12月21日

The Street Sliders「がんじがらめ」80年代のロックシーンに風穴を開けた媚びないバンド

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ザ・ストリート・スライダーズのアルバム「がんじがらめ」発売日
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スライダーズデビュー40周年記念プロジェクト、完全限定アナログ盤リリース


昨年5月の武道館公演、そして秋からのツアーで圧倒的な現役感を見せつけたザ・ストリート・スライダーズ。2023年の3月からスタートした ”デビュー40周年記念プロジェクト” の第5弾としてデビュー作『SLIDER JOINT』から7枚目の『SCREW DRIVER』までのアルバムに最新マスタリングを施した完全限定アナログ盤が3ヶ月連続でリリースされる。その第1弾が、2月21日に発売となる『SLIDER JOINT』と『がんじがらめ』だ。

危険な誘惑に吸い込まれていくようだった「がんじがらめ」


彼らがデビューした1983年、彼らのようなダーティーでワイルド、気怠さの中にエッジの効いたギミックを忍ばせたロックンロールバンドは他に類を見なかった。当時ティーンエイジャーだった自分も “いけないものを聴いてしまった” という背徳感を抱きながら、その斜に構えた退廃的な誘惑に吸い込まれていった。そのアルバムこそが、まさに『がんじがらめ』だった。

レコードに針を落とすとジャムセッションのようなラフなギターリフから始まる「Toa・Lit-Tone(踊ろよベイビー)」。ルーズな音の中に潜むのは、2つのギターを絡ませながら何かが生まれていくような神秘性だった。今まで体験したことのない世界に迷い込んだような焦燥感の中で、ハリーは「♪踊ろよベイビー」とその気怠い世界に誘う。同時に “俺の世界についてこれるか?” と挑発しているようにも聴こえる。

そこから一転、テープの回転を緩めたようなエフェクトが入り、ハリー、蘭丸、2本のギターが覚醒する。「So Heavy」だ。ここまでくると、もうどうにでもなってしまえ!という気分になってしまう。そんなスライダーズとの出会いは10代の自分には刺激的すぎた。



サウンドから広がるイマジネーションがスライダーズの妙味


ジャケットに目をやると、ハリー、蘭丸の不敵な面構え。破れたポスターをコラージュしたようなアングラ感。そのビジュアルと今まで聴いたことのない音に身を委ねたティーンエイジャーだったら、こう思うしかないだろう。これがロックの世界だ!と。

アルバム通り、身も心も “がんじがらめ” にされながら曲を聴き続けると、そこには、平々凡々とした生活の中では得られない自由への憧憬が垣間見られてくる。4曲目「とりあえず, Dance」では「♪昼寝しすぎた夜は とりあえずDance ボトルもオツムもカラッポ…」と歌う。なんて無軌道な生き方なんだと思いながらも、その魅力に吸い込まれてゆく。サウンドから広がるそんなイマジネーションはスライダーズの妙味だ。

80年代のスライダーズ活動期、彼らのファンは、出で立ちからひと目で分かった。インド、ネパールなどからの直輸入ファッションが豊富に揃っていた “仲屋むげん堂” などで売られていたルーズなシルエットのエスニック柄のシャツにブラックジーンズでアスファルトに腰を下ろし、短くなった煙草を吸っている…。そんなスタイルがライブ会場には溢れていた。無論それは、スライダーズの音の世界をライフスタイルで十分に体現しているということだ。音を楽しむだけでなく、生活の全てが持って行かれる魔力がスライダーズのアルバムには潜んでいた。そしてそれが顕著に表れているのが、初期の2作品、『SLIDER JOINT』と『がんじがらめ』だと思う。



文学性を内包している現代詩人としてのハリーの個性


その魔力には、孤独と対峙するような文学性を内包していることも忘れてはならない。そんな現代詩人としてのハリーの個性が遺憾無く発揮されているのが、A面の最後に収録されている「道化師のゆううつ」だ。

 憂鬱な夜にひざを抱えて
 Ah おまえが見えない

 うもれた灰皿シケモク探せば
 Ah マッチがカラッポさ

孤独の中で陰鬱としながら、ひとりの女性を思う。そんな夜の長い時間を “うもれた灰皿” と “カラッポのマッチ”という対比で端的に表現しながら、聞き手はそのワンシーンに吸い込まれていく。ロックにありがちな連帯感や共有感を拒むようなアティテュードもスライダーズの魅力なのだ。

そして、ラストナンバーの「SLIDER」でエナジーを最高潮に持っていきながらアルバムは突如終わる。つまり熱狂の渦中にいきなり現実に戻される感覚。呆気に取られながらも、その余韻が頭の中を渦巻く状況だ。完膚なきまでの世界観が『がんじがらめ』の中で確立されていた。

4月に日比谷野音公演!スライダーズの40周年アニバーサリーはまだまだ続く


音、ファッション、言葉… 三位一体で織りなす世界観で、スライダーズは80年代のロックシーンに風穴を開けた。その魔力に取り憑かれたファンにとって、解散から20年以上という時を経た去年の復活がいかに “待ち侘びた日” だったのかは明白だ。そして、これまでの空白は何もなかったかのような現役感を見せつけたスライダーズ。来る4月6日には日比谷野外音楽堂でのスペシャルGIG「enjoy the moment」も発表され、彼らの40周年アニバーサリーはまだまだ続く。この機会に初期の危うさが凝縮された『SLIDER JOINT』と『がんじがらめ』を最新リマスターで堪能して欲しい。

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2024.02.21
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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