10月21日

すべてがそこに詰まっていた。一生モノのレコード ZELDA「空色帽子の日」

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photo:SonyMusic  

フジロックもサマソニも無縁の大人生活を送ってきたつもりだったが、この間、実家の秋田に住むひとつ年下の従弟と話をしていて、大人になった最初の年に、フェス経験していたことを思い出した。

1986年、帰省をしたマナブ、二十歳の夏休み。

従弟が「秋田でロックイベント、あるど!」と誘ってくれた『秋田ロックシティカーニバル』。BOØWY を筆頭に、当時人気のあった日本のロックバンドが秋田市の八橋球場に集ったフェスだ。ロック不毛の地と言われていた地元での開催とあっては黙ってられない。

「へば、行ぐが!」と、二つ返事で OK だ。

このフェス、デビュー前のブルーハーツやレッド・ウォーリアーズを観られたのも嬉しかったが、上り調子にあったバービーボーイズやストリート・スライダーズのステージにもシビレた。太陽が真上に上りきっていない正午前から炎天下を経て夜10時近くまで、ぎっちりアツい一日であった。

スライダーズが一番の目当てではあったが、もうひとつの目当ては ZELDA だ。高校時代に「Ash-Lah」をラジオで聴いてぶっ飛んで以来、気になっていたが秋田で観ることはかなわず、『宝島』誌でその強烈なパフォーマンスが紹介される度に「あー、ライブ観てえなあ」と思い続け、ついにその夢がかなう!

この夏休みに帰省したとき、二十歳になったお祝いと、従弟のお母さん、すなわち叔母さんが「一生聴くレコードを買いなさい」とお金をくれた。うーむ、嬉しいが、これは難題だ。無難にビートルズのレコを買うという手もあったが、どうせならリアルタイムのレコがいい。迷ったあげく、ZELDA の当時の新譜『空色帽子の日』を購入する。

で、聴いてみたら、これが凄かった。

メルヘンと狂気、動と静、愛と性… 当時の若者、というかバカ者が求めていたすべてがそこに詰まっていた。とりわけB面2曲目の「小人の月光浴」は「Ash-Lah」に匹敵する高みに向かうかのようなサイケデリックなギターに加え、詞も噛みがいがある。

話を『秋田ロックシティ』に戻す。会場の入り口に貼られていた出演バンドの順番を、なんとなーく把握して、そろそろ ZELDA の出番かな… と思い、従弟とともに前方に向かった。が、出てきたのはラフィンノーズ。嫌いじゃないし、このまま前で観るか… と思ったが、読みが甘かった。

いやはや、パンクだ。おしくらまんじゅうに体が宙に浮く。「ゲッ、ゲッ、ゲッザグローリー!」で一度手を振り上げたら態勢はもう戻すことができず、姿勢はどんどん窮屈になる。苦しそうな従弟の眼鏡は炎天下なのになぜか曇っている… すさまじいモッシュ初体験。これを乗り越えた後は、どんなモッシュピットにも突っ込んいける程度に大人になった…。

その後に出てきた ZELDA の演奏は、盛り上がりという点ではラフィンにはかなわなかったものの、期待にたがわぬ素晴らしさ。まだ陽は高かったが、サイケデリックなギターに乗った “月光浴” を存分に体感した。

昨年の一月、『空色帽子の日』を買ってくれた叔母さんは他界したが、今でもこのアルバムを聴くと叔母さんを思い出す。まさに、一生モノのレコード。先月6月9日、ロックの日にリマインダー主催の DJ イベントでもかけたけれど、いまも “踊るは楽し” な “月光浴” を続けている自分がいる。

2018.07.23
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