最近、中古のアコースティックギターを入手した。気晴らし程度に軽く弾いているうちは問題ないのだけど、時々何かのスイッチが入ってしまうのか時間を忘れて弾いてしまうことがある。
しばらくしてコードを押さえる左の指先が痛くなってくる。そんなことが何回か続くと指先は硬くなり軽いギターダコができる。ギタリストにでもなったような気がしてちょっと嬉しかったりもするわけなんだけれど、このギターダコができると聴きたくなるのがアズテック・カメラの「ジャンプ」だ。
1998年、ヴァン・ヘイレンが来日した時のこと。仕事の取引先の担当者からヴァン・ヘイレンのコンサートに誘われた。その人は、日本滞在中のヴァン・ヘイレンの世話をしているらしく、バンドのスタッフから招待されたのだという。正直、ヴァン・ヘイレンに興味はなかったが、武道館には数えるほどしか行ったことがなかったし、せっかくのお誘いだったので行くことにした。
武道館に着くとステージを横から見るような関係者席に案内された。死角はあれど、気になるほどでもなくステージを楽しめ、あっという間にコンサートは終了。さぁ飲みに行こうかと思っていると、誘ってくれた人が「控え室に挨拶に行く」と言い出し、行きがかり上、同行することになった。バックステージパスを出しながら慣れた感じで「関係者以外立ち入り禁止」のドアを開けてズンズン中に入っていく後をはぐれないようについて行った。
辿り着いた控え室は、関係者がたくさんいてなんだかよくわからない状態。挨拶が終わるのを居心地の悪さを感じながら部屋の隅っこで待っていると、僕のすぐ側でタバコを吸っている外国人が立っていた。
“なんかこの人、エディ・ヴァン・ヘイレンっぽいな〜” と思いながら、僕は英語もろくに喋れないくせに手持ち無沙汰が勝って大胆にも声をかけてみた。
笑顔で返事をしてくれたその人は「ジャンプ」の PV でニッコニコでギターを弾くエディに間違いなかった。挨拶をしながらいきなり「左指を見せてくれ」と頼んでみると、笑顔を崩さずに左指を差し出してくれた。僕はその指に触り、そのカチカチ具合に驚いていると、エディは右手に持っていたタバコの火がついている方を自分の指先に当てはじめた――。
僕はびっくりして、商売道具に根性焼きなんかやめなさいと制止しようとすると、「ぜんぜん熱くないんだよね〜」とあの満面の笑顔で言うのだった。
そんな訳でギターダコができると記憶の連鎖が発動する。
ギターダコ ⇒ エディ・ヴァン・ヘイレンの指 ⇒ 満面の笑顔 ⇒「ジャンプ」の PV。そして最後に、アズテック・カメラの「ジャンプ」が聴きたくなってくるのだ。
1984年にリリースされた、アズテック・カメラのメジャー移籍後、最初のシングル「オール・アイ・ニード・イズ・エヴリシング」のB面がヴァン・ヘイレンのカヴァー「ジャンプ」だった。こんなに綺麗なメロディだったっけ? と思うほど原曲とは全く違う流麗なアレンジで、笑ってしまうほどジャンプ力が感じられない。でもサービス精神旺盛なエディには申し訳ないが、僕にはヴァン・ヘイレンよりもアズテック・カメラの「ジャンプ」の方が、説得力があってなぜかやる気にさせられる。
かったるいけどそろそろやってみるかな〜という感じ。低い決意と言うなかれ! 冬の寒い朝、布団を剥ぎ取られて起きるより、自分の意思で布団からもぞもぞと這い出す、そんな決意を抱かせる名アレンジだ。
ロディ・フレイムは根性焼きなんかやらないだろうな~。
2019.01.04