ロックな女の子ボーカル、ゴーゴーズ
いやー、実は女の子の歌声が好きなんだよね…… と、50代半ばで言うのは、少々気恥ずかしいのだが、ありがたいことにリマインダー界隈ではそういうことを堂々と言うのがマナーだし、まあいいか、言っちゃおう。
とはいうものの、80年代当時、女性ボーカルのレコードを買うことは、あまりなかった。小遣いの少ないティーンがレコを買いたいと思ったとき、そこにはつねに壮絶な葛藤と取捨選択がついてまわる。女の子ボーカルは好きだったが、女子なんてケッ!とも思っていた硬派気取りのガキんちょだ。必然的に男ボーカルのレコばかり買うようになっていたが、でもやっぱり女の子も好きなのだ。なら、ロックな女の子ボーカルのレコを買えばいいじゃないか! ……というわけでゴーゴーズのお話。
アルバム「バケーション」ベリンダ・カーライルのボーカルに惚れた
1982年の夏、高校1年のマナブは悩んでいた。今、欲しいレコードが2枚ある。でも、使えるお金には限りがあるので、1枚しか買えない。どちらもほぼ同時期に国内盤が発売されるが、どちらを買うべきか……。
1枚はABCのデビューアルバム『ルック・オブ・ラブ』。当時、UKチャートに激しく入れ込んでいたマナブにとって、これは見過ごせないアルバムだ。ABCのサウンドはUKソウル風で、見た目も含めてとにかくファッショナブルに思えた。ファッションのファの字も理解していない秋田の田舎者にも、それはそれは、キラキラして見えた。
そしてもう1枚が、ゴーゴーズのセカンドアルバム『バケーション』で、アメリカ代表。正直、この時期はUKが眩しすぎて、USのアーティストが少々ダサく思え出していた。それでもゴーゴーズが気になったのは、1年前に聴いたファーストアルバムが好きだったから。とにかく、イキが良くて、パンチが効いていた。ブルブルと震えるようなギターの音(ボキャブラリーが貧困でスミマセン……)がかっこよかったし、何よりベリンダ・カーライルのボーカルに惚れてしまった。
アルバムのほとんどの曲を作ったジェーン・ウィードリン
当時の洋楽仲間で後ろの席のタカハシ君が、「ABCのアルバム、買おうと思う」…… と打ち明けてきた。
渡りに船! そちらはタカハシ君から借りて録音させてもらい、マナブはゴーゴーズに操を立てることになる。
期待に胸を膨らませて、買った『バケーション』。すでにラジオで何度も聴いていたタイトル曲は文句なしにイイ! …… のだが、その他の曲はぶっちゃけ “???” だった。
あのイキの良さはどこにいったのだろう? ブルブル唸るギターはどこに消えた!? 音のスカスカ感が気になってしょうがなかった。
ベリンダのボーカルは頑張っているのだが、それをバックが受け止めきれていない歯がゆさというか。あー、ABCにしとけばよかったかな…… と、タカハシ君から借りたレコを聴きつつ、マナブは柔らかな後悔をする。
しかし、時を経るほど、このアルバムはジワジワとしみてくる。何度聞いても飽きないタイトル曲はもちろんだが、洋楽をどんどん吸収して、ひと回りしてみると、このギターはロカビリーっぽいとか、このキーボードは、ドアーズリスペクトでは!? とか、いろいろと考えるようになる。60年代のR&Bバンド、キャピトルズの “クール・ジャーク”をこの時期にカバーしていたのも、実はすごいことなんじゃないか!?
それはともかく、このアルバムのライナーを隅から隅まで読んで気づいたのは、ほとんどの曲を作っているジェーン・ウィードリンの存在だ。ベリンダの脇で、ひっそりギターを弾いているように見えた、ショートカットの彼女が、このバンドのフィクサーだったのだ。
ソロで成功したのはベリンダ・カーライル
残念ながらゴーゴーズはこの2年後に解散するが、ジェーンがソロ活動を始めると知り、ここでも操を立てねばならないと思い、レコを買った。ジェーンのボーカルはベリンダよりもかわいかった。キュン死した。しかし、ソロで成功したのは彼女ではなくベリンダの方だった。
―― これ以上思い出話を続けてもグタグダなだけなので、打ち止め。ともかく、ベリンダの張りのある声もジェーンのキュートな声も大好きだ。声には個性があるし、その多様性も認めないといけない。『バケーション』と同年に、ジョーン・ジェット&ブラックハーツのアルバムも買ったが、ジョーンのドスの効いたボーカルにもやはりシビレたし。女の子ボーカルが好きなんです…… と打ち明けるとき、それらが全部含まれているのだ。
2021年にひとつ嬉しいニュースがあった。それは、ゴーゴーズ 2001年の再結成アルバム『ゴッド・ブレス・ザ・ゴーゴーズ』がアナログで初リリースされたこと。
このアルバム、全盛期にリリースした3枚のアルバムのどれよりもかっこいい。ベリンダの気迫のボーカルに、バンドの音が全力で立ち向かっている隠れた名盤。これを55歳になった今、聴ける喜び。自分も今や55ズ。この機に女性ボーカル愛も積極的にカミングアウトしていくか!
2021.07.20