佐野元春の「CHRISTMAS TIME IN BLUE -聖なる夜に口笛吹いて-」が発表されたのはその1年後、1985年11月21日に12インチシングルとして発表されている。冒頭、イントロなしにいきなり「♪雪のメリークリスマスタイム」と始まるその歌詞は、レゲエのリズムを伴って、街は賑やかにクリスマスの装飾をしているが、その輝きの中で孤独な僕はこのまま歩き続ける、といった内容が歌われていく。
後半には "世界中のチルドレン" というワードも登場する。佐野元春は、孤独な "個" である主人公と、世界中のあらゆる人々の存在を並列させ、どんな者にも等しくクリスマスはやってくる、と歌う。終盤には「♪平和な街で 闘ってる街で」と視点のスケールも大きくなっていく。感傷や孤独といったパーソナルな感情と、多くの人々への幸福を希求する、祈りにも近い思いが同時に現れている。「Do They Know It’s Chrismas?」のシニカルで批評的な視点ではなく、元春ならではの博愛精神が表現された楽曲といえよう。
不特定多数の若者への熱いメッセージともなっている「Young Bloods」
こういった "個" の視点から始まり、不特定多数の人々の思いまでを受け入れていくメッセージを込めた歌は、1982年のアルバム『SOMEDAY』あたりから少しずつ現れ始めているが、決定的な作品は「Young Bloods」ではなかろうか。「CHRISTMAS TIME IN BLUE -聖なる夜に口笛吹いて-」の約10ヶ月前、1985年2月1日にリリースされたこの曲は、新年の朝が舞台で、クリスマスの夜とは対照的なシチュエーションながら、"個" の視点から現れる決意表明が、不特定多数の若者への熱いメッセージともなっている。
ここに分け合いたい Let’s stay together
ひとりだけの夜にさよなら
と訴えるのだ。メロディーもサウンドも異なるが、「Young Bloods」と「CHRISTMAS TIME IN BLUE -聖なる夜に口笛吹いて-」は、どちらも訴えかけているメッセージは同質のもの、対になった楽曲なのである。1985年の佐野元春は「Young Bloods」のスリリングな攻撃性で新年のスタートを切り、「CHRISTMAS TIME IN BLUE -聖なる夜に口笛吹いて-」の穏やかな決意表明で幕を閉じたのだ。
その後、自作自演者の作品が音楽シーンの中核に躍り出る頃には、作者自らが作るクリスマスソングナンバーが定着する。その多くはラブソングであり、それこそクリスマスシーズンはカップルが愛を確かめ合う特別な日として定着していったことと並行している。こういった流れを考えると、佐野元春の「CHRISTMAS TIME IN BLUE -聖なる夜に口笛吹いて-」の異色さがわかるだろう。