市川崑が演出、サントリーレッドCMで演じたツンデレ妻
数々の名作CMを世に送り出してきたサントリー。中でも、1980年代に放送されていたサントリーレッドのCMは印象深い。夫の帰宅を待ちながら、時折憎まれ口を叩く妻(愛人に見えないこともない)を演じた大原麗子のツンデレぶりは、当時のオジサマたちをメロメロにした。
演出は、名匠・市川崑。映像に奥行きと趣があり、大原の仕草や表情が愛らしくて艶っぽい。短い時間の中で、見る人の想像力をかきたてるCMは、映画の一場面のよう。さらに、「すこし愛して、ながく愛して」というロングセラーウイスキーへの愛しさが増すコピーと、それをささやく大原独特の甘くかすれたような声も、CMの魅力を深めていた。「ながぁ~く」とのばすところが耳に残り、明石家さんまをはじめ、さまざまな人がモノマネをしていた記憶がある。
倉本聰の脚本、ドラマ「たとえば、愛」で演じたディスクジョッキー
そんな大原麗子の声の魅力を活かしたドラマとして忘れ難いのが、1979年に放送されたTBSドラマ『たとえば、愛』だ。大原が演じたのは、ラジオの深夜放送のディスクジョッキー。
「こんばんは、九条冬子です。木曜の夜は0時から2時まで、冬子がお送りするミッドナイトクール」
ドラマ内のラジオ番組は、毎回こんな語りから始まる。リスナーからのハガキを読む場面も多く、その中にさまざまな人生の物語があり、それが時に冬子の人生に重なる。脚本は、倉本聰。倉本は大原の声に魅せられて、ディスクジョッキーという設定にしたのではないだろうか。
このドラマが放送されていたのは、木曜夜10時、連続ドラマシリーズ「木曜座」の枠。「木曜座」は、1978年4月から5年間放送され、大原は『たとえば、愛』以外にも、2本の作品で主演を務めている。
レッドのCMでは、和服姿でツンデレ妻を演じていたが、「木曜座」主演作3本では、いずれもバリバリ働く都会の女。そのため、子どもの頃から大人のドラマが大好きだった私には、大原麗子というと恋多きキャリアウーマン役のイメージが強い。
孤独死に重なるドラマ主題歌、豊島たづみ「とまどいトワイライト」
『たとえば、愛』は、豊島たづみが歌う主題歌「とまどいトワイライト」も印象深い。
笑い過ぎたあと ふと気が抜けて
指でもて遊ぶ カクテルグラス
映画の話も そろそろつきて
店を変えようと 誰かが言いだす
とまどいトワイライト 心が揺れる
とまどいトワイライト 私が揺れる
このまま帰っても このまま帰っても
誰もいない部屋のドアを
開ける音を聞くのがつらい
都会で一人暮らしをしたことのある人ならドキリとするような歌詞。2009年に、大原麗子が死後3日たって自宅で発見された…… というニュースを聞いたとき、私はふとこの曲を思い出した。
六本木野獣会の夜遊び好き少女から人気女優となり、華やかに芸能界を駆け抜けながら、2度の離婚を経験。晩年は病と闘い、一人死んでいった大原麗子が重なってしまう。
大原麗子へのオマージュ? 昼ドラ「やすらぎの郷」エピソード
『たとえば、愛』から38年後の2017年、倉本聰作の昼ドラマ『やすらぎの郷』がテレビ朝日系で放映された。舞台となったのは、テレビ界で活躍していた人たちが入居する高級老人ホーム。倉本が『やすらぎの郷』を書いたのは、大原がきっかけだという。ドラマの中に、彼女をモデルにしたらしい、孤独死した大女優のエピソードも出てきて、「すこし愛して、ながぁ~く愛して」のささやきも使われている。
倉本聰が女優・大原麗子を愛していたことが伝わってくるが、私は複雑な気持ちになった。あんなに輝いていた女優なのに、彼女を語るときに “孤独死” という言葉が必ず付きまとうのは、あまりにも切ない。勝気な性格だったという大原自身も、さぞや不本意ではないだろうか。
※2020年7月12日に掲載された記事をアップデート
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2022.08.03