ライブハウスのトイレにハリーのツアーポスターが貼ってあった。ハリー、元気かなぁ。大学のサークルの伝説のOBでもあるかのように、今私はハリーを遠くから想う。ロックバンドの色気とは何かを教えてくれたのは、ストリート・スライダーズだった。
学生時代、ハリーにバンド加入を誘われた蘭丸がしばらく返事をしなかったのは、ハリーの存在そのものがあまりに強烈で気圧されてしまったからだという。デビュー前のスライダーズを見たどこかのテレビ局の人が「ギターとボーカルだけ欲しい。あとふたり美少年を入れれば完璧なバンドだ」と言った失礼な話も聞いたことがある。
ギブソンSGを抱えて背中を丸め、肩を揺らしてリズムを刻む蘭丸の姿は神々しかった。派手なシャツとじゃらじゃらのインド・アクセサリー。ハリーはテレキャスを下げ、左手を腰に当てて右手を高く上げる。完璧なロック・アイコン。極彩色の蝶の鱗粉があたりを漂う。当時数多あるバンドの中で ”追っかけ” がいちばん激しかったのはスライダーズだという伝説も残っている。
風が強く吹く日は「風がー強い日ー、雲がー流れてくー」と突き放すように歌うあのしゃがれ声が必ず聴こえてくる。同好の士が何人もいることを知っている。もう30年も前の、特にヒットしたわけでもない曲。あの頃、スライダーズは次に何を歌う? と私の周りはよくざわめいていた。
そのざわめきがいちばん大きかったのは、「風が強い日」も収録された『BAD INFLUENCE』のときだった気がする。4曲もシングルカットされた前年の『天使たち』で注目度が上がり、新曲を待つ空気が濃くなってきた中でやっと届いたリード・シングルは「EASY ACTION」。歌詞で糾弾される ”アンタ” とはいったい誰なのか。あれこれと物議をかもす。8月には広島で大規模な平和コンサートがあり、スライダーズは1曲目にリリースしたばかりの「EASY ACTION」を歌うことにしていた。しかし前日に原爆ドームを見に行き、この曲は相応しくない、と予定を変えた。彼らはそうやって歌に責任を持った。
『BAD INFLUENCE』はオリコン3位になったが、ドラムのズズの交通事故により全国50か所のツアーはすべて中止された。おそらくバンド史上もっとも華やかでもっとも影響力を持ったであろうツアー。それでも他のドラマーの助けを借りるという案をハリーは拒んだ。その後は3年の活動休止期間をはさみ、2000年に武道館で解散。最後に下手へと帰っていくハリーの細い背中を覚えている。今、ベースのジェームスの夢はスライダーズ再結成だという。硬い目をしたハリーはステージで何を想っているのだろう。
2017.02.05
YouTube / PubRock69
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