフィス北野」からの独立報道。これを機に還暦を迎えた大澤誉志幸と現71歳のビートたけしが再び手を結んでくれないものかと、秘かに願っている。歌詞引用: BIGな気分で唄わせろ / ビートたけし
2018.03.28
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YouTube / takawo kukurouka
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