ハリー(村越弘明)とジェームズ(市川洋二)は1959年生まれ。蘭丸(土屋公平)とズズ(鈴木将雄)は1960年生まれ。この二組の同級生が1980年に大学の学園祭で出会って始まったスライダーズは、2000年に解散するまで孤高のバンドだった。アマチュア時代は福生を拠点に活動し、そのルーズなロックンロール・スタイルから横田基地では米兵に “リトル・ストーンズ” と呼ばれていた。81年に知り合いから頼まれて欠場者の穴埋めのために出たコンテストで優勝し、レコード会社8社から声がかかる。EPICソニーからのデビューは83年3月5日。 スライダーズは楽曲や演奏スタイルはもちろんのこと、見た目も鮮烈だった。髪を立て、メイクをし、サイケなシャツにじゃらじゃらのアクセサリー。ジェームズとズズのリズム隊は後ろでどっしりと構え、こけた頬に鋭い眼光のハリーがその圧倒的な声で挑みかかってくる。隣でギターを弾く蘭丸は ”スライダーズには金髪のスケバンがいる” という噂もたったほど中性的だ。(話はそれるが、解散後テレビのバラエティー番組での蘭丸の姿を見て、まるで魂を売ったかのような戯言を言う人がいた。だが蘭丸はもともとよく喋りよく笑う人だ) 私がスライダーズに完全にハマッたのは86年11月21日にリリースされた5thアルバム『天使たち』でのこと。サウンドプロデュースに佐久間正英氏を迎えたこのアルバムはバンドにとって勝負作であり、同時にポップすぎると従来のファンからは不評も買った。 アマチュア時代のスライダーズには喧嘩や乱闘騒ぎの逸話が多い。当時は横揺れのロックンロールを受け入れる土壌が少なく、酔っぱらったパンクスに蘭丸がステージから引きずり降ろされ、それを見たハリーが殴りかかっていったなどの武勇伝は数知れない。ファンも少しイッてしまってる人が多く、着物を着た女の子がステージに歩み寄ったかと思うと袂から生肉を出してステージに置き、そのまま立ち去ったという話も聞いたことがある。そんな人たちはストイックに閉じこもる音を好んだ。 「Boys Jump The Midnight」のイントロで幕を開ける『天使たち』がいかに開けた素晴らしいアルバムか。ハリーと蘭丸がどんなに神々しいロック・アイコンだったか。それを語るには今回はもう文字数がない。デビュー・シングルのB面で「のら犬にさえなれない」(名曲!)と歌ったハリーがいざなう、その先の世界。ウォークマンから聴こえてくるあのギターを思い出すだけで、何かが始まる予感を今も手に入れられる気がする。
2016.10.15
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