プルーストの『失われた時を求めて』ではないが、一つの曲が僕を突然ある過去の一瞬に連れ戻す。そんな瞬間は、とても愛おしいものである。
僕は小学生の頃、近所に住んでいた歳の6つほど離れたお姉さんとよく遊んでいた。彼女はいつも大滝詠一の『君は天然色』の「くーちびるツンと尖らせて~」というフレーズを口ずさんでいた(もっとも、それが大滝詠一の曲であることは小学生の僕にはわからなかったが)。
大学生になり『ロング・バケイション』を聴いた僕は、そのフレーズを「再発見」したとともに、彼女との思い出が胸いっぱいに広がった。僕はその時、まさに幸せな過去に連れ戻された心持ちで、言葉にしがたい淡いノスタルジーに浸っていたのだ。僕の中で大滝詠一といえば、もはや彼女の事でもあったから。
ところで僕は小林旭のファンだ。
初めて彼の魅力を知ったのは、日活時代のハンサムさが失われ少し太った頃の『仁義なき戦い 頂上作戦』を観てからだ。敵方の梅宮辰夫に「広島極道は芋かもしれんが、旅の風下に立ったことはいっぺんもないんでぇ」と凄む「存在感と声」に惚れてしまったのだ。
そんな彼には1985年に放ったヒット曲『熱き心に』がある。僕はその曲を彼のベスト盤で知ったのだが、それが大瀧詠一の作曲によるものであったと知った時、意外な驚きとともに再びその人との思い出に襲われた。
マイトガイ旭の声は、どうしてこんなに伸びやかなのか!
「朗々と」という形容詞がぴったりのこの歌は、小学生の頃その人と見た青い空の思い出にぴったりであった。そして「まさかこんなところで小林旭と大瀧詠一が繋がっていたとは!」と後追い世代の僕は驚いてしまったのだ。
様々なところにつながりというものがあるのだなぁというしみじみとした思いと共に、今日も風呂掃除をしながら(なぜなら声がよく響くから)「熱き心に」を歌っている、僕なんです(はっぴいえんど風)。
2016.10.05
YouTube / 嵯峨浩
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