11月8日

アメリカ横断ウルトラクイズ ☆ メイナード・ファーガソンのトランペット!

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日本テレビ系「アメリカ横断ウルトラクイズ」第三回大会が放送された日(スタートレックのテーマがメインテーマとして使われはじめた日)
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photo:SonyMusic  
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「ニューヨークへ行きたいかーっ」

物心ついて80年代を過ごした方なら、誰もがわかるだろうこのフレーズ。そう、伝説のクイズ番組、『アメリカ横断ウルトラクイズ』(日本テレビ系)恒例の掛け声だ。

番組の企画段階から用意されていたセリフのように思えるが、実は、当時司会者であった福留功男アナウンサーがたまたまその場で思いついて発した言葉であったらしい。今までにないクイズバラエティに挑むスタッフの意気込みと参加者たちの熱気あふれる現場の興奮が、この名台詞を呼び込んだに違いない。

それまでもテレビのクイズ番組といえば、食事どきに家族で楽しむお茶の間の娯楽として、十分に人気を博していた――

『アップダウンクイズ』(1963年~)
『クイズ タイムショック』(1969年~)
『クイズグランプリ』(1970年~)
『パネルクイズ アタック25』(1975年~)

これら視聴者参加型クイズ番組の目玉は、勝者に贈られる海外旅行。当時、格安航空券もなく、1ドルはまだ200円代をウロウロしていた頃、一般庶民にとって海外旅行などまさに夢。TV のクイズ番組がその憧れを賞品として掲げ、ブラウン管から餌付けをしていた時代だった。

そして、まんまと “クイズに答えて海外へ!” と刷り込まれた子供たちは、じきに成長を遂げ、80年代には続々と『ウルトラクイズ』参加資格の18歳に到達する。77年の第1回開催時には僅か404名であった参加者は、83年の第7回には1万人を突破、視聴率も34.5%(4週トータル平均)を記録した。

『ウルトラクイズ』といえば、まず思い出されるのがオープニングの空撮シーン。大空に白くそびえる自由の女神から、大きなカーブを描いてマンハッタンの巨大ビル群へと迫る映像。そして、そこに流れる雄大なテーマソング…。

子供の頃からずっと、この曲が耳に残っていた。疾走感あふれる 16 beat にドラマティックなメロディー、それを朗々と歌い上げる美しいトランペットの音色。その高音はとどまるところを知らず、パンナムビル屋上まで駆け昇る勢い。そして、ビシッと決まるブレイクが実にカッコいいフュージョンだ。

だが、レコードを探したいと思うも、誰の何という曲かがわからなかった。チャック・マンジョーネではないらしい。レンタル屋の店員は革パン姿のロッカーばかりで答えは出ず。『熱中時代』の北野先生はフィーバーしても、Google 先生はまだいない…。それ以降、ふと思い出しては、身近な音楽好きに聴いてみるという作業を繰り返した。

ようやく答えにたどり着いたのは上京後。バイト先にいたジャズ好きのオジさんが教えてくれた。正解は、メイナード・ファーガソンというトランペッターの「スタートレックのテーマ」だった。

ファーガソンのキャリアは、ジャズのビッグバンドでスタートする。50~60年代には、その切れ味鋭いハイノートを武器に、自ら率いるブラスアンサンブルの楽団で、数々の名演をレコードに残した。往年のジャズファンは、この頃のファーガソンを讃え、のちの彼の音楽性の変遷に対しては冷やかであったという。

しかし、柔軟なセンスでポップスやロックのカバーを取り込み、フュージョンサウンドへと移行していった彼を時代は歓迎した。ブラスアンサンブルの新たな可能性が切り開かれたことで、ブラッド・スウェット&ティアーズ、シカゴ、チェイスといったブラスロックが人気を集めるきっかけとなり、ポップス界でのホーンセクションの起用にも繋がっていったのだ。

そして、ファーガソンが広く名を知らしめるのは1977年。映画『ロッキー』の主題曲「ロッキーのテーマ(Gonna Fly Now)」をよりダンサブルにアレンジして発表。オリジナル版に迫る大ヒットを記録した。世はまさにディスコブーム、ファーガソンが50歳に差しかかろうという時、「知力・体力・時の運」が三拍子揃っていたのだろう。

「スタートレックのテーマ」は、この「ロッキーのテーマ」とともにアルバム『征服者~ロッキーのテーマ(Conquistador)』に収録されている。ハイノートヒッターという一面ばかりが取り沙汰されるファーガソンであるが、このアルバム2曲目の「ミスター・メロウ」では、『ブリージン』で爆発的ヒットを放った直後のジョージ・ベンソンを迎えて、艶のある AOR を聴かせており、丸く重心の低い音色で、また違った魅力を見出すことができる。

テレビに話を戻すと、『ウルトラクイズ』で使われた「スタートレックのテーマ」には、鋭いアウトロが付け足されていた。これは前年のアルバム『プライマル・スクリーム』収録の「チシャ猫のウォーク(The Cheshire Cat Walk)」の3小節だ。流麗なメロディーの後で、一瞬にして緊張感を呼ぶ、実に見事なスパイス使いである――

このほかにも、罰ゲームで使用されているレニー・ホワイトの「ビッグ・シティ」といい、はたまた同局のワイドショー番組『テレビ三面記事 ウィークエンダー』でのクインシー・ジョーンズ「鬼警部アイアンサイドのテーマ(Ironside)」といい、この頃の日本テレビには、当時の洋楽を知り尽くし、その数秒を演出として自在に操る天才が存在していたに違いない。

最後にもうひとつ着目したいのが、92年開催の第16回。ここでは、日本が誇るトランペッター、数原晋が「スタートレックのテーマ」を吹いている。数原晋といえば、『北の国から』、『必殺シリーズ』、『西部警察』などの TVドラマのテーマ曲から、松任谷由実、山下達郎、杏里、角松敏生などのスタジオワーク、またアニメの世界でも『ルパン三世』、『天空の城ラピュタ』の「ハトと少年」など、曲を挙げればきりがない程、数々の録音に参加している。

私が最も印象深いのは、山口百恵「いい日旅立ち」のイントロだ。この数原晋も高橋達也と東京ユニオン、前田憲男とウィンドブレイカーズなど、ジャズのビッグバンドで得た音楽体験をポピュラーへと昇華していった重要人物のひとりであることは確かである。

80年代に私を釘付けにした『アメリカ横断ウルトラクイズ』。旅番組に勝る映像美と情報量、最新機材を駆使してのバリエーションに富んだクイズ形式(第8回バハマでの「海底早押しクイズ」には本当に驚いた!)、そして勝者と敗者のコントラストを際立たせて見せつける残酷さと非情さ。

お祭り気分で応募した一般参加者が、チェックポイントごとに降りかかる緊張感の中で、不屈のクイズ戦士へと成長していく過程はアスリートや格闘家のドキュメンタリーのようでもあり、そこに映し出される本気のガッツポーズ、本気の涙に思わずもらい泣きをしたことさえある。私にとってそれは、もはやクイズ番組ではなく、ロードムービーだった…。

1年に1度、新たに始まる物語がそこにあった。今もその高揚を思い出すたび、ファーガソンのメロディーが聞こえてくる。


※2018年8月23日に掲載された記事をアップデート

2019.08.23
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