1981年の活動停止までに7枚のライブアルバムをリリース
アリスのディスコグラフィを見て気づくのがライブアルバムの多さだ。1972年に結成されてから、1981年にグループとして “第1期” の活動を停止するまでにオリジナルアルバムを9枚発表しているのに対して、ライブアルバムは7枚リリースされている。おそらくこのベースでライブアルバムを発表したアーティストはかなり希少なのではないか。同時に、このライブアルバムの多さこそがアリスというバンドの特長なのだとも感じる。
アリスの最初の大きなヒット曲は7枚目のシングル曲の「今はもうだれも」(1975年)で、それまでは大きな脚光を浴びるバンドではなかった。しかしこの頃すでに、レコードは売れないがライブの動員力はある、という定評があった。
もともと谷村新司は、関西の学生フォークシーンで人気があったロック・キャンディーズでレコードデビューも経験していたし、ライブの盛り上げにも定評があった。さらにロック畑出身の堀内孝雄、ジャズ、ソウルに造詣が深い矢沢透という多彩なバックボーンをもったメンバーの音楽性もステージを盛り上げる重要な要素になっていった。そして、ライブの盛り上がりを武器として精力的に活動を続け、「今はもうだれも」や「冬の稲妻」(1977年)、「涙の誓い」(1978年)などのヒットでトップバンドとしての地位を確立していく。
そして、数多いライブアルバムは、彼らのヒット曲を追っていくだけでは見えてこないライブバンドとしての魅力を再確認するための貴重な資料でもある。そんなアリスが “第1期” に残したライブアルバム7枚が、2024年9月18日にすべて最新リマスタリングによって復刻される。これは改めてライブバンドとしてのアリスを振り返るチャンスとも言えるだろう。
レコードデビューから1年足らずでリリースされた「ALICE ファースト・ライヴ!」
『ALICE ファースト・ライヴ!』は1972年11月に西宮市民会館大ホールで行われたライブを収録したものだ。当時、まだレコードデビューから1年足らず。アルバム1枚、シングル2枚をリリースしてはいたが、成功しているとは言えない状況だった。そんなタイミングでライブアルバムを出したのは異例のことだった。この当時ライブアルバムは、ヒット曲もある人気アーティストが、スタジオアルバムとは一味違う形で楽曲を聴かせるというニュアンスが強かった。しかし、アリスにとって『ALICE ファースト・ライヴ!』は、スタジオで制作された楽曲だけでは伝わりにくい彼らの魅力、つまりライブバンドとしてのアリスに脚光を当てるための起爆剤とする意図があったのではないか。
ライブが収録された西宮市民会館大ホールは客席数が約1,200席。当時彼らのホームグラウンドとなっていた会場だった。リサイタルと銘打ってはいるが、けっして特別なイベントではなく、彼らがやり慣れているホールコンサートの雰囲気や盛り上がりをそのまま記録することで、ライブバンドとしての魅力をアピールする狙いがあったのではないか。逆に言えば、『ALICE ファースト・ライヴ!』はリアルタイムの彼らを知らない人たちにも、初期アリスのステージを追体験させてくれるアルバムでもある。
アリスのライブの原型が感じられるアルバム
編成はシンプルで、メンバーの3人以外にサポートのベーシストが参加。収録されている曲もデビュー曲「走っておいで恋人よ」をはじめとする初期のオリジナル曲ばかりで、このアルバムでしか聴くことができない曲もある。改めて聴き直して感じるのが、すでにこの時からアリスの音楽的スタイルはほぼ出来上がっていたということ。谷村新司のロマンティシズム、堀内孝雄のダイナミズム、そして矢沢透のエスプリが混然一体となって生み出されるアリスらしさの原型ともいうべきグルーヴが、このアルバムから確かに伝わってくるのだ。
彼らならではの音楽性とともに、アリスのライブの大きな魅力を構成しているトークのエッセンスもこのアルバムには収録されている。僕も何回かアリスのライブを見ているけれど、圧倒的な演奏とコミカルなトークとの落差が生み出す名人芸とも言える緩急こそ、まさに彼らにしか表現できない魅力だと毎回感じていた。
時には、自虐的なもてない男エピソードで女性客の笑いを誘い、時には歌に対する純粋な思いを語ってほろりとさせる。さらに、谷村、堀内、矢沢がそれぞれのコーナーでキャラクターの違いをアピールした上で、その個性が重なり融合したドラマティックな音楽につなげて、クライマックスを迎える。『ALICE ファースト・ライヴ!』は、そんなアリスのライブの原型が感じられるアルバムだ。
音楽性の幅広さをより大胆にアピールした「ALICE セカンド・ライヴ」
『ALICE ファースト・ライヴ!』が発表された翌年、2枚目のライブアルバム『ALICE セカンド・ライヴ』がリリースされた。『ファースト・ライヴ』が彼らのステージの原型の記録だとすれば、この『セカンド・ライブ』は音楽性の幅広さをより大胆にアピールしたライブアルバムと言えるだろう。
『ALICE セカンド・ライヴ』は東京・神田共立講堂で行われたリサイタルを収録したもので、なによりの特徴は収録曲の半数以上がカバー曲だということ。それも1960年代の洋楽ヒット曲から童謡、さらにはキャロルの「ルイジアンナ」、内山田洋とクールファイブの「噂の女」などの日本のヒット曲もジャンル関係なく取り上げている。
ライブアルバムとして初めてチャート1位を獲得した「栄光への脱出〜武道館ライブ」
3枚目のライブアルバム『エンドレス・ロード』は1977年3月に東京・新宿厚生年金会館大ホールで3日間行われた “結成5周年記念ライブ” を収録したもので、この作品からアナログ盤2枚組となっている。タイミング的には「今はもうだれも」がヒットして彼ら自身も手応えを感じつつある時期で、ライブの基本構成としては『ファースト・ライヴ』と変わらないが、演奏もより洗練され、お笑いの要素やトークもより緩急のあるものになり、なによりステージに対する強い自信を感じさせるものになっている。
『栄光への脱出〜武道館ライブ』は「冬の稲妻」「涙の誓い」「ジョニーの子守唄」(1978年)などを次々にヒットさせ、トップアーティストの座を得たアリスが行った3日間の武道館公演を収録したもの。大ヒットしたアメリカ映画『栄光への脱出』(1960年)のテーマ曲をオープニングに、リズムセクションだけでなくホーン、ストリングス、コーラスも加えた大編成の演奏など、ゴージャスさを感じさせるこのアルバムは、彼ら自身のライブアルバムとして初めてチャート1位を獲得した。
さらに1979年に行われた7日間の武道館ライブと横浜スタジアムライブからベストテイクをセレクトした『限りなき挑戦 / アリス・ライヴ美しき絆 -Hand in Hand-』、第1期アリス活動停止宣言後のラストツアー最終公演である1981年8月31日の後楽園球場ライブが収録された『アリス3606日 FINAL LIVE at KORAKUEN』、同年11月7日に追加公演としてメンバー3人だけで行われたアコースティックライブを収録した『3人だけの後楽園 VERY LAST DAY』(1982)と続くアルバムは、アリスの歴史をライブグループとしての側面から記録した貴重なドキュメントでもあろう。
多様な音楽性を誘引して、音楽に深みを加える矢沢透の存在感
これらのアリスのライブアルバムを聴き直して改めて感じたのが、アリスにおける矢沢透の存在感だ。アリスを聴く時には、どうしても谷村新司と堀内孝雄の “男臭い” ボーカルの迫力を中心に聴いてしまう。だから、ライブ中に披露されるどこか中性的な矢沢透の歌は、悪く言えば “箸休め” 的なライブ中の息抜きコーナーとして受け取ってしまいがちになる。
確かに矢沢のボーカルには他の2人のような迫力はないが、彼がつくる洗練された楽曲がアリスの音楽にコンテンポラリーな感覚を加え、さらに他の2人が潜在的に持っている多様な音楽性を誘引して、音楽に深みを加える重要な役割を果たしていたということも、これらのライブアルバムが再確認させてくれるという気がしている。
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2024.09.19