歴史的歌番組「ザ・ベストテン」の放送期間は12年
先日、『ザ・ベストテン』の再放送決定(2020年6月~)、というニュースを目にした。これを書いている時点では、来月からTBSのCSチャンネル(TBSチャンネル2)で放送するという事しか分からず、放送回数など詳細は全く不明だが、実現するならば楽しみだ。
この歴史的歌番組、『ザ・ベストテン』は、1978年から1989年の12年間放送された。『ミュージック・ステーション』が30年以上続いていることを考えると、案外短かったなという印象である。しかし、この12年という歳月が体感的にそれ以上長く感じられるのは、放送期間内に、歌謡界でのダイナミックな世代交代を幾度となく目の当たりにした事が、ひとつの大きな要因ではないかと思う。
数々の世代交代劇… 山口百恵から松田聖子、新御三家から “たのきん” へ
女性アイドルの象徴的な世代交代劇と言えば、なんと言っても山口百恵と松田聖子のたった一度の競演シーンだろう(1980年9月25日)。百恵さん最後の『ザ・ベストテン』出演となったこの回、1位は松田聖子の「青い珊瑚礁」だった。聖子ちゃんの歌唱前に2人が並び立った光景は、まさに70年代から80年代へのバトンタッチ。鮮やかで美しい世代交代。この部分だけでも神回。是非とも再放送を希望したいものだ。
いっぽう、男性アイドルはと言うと、70年代に旋風を巻き起こした新御三家の郷ひろみ・西城秀樹・野口五郎に沢田研二を加えた4人の時代から1980年デビューの田原俊彦・近藤真彦の、たのきん世代への移り変わりが印象的だ。こちらは、百恵→聖子の時とは異なり、新旧世代の共存期間があった。80年代前半、トシちゃん・マッチの全盛期に、秀樹やジュリーが大人の余裕がある佇まいで登場する『ザ・ベストテン』の放送はまさに華やか!小学生の僕がテレビで見ていても嬉しかった。1時間の間に、一粒で二度美味しいようなお得感、ワクワク感があった。
70年代の男性トップスター、それぞれの80年代スタンス
しかしながら、70年代男性トップスターの4人、郷・秀樹・五郎・ジュリーも、80年代に入ると、それぞれ番組に対するスタンスにも差異が出てくる。
郷ひろみは1982年に入ると突如ランキング番組への出演を辞退してしまう。その影響もあってか、その後の、「2億4千万の瞳」などのオリコントップ10ヒットの際も、『ザ・ベストテン』には番組終了までの間、ランクインする事は無かった。
野口五郎は、80年代に入り低迷期があったが、1983年に「19:00の街」がスマッシュヒット。トシちゃんとマッチの全盛期に、ベテランアイドルが不死鳥のようにランキングに割って入ってくる様子は、なかなか感慨深いものがあった。
ジュリーと秀樹は、1982年頃まではコンスタントにランクインしていた。その中でも秀樹は、この4人の中ではいちばん最後までベストテン内で活躍。1985年1月17日の「抱きしめてジルバ」が最後のランクインとなった(※1)。久米宏さんが司会を降板するのは、その3ヶ月後のことだ。
新陳代謝が活発だった80年代アイドル、90年代以降は?
80年代前半、男性アイドルの上位打線に君臨した田原俊彦と近藤真彦。そこに取って代わる存在となったのが1984年のチェッカーズだ。その後、少年隊から光GENJIへと主役の座は推移し、1989年秋、番組は終焉を迎える。
こうやって振り返ってみても、80年代のアイドルの世界は新陳代謝が活発だったのだと気付かされる。その後の男性アイドル界は、90年代以降、SMAPの長期政権時代に突入したというのは衆目の一致するところであろう。また、記録面を見てみても、オリコンシングルチャートの連続1位記録は、嵐が46作品(15年間)連続1位、KinKi Kidsが41作品(23年間)連続1位と、アイドルの寿命はとんでもなく長くなってきている。
テレビの中のお笑い界を見てみても、BIG3と呼ばれるビートたけし、明石家さんま、タモリが80年代以降、ど真ん中に君臨して久しく、2020年代に突入した現在でも、ゴールデンタイムのレギュラー番組を持ち続けているのだから驚きだ。
懐かしむより超えてゆけ! 再放送より見たいもの
さて、この文章を書いている2020年5月、新型コロナウィルスの影響で、テレビ番組もロケや新番組の収録はストップ。様々な番組で過去の蔵出し映像や総集編を流すような放送が増えてきた。そんな折の、『ザ・ベストテン』再放送の発表は単なる偶然なのだろうか。折しも、このところ歌番組でもドラマでもバラエティでも、昔の放送をどんどん流してくれればいいじゃないか、という再放送待望論が盛り上がりを見せているように思う。
確かに、過去の素晴らしいコンテンツをもう一度見たいという気持ちは大いにある。けれども、それ以上に、この令和の新しい時代にこそ、後世に残るような世代交代のシーンや、新旧のスターが同じ画面の中で並び立つ、そう、あの頃の『ザ・ベストテン』のような華やかな光景を、是非見てみたいものだ。
そのためには、僕たち昭和世代も若い世代より無理して目立とうなどと考えず、あの日のジュリーや秀樹のように、“大人の余裕のある佇まい” で、若い世代を優しくバックアップしていくのが、ひとつの理想的な居方と言えるのかもしれない。
さあ、懐かしむより超えてゆけ! 2020年代は、もう始まっている。
※1:その後、Hideki Saijo & Barry Manilow としてリリースした「腕の中へ -In Search of Love-」が1985年12月26日にランクインし、番組では西城秀樹名義で出演している。
2020.05.16