12月24日

みんなのブルーハーツ「1985」令和にも響く甲本ヒロトと真島昌利の言葉

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みんなのブルーハーツ ~vol.1

■ THE BLUE HEARTS『1985』
作詞:甲本ヒロト
作曲:甲本ヒロト
編曲:THE BLUE HEARTS
発売:1985年12月24日

ブルーハーツの言葉について考えるゲームに参加しませんか?


ブルーハーツについて、書こうと思ったのです。

「今さらブルーハーツでもないだろう」

―― という思いも抱えているのですが、逆にここ数年、

「今だからこそブルーハーツなんじゃないか」

―― という思いも募ってきました。

そんな気持ちのありようについては、この連載『みんなのブルーハーツ』の各回に込めていこうと思いますが、連載タイトルの「みんな」には、あの時代に、ブルーハーツの音楽に感じ入った、私含む当時の若者だけでなく、令和の世に生きる、今の若者も含んでいるつもりです。

「今だからこそブルーハーツ」、なのですから。

この連載では、主に彼らの言葉を見ていきます。甲本ヒロトと真島昌利。“日本のロック史” というものがあるとすれば、その中でも傑出した2人の詩人を抱えたバンド。彼らが残した「詞」、いや「詩」を、じっくりと味わっていきたいと思います。

歌詞について論じるときに、いつも頭をよぎるのは、「果たして、この解釈は、作者の考えと合致しているのか」ということです。言い換えれば「単なる私の妄想なんじゃないか?」。

でも、手元にある『MUSIC MAGAZINE』の2020年11月号(特集「甲本ヒロトと真島昌利の35年」)の中にあった、OKAMOTO'Sのオカモトレイジのコメントによれば、甲本ヒロト本人に彼が歌詞について質問したときに、こう返されたというのです。

「でもさぁレイジ。なんかわかんないことがあっても、なんのことだろうなぁ、こういうことかなぁ? って自分なりに解釈した方が楽しいぜ? それが間違ってたってどうでも良いじゃん!」


ふんぎりが付きました。甲本ヒロトや真島昌利の実際の思いがどうであれ、彼らの言葉を私は、当時を20代として生きて、かつ今を50代として生きる身として、勝手に自由に「自分なりに解釈していく」ことに決めました。

なので、できればみなさんも、ブルーハーツの言葉について、あれこれと考えるゲームに参加しませんか? 連載初回、まずは「伝説の音源」として知られる、あの曲に埋め込まれた言葉を探ります。



僕たちを縛り付けて 一人ぼっちにさせようとした 全ての大人に感謝します


『1985』という曲。物の本には、

「1985年のクリスマスイブに都立家政スーパーロフトで開催された、ブルーハーツ初のワンマンライブで配布された、幻のソノシートに収録されていた曲」

―― と説明されています。

まずつまずくのが、「都立家政スーパーロフト」です。西武新宿線の駅「都立家政」にあったライブハウスの名前とのこと。

私は、この伝説のライブから4ヶ月後、1986年の4月に上京して「都立家政」(とりつ・かせい)という文字列に不思議な印象を抱いていただけの、まるで普通の19歳。もちろんこのライブハウスの存在すら知りませんでした。まさかこの不思議な文字列が、ロック史に残る伝説の場所を示していたなんて。

検索してみると、このときのライブの(半)手書きフライヤーが見つかりました。
「1985.12.24 TUE」という大きな文字の下にあるコピー=「世界一のクリスマス」。この連載でおいおい見ていきますが、ブルーハーツにまつわる言葉群には、文学的かつポップな味わいを併せ持つ、独特の語感があります。



さて、小見出しとした「僕たちを縛り付けて~」の話に移ります。この『1985』という曲のエンディングに近いところで、ドラムスだけをバックに、甲本ヒロトが祈るように叫ぶこのフレーズを聴いたのは、ラジオからでした。

でも詳細が思い出せないのです。80年代後半、つまりは1985年ではなく、おそらくはブルーハーツがメジャーデビューした1987年より後、確実なのは、ニッポン放送金曜深夜ということだけ。多分、サンプラザ中野か鴻上尚史の『オールナイトニッポン』の中かな。

さらには番組内で『1985』がかかったのか、番組の合間に流れたCMの中に、この部分がインサートされたのかも定かではありません(頼りないものです。詳細をご存じの方がいれば教えてください)。

聴いて、驚いて、グッときて、川崎溝ノ口の下宿に置かれた木製ベッドからぴょんと飛び起きたのです―― こういう表現、今や手垢にまみれていますが、本当なのです。そして、こうも思ったのです。

「僕も何か始めないと。今すぐに」

それくらい、わけの分からない何かを触発するフレーズだったですが、今冷静に読み返してみると、「僕たちを縛り付けて 一人ぼっちにさせようとした」よりも、その後の「全ての大人に感謝します」が効いている気がします。

「僕たちを縛り付けて 一人ぼっちにさせようとした」の前半は、個人的には(というか、この連載は全て個人的意見・解釈・妄想で塗り固められる予定なのですが)、当時のインディーズバンドが言いそうな一種の「疎外感宣言」とでも言いましょうか、少なくとも甲本ヒロトじゃなきゃ言えないフレーズには思えません。

ただ後半=「全ての大人に感謝します」で、意味が大きく転換します。ネガティブからポジティブへの転換、疎外感でウジウジメソメソしているさまから、一気呵成に反撃する、でも顔はニコニコ笑っているという、謎に、かつ異常にポジティブなさまへの転換。

あと、異常に細かい話ですが、「感謝します」、特に「します」のところの甲本ヒロトの発音が、何というか、とてもキュートなのです。少なくとも疎外感で拗ねたり、荒くれたりはしていません。

そして、そんなポジティビティは、続くフレーズに結実します。

1985年 日本代表ブルーハーツ


ぴょんと飛び起きた瞬間は、「全ての大人に感謝します」ではなく、この「1985年 日本代表ブルーハーツ」を、甲本ヒロトが叫び終わった瞬間だったと推測します。それくらい「1985年 日本代表ブルーハーツ」、特に「日本代表」が良かった。

「日本代表」

―― 言い換えれば「天下取ったるで」。

ネガティブ思考とか、マイナー主義とか、「俺たちのロックは、分かるやつにしか分かんなくていいんだ」的感覚とかとかを1ミリも感じさせないこと―― 連載初回で言い切るのもどうかと思いますが、ブルーハーツの言葉が沁みた・沁みる理由は、そんな彼らの「開かれたセンス」にあると思うのです。

なぜだか分からないのですが、いとも簡単にマイナー主義に陥ってしまうバンドが多い日本ロック史の中で、とびっきり開かれていたバンドとして、私の頭にまず思い浮かぶのがキャロルです。特に、その中心として、あくなき上昇志向とポジティブ思考を唱えた矢沢永吉。

ブルーハーツとキャロル、一見まったく無関係な感じがしますが、色々と調べてみれば、ブルーハーツのメンバーは、キャロルの影響を強く受けていたようですし、またブルーハーツの所属事務所の代表=村田積治氏は、キャロルにも携わった人でした。

私が影響を受けた音楽評論家、渋谷陽一が自著『音楽が終わった後に』(ロッキング・オン)に記した言葉――

「我々がコミュニケートしなければならないのは、きっとどこかに居るだろう自分のことをわかってくれる素敵な貴方ではなく、目の前にいるひとつも話の通じない最悪のその人なのである」(メディアとしてのロックン・ロール5)。


この文章を、ブルーハーツの面々が実際に読んだ確率は高くないと思うのですが(真島昌利あたりは読んだかも)、それでもこのスピリット、要するに「拗ねたロックよりも開かれたポップでいよ」という考え方が、「日本代表」という4文字に、しっかりと込められていると考えます。

昨年(2021年)の東京五輪騒ぎは、私にとって決して愉快なものではなかったのですが、メディアが執拗に繰り返す「日本代表」(この場合は「ニッポン代表」か)という言葉に接したとき、2021年の国立競技場ではなく、1985年の都立家政から始まった、恐るべき子供たちによる「真冬の大冒険」を想像して、ちょっとだけ愉快な気持ちになったものです。



「今だからブルーハーツなんじゃないか」と思わせるに十分な刺激とは


というわけで私にとって『1985』は、歌の本編というより、エンディングに置かれた甲本ヒロトの叫び、宣言だったわけですが、もちろん本編の歌詞が退屈だったわけではありません。

――「国籍不明の飛行機が飛んだ」「放射能に汚染された島」「黒い雨が降る」「海まで 山分けにするのか」「選挙ポスターも あてにならない」

思い出すと当時は、「政治も歴史も知らない、新聞も読まないバカ」のための音楽、そんなバカがやる音楽こそがロック―― という観念が強かったような気がします。

いや、それは今に連なっています。2016年に起きた「フジロックに政治を持ち込むな」騒動などは、政治とロックは別物だ、異次元のものなんだという観念が、私の知らないある方面で現存していたことを示しました。

でも『1985』の歌詞は、「都立家政という町外れにある、決して大きくないライブハウスで、メジャーデビュー前のインディーズバンドが歌った言葉」としては、異常に政治的で歴史的で、かつ「新聞を読んでいるインテリ」が書いた言葉に見受けられます。

「インテリ」という言葉の意味が限定的過ぎるならば、少なくとも「バカはバカ同士、仲良くロックで騒ごうぜ」というコンセンサスの下で交わされる言葉ではない。

この中で、もっとも切っ先鋭いフレーズは「放射能に汚染された島」でしょう。その前段は――

「僕達がまた生まれていなかった 40年前戦争に負けた そしてこの島は歴史に残った」

もちろん、広島と長崎に落とされた原子爆弾のことを歌っている。歴史を歌っている。歴史が彼らを問い詰めている。

驚くべきポイントが2つあります。1つは「40年前」。至極当たり前のことを書きますが、「1985年」は、原爆投下の1945年から、ちょうど40年。そして現在(2022年)は、この「1985年」から37年。

何が言いたいか。この曲が発表されたのは、原爆投下 / 終戦から現在までの77年の歴史、そのほぼ「中点」である1985年なのです。言い換えれば、それくらい、この曲から時間が経過した。経過してしまった。

もっともっと、私の気持ちを具体的に言い換えれば――

「終戦からこの曲までと、この曲から今まで、ほぼ同じ時間経過があったのにもかかわらず、日本のロックの言葉は、ブルーハーツ以降、どうしてこんなにも熟していないのだろう」

1985年以前、以後――。

でも正直、このあたりは勘違いがあるかもしれません。「令和のブルーハーツ」が私の知らないところで、出てきているのかもしれません。逆に、出てきていて、冒頭のように「今さらブルーハーツでもないだろう」なんてうそぶいていたら最高だと思うのですが。

もう1つの驚くべきポイントは、東日本大震災における福島原発事故の発生との関係性です。もちろん結果論ですが、『1985』が「2011」を予測していた形になります。つまり、これももちろん結果論ですが、「放射能に汚染された島」というフレーズは「今だからブルーハーツなんじゃないか」と思わせるに十分な刺激を与えるのです。


―― と、『みんなのブルーハーツ』は、こんな感じで、書き進めていきます。今後、ご意見やご感想を寄せていただける全ての読者に感謝します。

2022年、「全ての大人」のはしくれ代表:スージー鈴木。

追記:ご存じの通り、ブルーハーツの音源はサブスク化されていません。ですが、この『1985』は、いくつかある彼らのベスト盤に収録されています。

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2022.10.09
46
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「1985」生まれた年ですし、「舞いあがれ!」の岩倉舞とも同学年になります。
同じ[飛行機]という、期待と不安が入り混じるモチーフに、人生の主人公として飛び立ちたい!そんな心理を感じ取ります。
ヒロトの歌詞のソレは、原罪意識を植え付けてきた大人の闇の巨大さを比喩していると思います。
2022/10/09 17:28
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返信
Baliみにょん
《ブルーハーツの言葉が沁みた・沁みる理由は、そんな彼らの「開かれたセンス」にあると思うのです》
《「拗ねたロックよりも開かれたポップでいよ」》2022年の今、"開かれた"スピリットが、どんなに眩しく感じられるかを気づかされる。
《「終戦からこの曲までと、この曲から今まで、ほぼ同じ時間経過があったのにもかかわらず、日本のロックの言葉は、ブルーハーツ以降、どうしてこんなにも熟していないのだろう」》
この国の時代を描き出す、重いフレーズ。
今だからこそ、ブルーハーツは、心に響く。
2022/10/09 13:42
0
返信
カタリベ
1966年生まれ
スージー鈴木
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