2月25日

デヴィッド・ボウイの再来、サイケデリック・ファーズこそ真のロックスター

21
0
 
 この日何の日? 
サイケデリック・ファーズのアルバム「ミッドナイト・トゥ・ミッドナイト」がリリースされた日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1987年のコラム 
佐藤孝信のアーストンボラージュとマイルス・デイヴィス、麻布ってどこ?

リリックビデオのルーツ!殿下ことプリンスは映像作品でも我々を驚かす

アメリカン・ロックンロールの良心の証明 ― ジョージア・サテライツ登場!

つねに当事者であれ。ブルーハーツが教えてくれた危うくも純粋な青い心

80年代の沖田総司は中川勝彦!美しすぎるルックス、知性に溢れ、気さくでお茶目!

心に突き刺さった「真島昌利のことば」ブルーハーツやハイロウズも入れて10曲セレクト

もっとみる≫




まだまだ健在!「プリティ・イン・ビンク」のあの人たち


サイケデリック・ファーズ、29年ぶりのアルバム『メイド・オブ・レイン』がリリースされた! コロナ禍でも嬉しい驚きはあるもので、これは2020年夏のちょっとしたハイライトだ。サブスクで一曲目を耳にして “コレだ! コレだよ、聴きたかったのは!!” と思ったファーズ・ファンは自分だけではないだろう。

残念ながら、日本ではそんなに盛り上がっていないし、当サイトをご贔屓にしてくれている方の多くも「プリティ・イン・ビンク」のあの人たち、まだやってたんだ!? …… くらいの反応だろうと勝手に判断して、少しファーズについて騒いでみようと思う。

1980年、イギリスから飛び出したサイケデリック・ファーズ


1980年にイギリスから飛び出したサイケデリック・ファーズはUKロックの新たな波として注目を集め…… などという前置きは省く。自分が初めて彼らの音楽を耳にしたのは1982年、当時全英チャートを賑わせていた「ラブ・マイ・ウェイ」。ラジオから流れてきた、そのダークで不穏な響きは田舎の高校生の心を鷲掴みにした。

何より耳にこびりついたのは、歌声だ。ハスキーで、確かにかっこいい。でも、うまく言えないのだが、力が抜けてるというか、腹から声が出ていないというか、息が洩れているというか…… 正直に白状すると「これを歌ってる人は鼻の病気なのかなあ?」と思ったりした。

この時点では、どんなビジュアルの人たちなのかわからなかったが、来日公演時の写真が音楽誌に載り、「ボーカルのリチャード・バトラーって、かっこいいなあ」と思うようになった。とにかく細い。そして当時のイギリスのアーティストらしいダークな、(そして不健康そうな)たたずまい。“デヴィッド・ボウイの再来” と言われたのも納得。かくして、この鼻の具合が心配になるシンガーは、自分にとってロックスターとなった。

世界的成功を収めたアルバム「ミッドナイト・トゥ・ミッドナイト」


1984年のシングル「ヘブン」も大好きだったが、我々の世代にはやはり「プリティ・イン・ピンク」だろう。1981年に発表されたこの曲は、1986年の同名のハリウッド映画に使用され、再レコーディングされてアメリカでも大ヒット。映画自体、今思い出しても切なくなる。この頃には自分も大学生になっていたが、当時付き合っていた、あまり音楽に詳しくない女子も、ファーズを認識するようになったのがちょっと嬉しかった。あまりピンクの服を着る子ではなかったけれど。

とにもかくにも、英国のマイナーなロックスターは世界的なロックスターとなった。となると、次のアルバムが待たれるわけだが、満を持して発表された彼らの5枚目のアルバム『ミッドナイト・トゥ・ミッドナイト』は「プリティ・イン・ピンク」の再録バージョンを収めていたこともあり、ファーズ史上最高のコマーシャルな成功を収めた。自分も輸入盤屋でゲットして何度も聴いた。

しかし、だ。悲しいかな、ファーズ・ファンでこのアルバムを誉めている人は、いまだに会ったことがない。理由は、それまでのファーズのサウンドとは趣を異にしているから。もはやダークではない元気なロックチューンぞろいだし、キャッチーで、エコーも効いている。ぶっちゃけ、らしくない。もっと言えば、売れ線に走りやがって…ということだ。

いや、これはロックスターのアルバムだから、これでイイのだ…… と、自分は声を大にして言いたい。バトラーのクールな鼻声が派手なサウンド処理の中にもくっきりと響いてくる。それだけでお腹いっぱいだし、タイトル曲の疾走感は最高じゃないか!

俗も聖も引き受ける真のロックスター!


この状況はデヴィッド・ボウイが『レッツ・ダンス』を発表したときとよく似ている。ボウイは同作でキャリア最大の成功を手にしたが、評論家や熱狂的なファンにはソッポを向かれた。後年、ボウイは同作を発表したことを後悔していると語ったりもしたが、バトラーもまた後年、『ミッドナイト・トゥ・ミッドナイト』に対して辛辣なコメントを発した。

それでも、ボウイが1983年の夏を踊らせたように、ファーズも1987年の自分のハートを大いにダンスさせてくれた。ロックスターとは、俗も聖も引き受けて、それだけでお腹いっぱいにさせる稀有な存在なのだ。

『ミッドナイト・トゥ・ミッドナイト』の後、ファーズは2枚のアルバムをリリース。同作の猛省を反映させ、コマーシャルに背を向けて、ダークなファーズ節を響かせた。解散後、バトラーはギタリストの弟のラヴ・スピット・ラヴを結成して、その路線を引き継ぐ。やっぱり、そうだよね、こうでなくっちゃねえ…… と思える程度に、自分もそのとき自分は大人になっていた。

2020年の自分は大人どころかジジイへの道まっしぐらだが、今もファーズの新譜に胸が踊るのはどうしようもない。あの頃と変わらない、鼻の具合が悪そうな声で、バトラーはファーズ節を響かせ、今もロックスターとして君臨している。

2020.08.25
21
  YouTube / The Psychedelic Furs


  Apple Music
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1966年生まれ
ソウママナブ
コラムリスト≫
121
1
9
9
1
七夕の夜に思い出す、シンプリー・レッドの「スターズ」と屋敷豪太
カタリベ / 中川 肇
40
1
9
8
9
愛の冷めかけた時代…ポール・ウェラーのスタイル・カウンシル終末期
カタリベ / 平マリアンヌ
13
1
9
8
7
ゼン・ジェリコは徒花じゃない!時代の狭間に響くストレートなバンドサウンド
カタリベ / 岡田 ヒロシ
17
1
9
8
6
ハウスマーティンズと過ごすクリスマス「キャラヴァン・オブ・ラヴ」
カタリベ / ソウマ マナブ
25
1
9
8
2
憧れの12インチシングル、ジギー・スターダストをカヴァーしたバウハウス
カタリベ / ソウマ マナブ
52
1
9
8
5
クイーンが魅せた音楽の力、ライヴエイドでの圧倒的パフォーマンス!
カタリベ /  白石・しゅーげ