12月17日

富田靖子デビュー!映画「アイコ十六歳」松下由樹と宮崎萬純も初お目見え

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製作総監修は大林宣彦、監督は今関あきよし「アイコ十六歳」


トシとって涙モロくなるにも程があるやろ、という話なのだが、最近のワタシは自分の溺愛している映画やドラマを見始めると、オープニングの時点で早々にウルウルしてしまうことがある。

そんな映画のひとつに『アイコ十六歳』(1983年)がある。

原作は名古屋在住の高校生・堀田あけみさんが当時史上最年少で文藝賞を受賞した小説『1980 アイコ十六歳』。そして監督は自主映画界で名を成し、弱冠23歳にして本作で商業映画デビューを果たした今関あきよし氏。

製作総監修には大林宣彦氏、そして脚本には桂千穂氏、内藤誠氏といったベテランが名を連ね、アミューズ・シネマ・シティと中部日本放送の提携により制作された本作は、高校生の登場人物は全て、全国規模で大々的に敢行されたオーディションによって選ばれた。その応募者たるや実に12万7千人。その中から松下幸枝(現・松下由樹)もアイコのクラスメートで同じ弓道部員・りんりん役に選ばれ輝きを放っている他、宮崎萬純も弓道部員の一人として出演している。

そんな並み居る応募者の中から、栄光の主役の座を掴んだのが、我らが冨田靖子(現・富田靖子)である。

冨田靖子演じる “どこにでもいる高校生女子”


この作品の主人公・三田アイコは等身大の高校1年生。中学の時から付き合っている「アイツ」とのことで悩んだり、アイコと同じ弓道部に所属する同級生・紅子のブリッ子ぶり、そしてそんな紅子にデレデレしている男子たちに憤慨したり、あるいは憧れの女性教師の自殺未遂に心乱れたりと、単なる男子の理想像たるヒロインではなく、(同じクラスにいても、きっと男子にとって高嶺の花とはならないような)正に “どこにでもいる高校生女子” である。

ストーリー面でも、若者の物語でありながらラブストーリー要素は薄く、正に青春グラフィティと表現するに相応しい場面が連続する眩しく、特にオープニングにおけるアイコの朝の自転車通学シーンの疾走感が素晴らしい前半から、後半は「いのち」をテーマに焦点を絞り、明るく元気なだけではない青春の陰の面を描き始める。

ところでこの『アイコ十六歳』は公開時、本作のメイキング映画『グッドバイ夏のうさぎ』が同時上映されている。そこに収められた貴重なオーディション風景の映像を見ると、既にこの時点で冨田靖子は半端ない煌めきぶりを見せていたことが窺える。

オーディション会場での待ち時間に、課題の台本を繰り返し読んでいる時の鋭い眼光。そして自分の番が回ってきた時の「憑依」とでも言いたくなるような役への入り方には凄みさえ感じさせる。

見た目だけで言うと、オーディション参加者の中には、即アイドルとしてデビューできそうな可憐な女子は、他にもワンサといた気がする。しかしながら「“生まれながらの可愛さを持った女子” の青春の煌めき」ではなく、「“どこにでもいそうな女子” の青春の煌めき」を迸らせるような、ある意味得体の知れぬ魅力を持っていたのは12万7千人の中でただひとり、冨田靖子しかいなかったのではないかと思わせる。

前述の通り『アイコ十六歳』は、青春を面白おかしく戯画化しただけの作品ではなく、若さゆえの陰鬱な面もしっかりと描いていた。そんな本作においてこそ、女優・冨田靖子の「憑依」ぶりは遺憾なく発揮されたと思う。

性別を越え観客を “一体化” させる威力


若い男子が女性タレントやアイドルに熱を上げる時、多かれ少なかれ「彼女にしたい」「自分と付き合ってほしい」という妄想なり煩悩なりを抱くのは当然のことであるが、この映画で冨田靖子にハマった私個人の感覚は、「彼女にしたい」という感覚も皆無ではないながら、どちらかといえば「隣の席に座った彼女と他愛なく喋ってみたい」という感覚に近かった気がする。

さらに誤解を恐れず、眉をひそめられることを覚悟で言うと、この映画での冨田靖子の存在は、「アイコは俺だ!」と言わしめるものがあった。もちろんそれは、アイコという登場人物が男っぽかったとか、そんな意味では決してない。

この作品における冨田靖子は、例えば落胆、嫉妬、失望、歓喜、動揺、嫌悪、戸惑い…といった日々刻々と変わるアイコの感情を、観客に(性別を超えて)ストレートに共感、いやもっと言えば “一体化” させる威力があった。そして恐ろしいこと(?)に、50代半ばとなった今観返しても、相変わらず私はアイコと一緒に泣いたり笑ったり腹を立てたり、一喜一憂しているのだ。『アイコ十六歳』という映画、そして冨田靖子恐るべし。

それにしても、いくらこの映画を溺愛しているからといって、オープニングだけでウルウルしてしまうのは、もはや遥か遠い日々となってしまった青春に対する郷愁ゆえなのだろうか、嗚呼!

しかしながら、『アイコ十六歳』のフィルムに焼き付けられた “青春の冨田靖子” は永遠である! 嗚呼!!

「オレンジ色の絵葉書」で歌手デビュー


ーー さてここで、歌手・冨田靖子について触れる。

彼女はこの『アイコ十六歳』のイメージソング「オレンジ色の絵葉書」で歌手デビューを飾っているが、劇中では使われておらず(安田成美の「風の谷のナウシカ」のような存在?)、その歌声は予告編映像や、前述の『グッドバイ夏のうさぎ』の中で耳にすることができる。



恐らくこの曲はさほどヒットしなかったと思うが、彼女の朴訥な歌唱はまるでアイコが歌っているかのような魅力がある。例えばサビアタマ、

 どんな距離を飛び越えてみんな出会うの

―― の部分の音程の危なっかしさ、それに続く、

 心のガラス少し傷つけながら

―― という歌詞もメロディーもまたアイコの存在感そのものだから、イメージソングとしては正しい存在だったのだと思う。あるいは劇中で、アイコが鼻歌交じりに歌う「きよしこの夜」や「カラスなぜ鳴くの、カラスの勝手でしょ」などにおいて、冨田靖子のチャーミングな歌声を垣間見ることができる。

のちに富田靖子は、大林宣彦監督による尾道三部作の第三作にして奇跡的傑作『さびしんぼう』で、“永遠の青春” たるその存在を極めることになるが、紙数が尽きたのでこちらについてはまた改めて。

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2023.02.27
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カタリベ
1967年生まれ
使徒メルヘン
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