「皆様の夢をかなえます」「最 私 33 す」
「暴愛の賛美」「見せびらかしましょう」
おかしな日本語が並んでいるが、いったい何を意味するのかさっぱりわからない。しかもこれ、イギリスのバンドのアルバムジャケットなんである。
バンドの名前は、ジグ・ジグ・スパトニック。セックス・ピストルズに始まるパンク・ムーブメントが一段落した後、ジェネレーションXのトニー・ジェイムスを中心に1982年に結成された。ジェネレーションXといえば、あのビリー・アイドルがボーカルをつとめていたバンドである。
84年には激震が走った。「ジグ・ジグ・スパトニックが15億円でEMIと契約!」というニュースが駆け巡ったからだ。デビュー前のバンドに15億円? メンバーのビジュアルはまるで1982年の映画『ブレードランナー』に出てくる、近未来のロサンゼルスを歩く若者たちそのままだ。私たちの期待は高まった。だが、この時点では彼らの音楽がどんなものなのか私たちには知る由もなかった。
そして引っ張るだけ引っ張って迎えた1986年、シングル『ラブ・ミサイル』でついにその音が明らかになった! …なった。なった…。
なんじゃあ、こりゃあ。
今すぐ下記のYouTubeで『ラブ・ミサイル』を聴いて、当時、待ちに待って私たちがずっこけたそのサウンドにあなたもずっこけてほしい。
当時高校生だった私は買ってきたばかりのLPレコードのジャケットを見ながら爆笑したのを覚えている。「これは… 騙された!」と。なにが15億円だ。どこが未来だ。
あまりにも中身がないのだ。スカスカでチープなシンセの音。単調なボコボコというリズム・マシーンに乗せてどうでもいい歌詞を繰り返すエコーが効きすぎのボーカル。もはや何も歌ってないのと同じだ。そしてアルバム全体が同じ曲にしか聴こえない。いや、音楽というより、もはや木魚に乗せたお経みたいな何か。
せめて話のタネにと「見せびらかしましょう」と書かれているLPジャケットを持って翌日学校へ行ったら、男子校のクラスの半分くらいが持ってきていたので見せびらかしようもなかった。そして全員が怒っていた。
ところが、あの騙された感覚を味わいたくて毎日レコードプレーヤーでこのアルバムに針を落としていると…これがだんだん癖になってきたのだ。「もしかすると、これは新しいんじゃないか?」と思う気持ちと「詐欺だ金返せ」と思う気持ちが半々のまま2年が過ぎた、というかすっかり忘れていた。
そして1988年10月5日、布袋寅泰が放ったソロアルバム、『GUITARHYTHM』が届いた。伝説のバンドBOØWYを解散したあと、彼がどんな音楽を聴かせてくれるのか。CDプレイヤーの再生ボタンを押すと…
おいなんだこれ、ジグ・ジグ・スパトニックやないか。ロックンロールの大古典、エディ・コクランのカバー『C’MON EVERYBODY』がまったくジグ・ジグに生まれ変わっているのだ。しかも…カッコイイ。カッコよすぎる。
布袋自身も語っている。
「ジグ・ジグ・スパトニックは凄く斬新なことやっていて、キワモノ扱いされたりして、酷評の嵐だったんだけど僕は大好きだったんです」
いやあ、聴く人が聴いたら違うものです。あの中にしっかり音楽の未来を見つけて、しかもエディ・コクランという過去を結びつけ、布袋寅泰という現在に融合させる。
そのスタイルはのちのCOMPLEXのサウンドにもつながっていくわけだが、全然関係ないお詫びで本稿を終わろう。
昨年の秋、あるパーティで布袋さんを見かけ、泥酔していた僕は大ファンすぎて「布袋寅泰だ! 本物だぁ!」と叫んで勝手に写真を撮りまくっていたら、ご本人に「君、写真撮らせてくださいとかひとこと言いなさい!」と叱られました。当たり前ですね。布袋さんごめんなさい。絶対読まないと思うけどここで謝罪しておきます。すみませんでした。お詫びに会社辞めました。
2017.03.12
YouTube / DJ. Zsori. Gold Hits.
YouTube / 蕾狗亞琶
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