アイスクリーム・エクスプレス、それはリレー方式の特急便
夏が来れば思い出すのは何も “尾瀬” だけではない。私にとって忘れたくても忘れられない夏の思い出と言えば “アイスクリーム・エクスプレス” である。
説明しよう―― 高校時代を全寮制男子校で過ごした小生であるが、この学校は平日の外出が禁止されていた。また、ドライヤー以外の電気製品の使用も禁止されており、当然冷蔵庫など気の利いたものはなかった。
夏の暑い日になると「お~い一年、ちょっと来い」と上級生から呼ばれ「暑いからアイスが食べたい」とリクエストが下される。
「勝手に食べれば?」などとは口が裂けても言えない。
結果、外出が禁止されているので、教員の目を盗んで片道3キロの裏の山道を通って買い出しに行かなければならない。当時は保冷パックなどないので、ちんたらしていたらアイスが溶けてしまう。
そこで1キロ置きに人を配置して、アイスを買ったら猛ダッシュで山道を駆け上るのである。そこからリレー方式で次々にアイスを運び、溶ける前に上級生の元まで届けるのが “アイスクリーム・エクスプレス” であった。
当時相当体を鍛えてはいたのだが、それでも1キロの山道を猛ダッシュで駆け上がればハートがビートを刻む。
ゴーゴーズとビートは一蓮托生「ウィ・ガット・ザ・ビート」
さて、ビートを刻むと言えばこのバンドしかあるまい。奇しくもアイスクリーム・エクスプレスを敢行していた1981年、ゴーゴーズの「ウィ・ガット・ザ・ビート」がリリースされた。
ちょっと強引な話の展開になったが、実は他のカタリベさんに触発されてゴーゴーズの事を書いている。詳しくは
『眩しすぎた西海岸の夏、ゴーゴーズのバケーションはヴェイケイション!?』を参照願いたい。
そもそも “ゴーゴー” とは “同じビートを延々と刻む音楽” とされており、その名前の通りゴーゴーズとビートは一蓮托生、表裏一体なはずである。
その彼女たちがわざわざ、改めて “私たちビートを手に入れたの” と宣言したタイトル曲をリリースしたのだから聴かない訳にはいかないだろう。私は早速レンタルレコード屋へと走った。
この頃ヘビーメタルばかり聴いていた私にとって、アメリカ西海岸の陽気なカリフォルニア娘が歌うポップでビートの利いた曲に接したとき、「ごめん、俺、間違ってたわ。いままでの路線を変更するよ」と、黒いピッタリ足に張り付くズボンを脱いで、膝丈のバミューダ-パンツを買いに走ったものだった。
もしかしたら私にとって1981年の夏が一番走った年かもしれない。
※2016年8月16日に掲載された記事をアップデート
2020.07.08