2月25日

【松本隆へのラブレター】原田真二や松田聖子の歌詞が教えてくれた “しあわせ” の風景

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松本隆先生、お誕生日おめでとうございます。

先生の作品からは、まっすぐに生きる素敵な憧れの女性像、優しくて魅力的だけど選ぶと不幸になるよという男性像、“しあわせ” は数限りなくあること… その他にもたくさんのことを学びました。

歌に出てくる言葉の端々も、出てくる人物も、魅力にあふれていて、真似てみたい。大人が聴いて歌って共感ができる人たちだと思うのです。

「てぃーんずぶるーす」の歌詞にある「座り心地のいい倖せ」


11歳、小学6年の秋に出会った「てぃーんずぶるーす」(1977年)。あの頃は、原田真二さんが好きでした。“伏せ目がちのジェームス・ディーン” を真似た歌の中の彼は、同じ学年の好きな男の子よりも、もっと好きだったかもしれません。

この歌で学んだのは、歌詞の中にある「座り心地のいい倖せ」でした。当時は何気なく聴いていた言葉でしたが、少し大人になってから意味がわかったものです。“汽車の窓に流れる君” である彼女は、豊かで、優しい、誰もが羨ましがるような男性と結ばれて、穏やかに美しく暮らせる。そんなしあわせを選んだのだと思っています。

ダンディズム溢れる「ルビーの指環」の世界観


中学校から系列の高校に上がった頃、寺尾聰さんの「ルビーの指環」(1981年)の世界観に憧れました。

“そうね 誕生石ならルビーなの”、15歳の子供のくせに、そう言ってみたかったのです。11月生まれのわたしの誕生石はトパーズ、地味な石です。なんで4月や7月に産んでくれなかったのって、母を少し恨んだものでした。

先生が寺尾聰さんや南佳孝さんの作品で書く、優しくてどこか情けなくて、ダンディズム溢れる男性が、わたしは大好きです。

好きな男性のタイプを導いてくれたのも、そんな人と恋をして、その後のかなしさを教えてくれたのも、きっと先生の数多くの作品だと信じています。



同じく寺尾聰さんの「喜望峰」(1981年)の歌詞には――

 世界地図 壁に貼り 
 行方はピン投げて決めるのさ

 遊ぶみたいに生きてる男が 
 一人いてもいい気がする

―― とありますが、ここに登場する男性に、15歳で初めて聴いて以来ずっと憧れています。憧れる男性ではあるけれど、きっと一緒にいると、「座り心地のいい倖せ」を感じることは少ないのだと、少し大人になってから思いました。

「Tシャツに口紅」に登場する彼も優しくてちょっと情けない男性


ところで男の人が考える女性のしあわせも、やっぱり、豊かで穏やかな「座り心地のいい倖せ」なのでしょうか。ラッツ&スター「Tシャツに口紅」(1983年)を聴くといつも思うことです。

 これ以上君を不幸に 俺できないよと 
 ポツリと呟けば
 不幸の意味を知っているの?
 なんて 顔を上げてなじるように言ったね

歌の中の彼も優しくてちょっと情けない男性なんだ。鈴木雅之さんの歌を聴きながら、彼らのその後を想像します。

恋が始まったときの風景を思い出す「罌粟」


先生の書く、うたのことばって、絵になって腑に落ちる表現がいっぱいあります。そのひとつが、畠山美由紀さんの「罌粟(けし)」(2003年)でした。



 あなたの目 ひと目見たとき
 歯車が噛んで回った
 生きてて一度ぐらい 魔法って信じたい

恋愛の始まり、心が動くというのは、まさに “歯車が噛んで回った” 状態。わたしが40代になって何度目かの恋に落ちたとき、とても腑に落ちた言葉でした。いまでも「罌粟」を聴いたり、カラオケで歌ったりすると、そのひとと初めて会って話して、恋が始まったときの風景を思い出します。魔法って信じたい。結末は決してハッピーエンドでなくてもいいとさえ思います。

どこか気が強くてまっすぐな松田聖子の歌詞に登場するヒロイン


歌の中の女性にも憧れました。松本隆先生が描く松田聖子さんの歌詞に登場するヒロインは、可愛らしいけれど、どこか気が強くてまっすぐなところが素敵です。たとえば、「Kimono Beat」(1986年)の彼女。



 未来くらい 自分の手で選びたいの

―― と、気のすすまないお見合いの席を晴れ着のまま抜け出して、付き合っている彼氏と、細い路地を抜けだして砂浜へ走る彼女。最高にかっこいい憧れの対象でした。

かなしくてスマートな流儀を教わった「卒業」


斉藤由貴さんの「卒業」(1985年)の彼女にも、共感を持ち、こうありたいと思いました。

 だけど東京で変わってく
 あなたの未来は縛れない

本当に好きな人には、わがままは言えません。別れることはつらいけど、縛らずに、その人がしたいようにする。かなしくてスマートな流儀を、わたしは斉藤由貴さんが涙をこらえながら歌う「卒業」から教わりました。

ファンタジーと現実の隙間を浮遊する松本隆作品


憧れの女性という視点では、2018年リリースのクミコ with 風街レビュー「フローズン・ダイキリ」も最近のお気に入りです。



 私 自由だった 後悔はない
 付かず離れずにね 自分と歩く

 愛しすぎず憎みすぎず
 自然体で生きていたい

「座り心地のいい倖せ」には縁がなかったような彼女だけれど、とてもしあわせそうに見えるのです。今もクミコさんの歌声を聴いていて「ああ、こういう女性になりたい」と憧れています。

先生の作品は、ファンタジーと現実の隙間を浮遊しつつ、人間の生きざまを素敵な歌い手さんを通じて、絵画のように見せてくれます。そんな素敵な作品たちを、これからも愛し続け、繋いでいきたいと思っています。

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2023.07.16
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