資生堂 vs カネボウ CMソング戦争
1978年秋のキャンペーン ▶ 資生堂(君のひとみは10000ボルト / 堀内孝雄)
▶ カネボウ(薄化粧 / サーカス)
昭和を代表するコピーライター 土屋耕一が放った一言!
70年代後半の一連の資生堂CMソングは、広告制作側が主導していた。資生堂からお題を指定されて、ミュージシャンがそれに応える形で作曲し、サビに広告コピーを埋め込んで歌うシステムである。1978年の『時間よ止まれ』のタイトルも、『春の予感 - I've been mellow-』の「メロウ」というコンセプトも、資生堂が提案したものだった。
当時の資生堂は、サントリーと並んで日本の広告業界をリードしており、まさに黄金期。何人もの著名な広告クリエイターを抱えていた。その中の一人、昭和を代表する名コピーライター・土屋耕一がこの年の秋のキャンペーンに向けて放った一言が、〈君のひとみは10000ボルト〉。そう、堀内孝雄による、あの大ヒット曲のうたい文句となったキャッチコピーである。
通常ならば年間トップ、ピンク・レディーに阻まれながらも大ヒット!
このコピーをもとに、当初は堀内の所属グループであるアリスが歌う案もあったらしい。資生堂との打ち合わせには堀内と一緒に谷村新司も参加したという関係者の証言もあるので、事実であろう。しかし、結局は堀内がソロで歌うことになった。アリスは、人気絶頂だったその裏で、やがて来たるべき解散へ向けてメンバー個々の活動を模索し始めた時期。そのタイミングでのCMタイアップの話は、堀内がスポットライトをあびるまたとないチャンスの到来でもあった。
とはいえ、シングル盤のジャケットにわざわざ[アリス]と記すぐらいだから、まだソロ活動への不安が拭い去れなかったのだろう。堀内のメロディに、広告コピーをキーワードに谷村が詞を付け、アリスのアレンジをしていた石川鷹彦が編曲、サウンド的には殆どアリスと云ってもよい内容となった。
が(ゆえに、というべきか)発売後わずか4ヶ月で『君のひとみは10000ボルト』は、なんと91.9万枚を売り上げる。よりによってこの年は年間ランキングの1−2−3位をピンクレディーが独占(『UFO』155.3万枚、『サウスポー』146万枚、『モンスター』110.2万枚)した特殊な年であったため、例年ならば年間トップになるような大ヒットであるにもかかわらず、年間シングルチャートでは第4位にとどまった。それでも本家アリスがそれまでに発売したシングルのどれをも凌ぐ数字だ。
ぼやき漫才でおなじみ、人生幸朗・生恵幸子のネタでも有名!
かたや、カネボウは夏に続いてサーカスの『薄化粧』を投入するが、この曲は不発に終わった。夏のCMソング対決【時間よ止まれ vs Mr.サマータイム】では、僅差でカネボウの後塵を拝した資生堂だが、秋は圧勝であった(詳しくは
『資生堂 vs カネボウ CMソング戦争 ~ サマーソングの激アツ!バトル』参照)。
この曲がどれだけヒットしたかを示すエピソードとして、ぼやき漫才でおなじみ人生幸朗・生恵幸子が「人間の目ん玉ぁ電気か!」とギャグにしていたことは有名だ。老若男女・全国津々浦々をターゲットにするベテラン芸人が取り上げるほど世の中に浸透していたワケだ。されど、その曲の印税は堀内と谷村へ。むしろぼやいていたのは、歌の印税が1円も入らなかったコピーライター達かもしれない。
※2016年9月28日に掲載された記事をアップデート
2020.08.05