6月5日

ブルーコメッツのカバー「すみれ色の涙」は岩崎宏美の姉が提案したものだった!

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10年周期でやってくる “邦楽のカバー曲が立て続けに売れる年”


邦楽のカバー曲が立て続けに売れる年が10年周期でやってくる――。そんな不思議な法則が昭和の歌謡界にあったことをご存じだろうか。

最初の当たり年は1961年。前年に井上ひろしがカバーした「雨に咲く花」(原曲:関種子 / 1935年)がヒットしたことから、戦前生まれの流行歌やご当地ソングにスポットが当たり、時ならぬリバイバルブームが起こったのだ。代表的な例を挙げると、

■ 無情の夢 / 佐川満男(児玉好雄 1936年)
■ 並木の雨 / 井上ひろし(ミス・コロムビア 1933年)
■ 北帰行 ※各社競作(旧制旅順高等学校の愛唱歌 1941年)
■ 北上夜曲 ※各社競作(岩手県発祥の愛唱歌 1941年)

… など。極めつけはフランク永井が歌った「君恋し」(二村定一 1929年)で、同作は日本レコード大賞を受賞する。

それから約10年。1970年から1971年にかけては、

■ 圭子の夢は夜ひらく / 藤圭子(ひとりぽっちの唄 / 藤原伸 1966年)
■ 女の意地 / 西田佐知子(セルフリメイク 1965年)
■ 知床旅情 / 加藤登紀子(しれとこ旅情 / 森繁久彌 1965年)
■ 雨のバラード / 湯原昌幸(スウィング・ウエスト 1968年)

… などがトップ10入りを果たし、「女の意地」以外の3作はオリコン1位を獲得。1971年の日本レコード大賞を制した尾崎紀世彦「また逢う日まで」も、実はズー・ニー・ヴー「ひとりの悲しみ」(1970年)のカバーであった。

「二度あることは三度ある」とはよく言ったもの。その10年後、1980年から1981年にかけて、みたびカバーブームが到来する。先陣を切ったのはロス・インディオス&シルヴィアの「別れても好きな人」(松平ケメ子 1969年)。以後、

■ 眠れぬ夜 / 西城秀樹(オフコース 1975年)
■ 化粧 / 桜田淳子(中島みゆき 1978年)
■ 真夜中のギター / 高田みづえ(千賀かほる 1969年)
■ まちぶせ / 石川ひとみ(三木聖子 1976年)
■ ハロー・グッバイ / 柏原よしえ(ハロー・グッドバイ / アグネス・チャン 1975年)

… などが続く。

たまたまカバーソングだった企画? 岩崎宏美「すみれ色の涙」


前置きが少々長くなってしまった。本稿の主役、岩崎宏美の「すみれ色の涙」はそのさなか、1981年6月5日にリリースされた。原曲はジャッキー吉川とブルー・コメッツ「こころの虹」(1968年)のカップリング曲。

とはいえ、折からのブームに乗ったわけではない。企画会議で採用されたのが、たまたまカバーソングだったのだ。当時の彼女はデビュー7年目で22歳。新人時代から抜群の歌唱力と、一流の作家陣による楽曲で人気歌手の座を確立していたが、トップ10ヒットは「万華鏡」(1979年9月)以来、遠ざかっていた。

ちなみに1980年のシングルは、多彩なメロディで構成された「スローな愛がいいわ」(作詞:三浦徳子、作曲:筒美京平、編曲:萩田光雄)、AOR歌謡の「女優」(作詞:なかにし礼、作・編曲:筒美京平)、歌曲風の「銀河伝説」(作詞:阿久悠、作曲:宮川泰、編曲:川口真)、シティポップ調の「摩天楼」(作詞:松本隆、作曲:浜田金吾、編曲:井上鑑)。

1981年は官能的な歌詞と転調が印象的な「胸さわぎ」(作詞・作曲:松尾一彦、編曲:戸塚修)、和テイストの「恋待草」(作詞:伊達歩、作曲:小林亜星、編曲:松任谷正隆)… と1作ごとに作家と曲想を替え、20代ならではの意欲的な挑戦を重ねていた。が、なぜか大ヒットには至らず。いずれも素晴らしい完成度で、作品としての評価も高かったにも関わらず、である。

岩崎宏美の姉が提案、原曲はジャッキー吉川とブルー・コメッツ


「最近の宏美は難しい歌ばかり歌っているから、このあたりでみんながカラオケで歌えるような曲を出すべきじゃないか」

―― 企画会議でそんな意見が出たのはそういう状況を踏まえてのことだった。確かに上記のシングルはレンジが広く、起伏の激しいメロディや難易度の高いリズムの曲ばかり。歌謡界屈指の実力派ゆえ、作家もあえてそういう作品を提供していたのだろうが、素人が気安く口ずさめるものではなかった。

その企画会議では、各自がよさそうだと思うレコードを後日持ち寄ろうということになるが、岩崎が自宅でその話を家族にしたところ、4歳上の姉から推薦されたのが「すみれ色の涙」(余談だが、岩崎家は3姉妹で、次女が宏美、三女が良美である)。もともとブルコメのファンで、洋楽にも精通していた姉から音楽面での影響も受けていた岩崎はそのレコードを会議に提出、その結果「これをカバーしよう」ということになったのだ。

「恋待草」に続く “草花シリーズ” 第2弾としてリリースされた「すみれ色の涙」はシンプルな構成と覚えやすいメロディで、すぐに多くのリスナーの心を掴む。岩崎を含むスタッフ全員が紫色のジャンパーを着て全国展開したキャンペーンも功を奏し、オリコンでは登場3週目で7作ぶりのトップ10入り(最高6位)。当時30%を超える視聴率を連発していたTBS系『ザ・ベストテン』では4位まで上昇し、この年を代表するヒット曲となる。

紅白歌合戦で岩崎宏美が見せた “ひとつぶの涙” のわけは?


年末の日本レコード大賞では、歌い手として最高の栄誉とされた最優秀歌唱賞を初受賞。授賞式では小学生時代に歌を習っていた恩師や、親交のあった小林桂樹から祝福され、感涙にむせびながらもしっかりと歌い上げた岩崎だが、筆者がさらに強い印象を受けたのが、その後の紅白歌合戦である。1番はいつも通りだったものの、2番に入ると感極まったのか涙声となり、最後の「そしてひとつぶ すみれ色の涙」では本当に “ひとつぶの涙” が右頬を伝い落ちたのだ。

あまりにも感動的な瞬間。紅白名場面の1つと言っていいだろう。この涙、筆者は長年「最優秀歌唱賞を受賞して最高の年になった」という嬉し泣きだったと思い込んでいたが、数年前、岩崎にその件を問うたところ意外な事実が明かされた。

受賞の喜びはもちろんあったが、大晦日の朝、父親から結婚を反対されていた姉が書き置きを残して家を出るという “事件” があったため、込み上げるものがあったという。愛する姉の結婚を家族みんなで祝福できないもどかしさと、書き置きを読んで寂しそうな表情を浮かべた父親への思い――。それらがないまぜとなって、あのシーンに繋がったというわけだ。

昭和の終わり~平成元年にも訪れた邦楽のカバーブーム


蛇足ながら、邦楽のカバーブームは昭和の終わり1988年から平成元年1989年にかけてもう1度やってくる。皮切りは薬師丸ひろ子の「時代」(中島みゆき 1975年)で、以後、

■ 夢の中へ / 斉藤由貴(井上陽水 1973年)
■ 17才 / 森高千里(南沙織 1971年)
■ エリー・マイ・ラブ~いとしのエリー / レイ・チャールズ(サザンオールスターズ 1979年)
■ 学園天国 / 小泉今日子(フィンガー5 1974年)

…が続々とトップ10入り。他にも、

■ 悲しくてやりきれない / 松本伊代(ザ・フォーク・クルセダーズ 1968年)
■ グッドバイ・マイ・ラブ / 坂上香織(アン・ルイス 1974年)
■ 駈けてきた処女 / 中山忍(三田寛子 1982年)

… などがスマッシュヒットを記録したが、その後はカバーがごく当たり前のこととして行なわれるようになって現在に至っている。


※2021年6月5日に掲載された記事をアップデート

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2021.10.25
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