リリースの度に我々を驚かすと同時に称賛を浴びせることを禁じ得なかったアーティスト、殿下ことプリンス。特に80年代は「もう驚かないぞ」とこちらが身構えても、軽々とその想像をはるかに超えた作品を次々とリリースしたものでした。
そんな数々のエポックメイキングをやってのけた彼の作品で私が特にぶっ飛んだのが、87年のアルバム『サイン・オブ・ザ・タイムズ(Sign "O" The Times)』からのシングル「サイン・オブ・ザ・タイムズ」のミュージックビデオでした。
マイケル・ジャクソンやマドンナに代表される煌びやかなミュージックビデオ全盛の時代に何とも地味な文字(歌詞)の羅列。今でいうリリックビデオの元祖的な作品です。
正式なミュージックビデオが完成されるまでの仮作品として歌詞を表示したビデオだったり、ファンがYouTubeにあげるために歌詞を表示して作成したビデオを現在ではリリックビデオと言いますが、最近では「リリックビデオ=本作品」というものも少なくありません。
このミュージックビデオは仮でもなく、「本作品」だったわけですが、当時はやっぱりびっくりしましたね。本人が出てこないどころか、アニメーションによる歌詞の羅列だけ。アーティストのかっこいい動く姿を期待するファンの期待をあっさりかわすと同時に「これでええんやろか?」という何だかわからない疑問にも似た衝撃だけを残すことになりました。
楽曲もド渋のファンクネスが強調され、カッコいいんだけど、それほどキャッチ-ではないもの。当時のTVのチャート番組のなかでもこの曲だけ、かなりの異彩を放ってましたね。
今改めてこの作品を観ると最近のリリックビデオにも負けていない、デザインのセンスがうかがえます。あえてシンプルにタイポグラフィーを配置し、曲との一体感も絶妙。「Time」の部分のベタさもいいですねえ。「To=2」、「For=4」、「You=U」などプリンスらしい単語の変換もより印象に残ります。
「プリンスほどの大物のビデオなのに地味すぎる」とも思えるし、「策士のプリンスだから納得」とも思える。さらには「忙しすぎて本人の撮影時間がとれないだけ」とも。
様々な憶測をよんだこの謎めいた作品。その記憶だけは彼のどの作品のミュージックビデオよりも私の脳裏にずっと残り続けたことだけは確かです。
2017.08.06
YouTube / Prince
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