３枚組ライブアルバム「流民の歌」価格設定における甲斐バンドの熱き思い？

1980年初夏、国内盤レコード値上げの衝撃！

消費税が10パーセントとなり、日用品が微妙に高くなった。正直キツいし、同時に腹立たしくもあるのだが、ここで政治について話す気はないので、それについては呑み込んでおく。お酒の値段も上がったし、大人になってからずっとタバコの値段は上がりっぱなしだ。やっぱり、いろいろキツい。しかし、あの時に比べれば、まだマシかもなあ… と思える出来事が、その昔あった。

消費税というものがまだ存在していなかった1980年の初夏、レコードを買う楽しみに目覚めて１年半を経た中坊は、衝撃的な現実に直面する。７インチのシングルレコードは600円から700円に、アルバムは2,500円から2,800円に値上げします―― と、複数の大手レコード会社が発表したことだ。これには慌てた。

ひと月のお小遣いは2,000円ちょっと。毎月買っている映画雑誌、月に一本見る映画、それを除けば、余ったお金で２か月に一度は７インチを一枚、買える。節約すればアルバムも買えた。しかし、これでは余裕がなくなる。缶ジュースも買えなくなるぞ……。

大好きだった甲斐バンド。「ビューティフル・エネルギー」は600円だけど、「漂泊者（アウトロー）」からは700円に！

当時大好きだった甲斐バンド。アルバムは簡単には買えなかったが、７インチは何とか買い続けていた。３月に出たシングル「ビューティフル・エネルギー」は600円だった。しかし、７月に出る「漂泊者（アウトロー）」のシングルは700円になるという。100円の値上げと笑うなかれ。中学生にとって、財布への破壊力はとてつもないものだった。

それでも「漂泊者（アウトロー）」は買った。この曲、同年の４月から始まった TV番組『土曜ナナハン学園危機一髪』の主題歌で、ノリがよく、歌詞も反逆的で、当時の中坊にはまぎれもないロックンロールだった。キツくても、これは買うしかない。

しかし、この頃、映画の鑑賞料金も100円ほど上がった。レコードを買うのはちょっと我慢だなあと思い、その後はエアチェックで済ませるしかなかった。

甲斐よしひろの熱き思い、３枚組ライブアルバム「流民の歌」は少しでも安く！

翌1981年６月、甲斐バンドはライブアルバム『流民の歌』をリリースした。なんと３枚組。２枚組アルバムの当時の標準価格は4,000円だから、これは5,000円台半ばかなぁと思っていたら、値段は4,920円だった。それでも十分高いのだが、このハンパな価格設定はなんなのだろう……。そんな折りに目に留まったのが、雑誌に載っていた甲斐よしひろのインタビュー。「５千円以上だったら若いヤツは買えないだろ？」ということで東芝EMI と交渉した結果、この価格に落ち着いたという。半端な数字になったのは EMI がレコードの組数＝３で割り切れる数字を望んだとのことだった。

これを読んで、無性に熱くなった中坊は、どうしてもこのアルバムが欲しくなり、節約をして、親にたかったりしながら、なんとかゲットした。パーカッションがガンガン効いている、このアルバムは今聴いてもかっこいい。2019年10月のリマインダー主催のクラブイベント『博多ビートパレード』で、このアルバムから「ポップコーンをほおばって」をかけたが、予想以上に盛り上がったのは、嬉しかった。

結局のところ、人は “すごくすごく好きなもの” に対して、お金を出すことを惜しまない。酒もタバコも音楽も大好きだ。そこに消費税の意識はない。好きだから買う！あ、でも消費税を撤廃してくれても、ウェルカムですよ。

2019.11.24