外部作家の楽曲を中心に構成された「ALICE Ⅲ」
『ALICEⅠ』を発表した頃から、アリスは積極的にライブ活動を展開していくとともに、自分たちならではのサウンド、音楽性を求めて試行錯誤を重ねていった。
1973年にリリースされたセカンドアルバム『ALICEⅡ』では谷村新司の曲を中心に、アリスの “色” を見出し固めていこうとする志向が感じられたが、堀内孝雄が作詞・作曲した「そこにいる貴方」や矢沢透が中心となった「白い夏」など、曲の幅を広げようとするアプローチも観られた。
しかし、同年12月にリリースされた『ALICE Ⅲ』は、一転して外部作家の楽曲を中心に構成されたアルバムで、シングルカットされた「青春時代」(作詞:なかにし礼 / 作曲:都倉俊一)をはじめ、メンバー以外の曲が11曲中6曲を占めている。
その背景としてあったのは、1973年に同じ3人組であるガロの「学生街の喫茶店」や、かぐや姫の「神田川」の大ヒットではないだろうか。アリスとしてのオリジナリティを生み出していこうとする姿勢と、ヒット曲につながるポピュラリティの追求、その葛藤から外部作家の起用という選択肢が出てきたのではないか。結果として「青春時代」は小さなヒット曲になったけれど、時流に寄せた分、アリスならではの味わいは希薄になってしまっているという気がする。
「青春時代」に続くシングル「二十歳の頃」もなかにし礼・都倉俊一の提供曲だった。しかし、それまで精力的にレコードを発表してきたアリスが、そこから1975年3月のシングル「紫陽花」までリリースの間隔が空くこととなる。アルバムだけで言えば『ALICE Ⅲ』から次の『ALICE Ⅳ』まで1年以上の期間を要することになる。
年間303ステージと言う精力的なライブ活動
しかし、その間にアリスはなにもしなかったわけではない。彼らは精力的にライブ活動を展開し、ライブバンドとしての経験値とスキルを磨いていった。1974年には年間303ステージという記録も残っているほどで、最初は苦しかった動員も次第に増え、ヒット曲こそ無いがライブではホールを満員にする実力派バンドとなっていった。
『ALICE Ⅳ』からは、アリスが再び自分たちのイニシアティブで自分たちの音楽へのアプローチを行っていくことを決意した意思が感じられる。楽曲制作も、谷村新司を中心としながら、堀内孝雄、矢沢透の個性を生かしてバラエティとトータリティを作り出している。
聴いていると、アリスの音楽スタイルは、このアルバムで出来上がったのではないかと感じる。そして『ALICE Ⅳ』をリリースしてから4ヶ月後の1975年9月に発表された「今はもうだれも」がアリス初の本格的なヒット曲となる。このシングルヒットの効果も加わってライブの動員数もさらに伸び、アリスはトップグループのひとつとして音楽ファンに認知されることになる。
「ALICE Ⅴ」の冒頭に収録された「今はもうだれも」
1976年7月に発表された『ALICE Ⅴ』は、彼らが自分たちの音楽に対する確信を持ったことを感じさせるアルバムだ。なにより印象的なのが1曲目に「今はもうだれも」が収められていることだ。同曲はアリスのオリジナル曲ではなく、関西のフォークシーンで仲間だった学生フォークグループ、ウッディ・ウーが1969年にレコードで出した曲だ。
自作曲ではないということでは「青春時代」も同じだけれど、「今はもうだれも」のカバーはスタッフの提案ではなくメンバーの発案だろうと思える。だから、アリスにポピュラリティのあるレパートリーをつくるという意味では共通していても、そのフィット感や自然さがまったく違うのだ。
ウッディ・ウーの「今はもうだれも」の編曲はフォークのアンサンブルにリズミックな味付けをしたという感じだったが、アリスは原曲の雰囲気を大きく変えてはいないけれど、リズムセクションが表に出て強いビート感を感じさせる洗練されたバンドサウンドにしている。そしてオリジナルでも聴きどころだった男声のツインボーカルを谷村新司と堀内孝雄がより力強い迫力を感じさせるものにしている。原曲の親しみやすさを生かしながらアリスらしさを自然に感じさせる「今はもうだれも」は、彼らにとっても納得のいくテイクだったのだろう。
だから『ALICE Ⅴ』の冒頭に「今はもうだれも」が10か月前に発表されたシングルテイクのまま収められたのは、これがヒット曲だということ以上に、アリスとして打ち出すべきサウンドが生まれた宣言という意味があったのではないだろうか。この曲の “編曲:アリス” というクレジットには、そんな彼らの自信が込められているという気がする。
ソングライティング面での矢沢透の台頭
『ALICE Ⅴ』で、彼らの作る楽曲自体が大きく変わったという印象は無い。けれど、3人のメンバーの想いが、よりスムーズに表現されるようになったと感じる。例えば、シングルでもリリースされているロッカバラード的な「遠くで汽笛を聞きながら」、カントリーロック調の「あの日のままで」、しっとりと聴かせる「指」などの谷村新司と堀内孝雄が共作する楽曲も成熟を感じさせるし、ロマンティシズムあふれる「雪の音」やスペクター・サウンド風の「もう二度と…」なども谷村新司の音楽性の幅広さがよい形で発揮されている。
そして、なによりこうした『ALICE Ⅴ』の豊かな楽曲のバラエティ感を作り出している最大の要因は、ソングライティング面での矢沢透の台頭だと思う。「僕の想うこと」「夏の終わりに」そして堀内孝雄と共作した「音の響き」は確実にアリスの音楽的可能性を切り開く質の高い楽曲だ。
『ALICE Ⅴ』に強く感じることは、谷村新司、堀内孝雄、そして矢沢透が作家としての高いクオリティをバランスよく発揮していること、そしてこれらの作品をアリス自身がトータリティあるウンドとして表現していることだ。このアルバムに収められている10曲中、“編曲:アリス” とクレジットされているのは半数の5曲だ。しかし、それらは彼らがシンプルに3人で演奏したということではない。
これらの楽曲は他の編曲家がクレジットされている残りの5曲と一体となって、アルバムのトータリティと高い完成度を生み出しているのだ。それは、編曲家が立っている楽曲のサウンドにも、アリスの意向が少なからず反映されているということでもあるのだろう。
「ALICE Ⅴ」から伝わってくる気迫
『ALICE Ⅴ』には、アーティストとしての自信が溢れている。それは『ALICEⅠ』に始まるこれまでのステップを経て辿り着いた、自分たちの音楽への手ごたえとも言えるかもしれない。だから、音楽的変化というよりも、今までの作品を超えるクオリティ、そしてアーティストとしての説得力を強く感じるのだ。ライブバンドとして確固たる地位を得たアリスが、アルバムアーティストとしても成功する準備も整えた。『ALICE Ⅴ』は、そんな気迫が全体から伝わってくるアルバムだ。
なお、今回の再発盤にはシングル盤「今はもうだれも」のカップリング曲となった「明日への賛歌」(アレンジ違い)、「帰らざる日々」とカップリング曲「あの日のままで」のシングルバージョンがボーナストラックとして納められている。これらをアルバムバージョンとの違いをチェックしてみるのも面白いだろう。
アルバム『ALICE Ⅰ+4』収録曲
01. 今はもうだれも(作詞作曲:佐竹俊郎)
02. 遠くで汽笛を聞きながら(作詞:谷村新司 / 作曲:堀内孝雄)
03. 雪の音(作詞作曲:谷村新司 )
04. あの日のままで(作詞:谷村新司 / 作曲:堀内孝雄)
05. 僕の想うこと(作詞作曲:矢沢透)
06. 音の響き(作詞:矢沢透 / 作曲:堀内孝雄)
07. もう二度と…(作詞作曲:谷村新司)
08. 夏の終りに(作詞作曲:矢沢透)
09. 指(作詞:谷村新司 / 作曲:堀内孝雄)
10. 帰らざる日々(作詞作曲:谷村新司 )
[Bonus Track]
11.明日への讃歌 (作詞作曲:谷村新司)1975年 シングルバージョン
12.帰らざる日々 (作詞作曲:谷村新司)シングルバージョン
13.あの日のままで (作詞:谷村新司 / 作曲:堀内孝雄)シングルバージョンInformation
谷村新司追悼企画
アリス 追悼コンサート決定!アリスコンサート2024
ALICE FOREVER 〜アリガトウ〜
▶︎ 東京 / 日本武道館
9月18日(水)19:00開演(予定)
お問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799
▶︎ 大阪 / 大阪城ホール
10月13日(日)17:00開演(予定)
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888
▶︎ 出演:谷村新司(音声/映像)、堀内孝雄、矢沢透
▶︎ 全席指定:¥11,000(税込)*未就学児童入場不可
▶︎ アリス公式サイト
https://alice1972.com/
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2024.06.23