トリスの味は人間味、名作CM「雨と犬」
1980年代の名作CMというと、必ず出てくるのがサントリーウイスキーのCMだ。以前
『大原麗子に重なる「とまどいトワイライト」すこし愛して、ながぁ~く愛して。』でも、サントリーレッドのCMに触れたが、その他にも多くの名作がある。中でも不朽の名作といえば、「雨と犬」「ランボオ」の2本だろう。40代後半以上の人なら、「あぁ、あれね」と、すぐに思い出すはず。
「雨と犬」は1981年に流れていた、サントリートリスのCMだ。たれ耳の哀愁あふれる表情の子犬が、京都の町を走り回るシンプルなつくりなのだが、見るたびに切なくなる。お寺の境内、雑踏の中、大木のある公園、川のほとり……。このワンコ、途中雨に濡れながらもけなげに走る走る。
当時は見るたびに、「優しい人が子犬を拾うラストシーンが加わってますように」と、願わずにはいられなかった。後に、この子が保健所から見つけられ、撮影後はCMスタッフに飼われて天寿を全うしたと聞き、なんだかほっとした。
CM曲は、ビリーバンバンの菅原進が歌う「琥珀色の日々」。原曲には歌詞があるのだが、CMで使われているのは「♪ ダディダディダディダ」と歌う、スキャットのみ。クラシックギターが爪弾くイントロから、胸がキュッとしめつけられる。
「いろんな命が生きてるんだな。元気で、とりあえず元気で、みんな元気で」というナレーション。そして、“トリスの味は人間味” というコピー。肝心のトリスは、最後に氷の入ったグラスに注がれ、ボトルと一緒に映るだけだ。
ローヤルはラストカットに映るだけ、詩人「ランボオ」を映像化
1983年に流れていたサントリーローヤルCM「ランボオ」も忘れ難い。砂漠の中をピエロや火を吹く怪物男、小人症の天使など、異端ともいえる人々と放浪するランボオらしき男性。ナレーションはひたすら詩人ランボオを語り、「放浪の詩人、ランボオ。あんな男ちょっといない」と締めくくる。
ここでも肝心のローヤルは、ラストに映るだけ。ボトルの封をナイフで切る場面はあるが、グラスに注がれるところさえない。もちろん、ローヤルの味わいについては、まったく触れていない。
当時は、夢の中の光景を見せられているようで、なんだかこわかった。CM曲もインパクトがあった。中東風でもあり、サーカスの音楽のようでもある妖しい曲のタイトルは「剣と女王」。米シカゴ出身のミュージシャンで、ジャクソン・ブラウンのバンドのリードギターをしていたこともあるマーク・ゴールデンバーグの曲だ。
時代は変わる… 最近のサントリーウイスキーのCMって?
そういえば、最近のサントリーウイスキーのCMってどんなだっけ? と気になり、サントリーのウェブサイトでいくつか見てみた。すると、必ず人気俳優が登場し、彼らがおいしそうにゴクゴクと飲む場面がある。飲み方の主流はもちろん、ロックでもストレートでも水割りでもなく、ソーダで割るハイボールだ。
これはこれでおいしそうだし、最近テレビで見たはずのCMなのに、よく覚えていないのはなぜだろう。録画で番組を見て、CMはスキップされがちな今の時代、商品の魅力を即伝えなければ、商品PRはできないのかもしれない。
子犬を雨に濡らしたり、異端の人たちを登場させたりといった、40年近くも前のCM。今なら、炎上する可能性もないとはいえない。かつて人気だった小人プロレスが、彼らを笑いものにしているという抗議によって、放送されなくなったことをふと思い出した。
そうそう、80年代に5,000円以上する高級ウイスキーだったローヤル。今は3,000円位で買え、ナイフで紐を切る封切りの儀式も必要ないらしい。
2020.12.15