オフコース「I LOVE YOU」オリコン6位の異色のシングル
「I LOVE YOU」は「汝の敵を愛せ」というか、まぁ敵という訳ではなかったけれど――
2016年4月にリリースされたオールタイム・ベスト『あの日 あの時』のPR用の全曲解説リーフレットに載っていた小田和正の言葉に目を見張った。シングル発表当時から違和感があったが、やはり単なるラヴソングではなかったのか。
It was 40 years ago today.
1981年6月21日、オフコースのシングル「I LOVE YOU」がリリースされた。前年12月1日にリリースされた「時に愛は」がアルバム『We are』からのシングルカットだったので、純然たるシングルとしては「Yes-No」からちょうど1年振り。オリコン最高6位を記録し、オフコースとしては「さよなら」「Yes-No」に続く3曲めのオリコントップテンヒットとなった。
当時高1で、ビートルズやビートたけし、松田聖子に夢中だった僕は未だオフコースには開眼していなかった。否、“軟弱だ” “暗い” と評されていて男が聴くものではないと思っていたというのがより正確だろう。
そんな僕にもこの曲は何とも評し難かった。曲は平坦で地味だし、タイトルとは異なり単なるラヴソングでもなさそうだし、そもそも歌詞が何を言おうとしているのかもよく分からなかった。
ラヴソング? 一筋縄ではいかない歌詞
流されて 流されて 僕のところへ
切ないね あなたの 白い肌
あゝはやく 9月になれば
I LOVE YOU I LOVE YOU
どうしたの 変わるこころ 不安になるの
あなたは僕を しあわせにしてるよ
「流されて」が繰り返される歌い出しは、好き嫌いは別にして確かに印象に残る。そこからは明らかに男女の恋愛を歌っていると思われる。ただし9月になればどうなるのかは分からない。そしてサビの歌詞も「I LOVE YOU」だけだった。
間奏ではFENから録ったという英語の音声も流れる。そして明けのCメロでは、ブレイクの中、強い調子で以下の歌詞が歌われる。
誰もあなたの代わりになれはしないから
あなたのままここにいればいいから
ラヴソングの文脈でももちろん通じるのだが、それにしては何か切実なものが感じられた。以上で歌詞は全て。ラヴソングとしても通じるのだが、ミニマムなアレンジと平坦なメロディに乗ると、いよいよ一筋縄ではいかなかった。
オフコース解散への想いが込められた初めての曲
終わっていく時というのは、綺麗事ばかりじゃなくて、嫌なこともたくさんあった。
前述のリーフレットの「I LOVE YOU」の項の冒頭で小田はこの様に語っている。
『We are』がリリースされた1980年末、鈴木康博がオフコース脱退の意志をメンバーに伝えた。実は「I LOVE YOU」はこの後初めて作られ世に出た曲だったのだ。
冒頭に記した小田の言葉は以下のように続く。
――「そのすべてをこのキーワード(I LOVE YOU)で乗り越えていけたらな」という、想いから作った曲だったんだよ。
嫌なことも全て受け入れて前に進んでいかなくてはならない。「I LOVE YOU」にはそんな決意も込められていたというのだ。
40年前、国会での強行採決の写真に “I LOVE YOU.” の文字が載った、この曲のシンプルな駅貼り広告が話題になった。当時僕も実物を見たことがあって、話題作りが上手いと感心したのだが、小田によると、嫌な光景にも “I LOVE YOU” という文字を載せることで、この曲のコンセプトを表した広告だったそうだ。高1の坊主にはそこまでは読み取れなかった。
曲のメインはサビの「I LOVE YOU」加藤和彦も唸った小田和正の実験性
サビの「I LOVE YOU」での転調。小田はここに賭けて、そこまでは淡々とした作りにしたと語っている。歌詞もサウンドもミニマムで空間が感じられ、実験的と言ってよかった。当時同じレコーディングスタジオにいた加藤和彦も「これがシングルなの? 売れてる時なら何でも出来ちゃうから、いいよね」と小田に評した程だった。
この曲のメインはあくまでもサビの「I LOVE YOU」であった。最後に色々な声のユニゾンの合唱が入るのも、終盤更に上に転調するのも、その証しであろう。
しかもそれはラヴソングの “愛” に留まらず、もっと広い “汝の敵をも対象に含んだ愛” であった。
前年「さよなら」で大ブレイクを果たしたオフコースが全盛期の中で早くも終わりに向かわなくてはならなくなった、そのやるせない想いを、小田和正は普遍性のある愛の歌に昇華させ、きちんと多くの人の耳に届けた。
私的な感情を普遍的な曲まで昇華させたという話は別稿で「言葉にできない」がそうであったと書いたが、その半年前に既に「I LOVE YOU」でもう少しオブラートに包んだ形で私的な想い、そして決意表明を世に出していたのだ。軟弱などとはとても評せない、やはりロックな姿勢ではないか。
「I LOVE YOU」は2002年の大ヒット曲「キラキラ」のカップリングで小田がセルフカヴァーし、『あの日 あの時』にも収められた。このセルフカヴァーではサビでコーラスを重ねることも無く、終盤の再転調も無い。小田としては、もうそこまで念を押さなくてもよくなったのかもしれない。
それにしても「汝の敵を愛せ」、今の時代にこそ改めて噛みしめるべきメッセージなのではと僕は思うのだがどうだろう。
2021.06.21