6月21日

中山美穂「C」で歌手デビュー!松本隆が品良く表現した恋のアルファベットとは?

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“ABC” と言えば、少年隊? 沖田浩之? 恋のアルファベット?


リマインダー世代の人々が “ABC” と耳にすれば―― 「少年隊のヒット曲だねー」とか「沖田浩之の「E気持」?」といった反応が多数派を占めるのだろうか…。

が、いつの世にもマイノリティ… すなわち少数派は存在するものでアリマシテ。その方々のお口からは、おそらくこんな言葉が… しかも、どこかくぐもった声でこんな風に囁くのではないだろうか。

「アレのことじゃない? アレ…」

そう、「♪ 恋のアルファベットが過激にすすめば~」という、あの隠語のことをほのめかすのだ。

昭和の… あの頃における “ABC” と言えば恋のアルファベット。すなわち、性行為のプロセスを順序立てて表す語として使われていたのだ。昨今とは異なる時代ならではの、口語文化のようなモノだったのかと思われる。

当時のティーン向け雑誌の多くにおいても、このテの話題は必ずと言っていいほど掲載。それもいわゆる、インク臭が鼻につく白黒ページのうしろの方で…。あの独特の臭いは、媒体が後ろめたいモノになればなるほど臭気が増した感じがしたものだが、アレは罪悪感のなれの果てによる錯覚だったのだろうか。もちろん、白黒のみならず、カラー掲載で過激な内容で迫った女子向けの『ギャルズライフ』なる雑誌も。コレが主婦の友社から発刊されていたのだからおののいてしまう。

なにはともあれ、それら記事にて得た知識を基に、恋のアルファベットの意味を改めて書き記してみることにする。

 A=接吻
 B=接触
 C=交じり合い
 D=身ごもる

中山美穂「C」で歌手デビュー


1980年になると、これらをタイトルに宛がった日本テレビ系ドラマ『愛のA・B・C・D』が夜10時台に放送。蛯名由紀子(改名後:浅沼友紀子)演じる女子中学生がイタした後に妊娠発覚、大騒動になるといったストーリー。社会派ドラマを謳っていたことで内容が鬱蒼としていたからか、人知れず終了の憂き目に遭ってしまった。あれから半世紀近い時が流れた今じゃ、このドラマについて熱く語れる人なんてあまりいないのかもしれないが…。

そんな風潮に便乗する形で、翌1981年には竹の子族出身の沖田浩之が「E気持」という曲でデビューしヒットを記録。「♪ ABC ABC ハ〜ンE気持〜」という意味深な歌詞が話題を呼び、恋のアルファベットは市民権を得てゆくことになる。

そして1985年になると、この隠語そのものをタイトルにした楽曲で新人歌手がデビュー。それが中山美穂(以下、ミポリン)であり、デビュー曲「C」だったのである。発売は同年6月21日、他の新人歌手からはやや遅れをとった船出となったものの、そんなことはクソくらえ。ミポリンには、すでにA級ウエポン(=武器)が備わっていたからである。

その武器とは、TBS系ドラマ『毎度おさわがせします』である。思春期の性をモチーフとしたが、このテのドラマが夜9時台に、しかも連続ドラマとして放送されるのは当時としては画期的だった。

雑誌やテレビはもとより、ラジオでも性のお悩み相談番組が話題を呼んだ時代。同ドラマの続編として、またもやミポリンを主役に据えた『夏・体験物語』も放送され人気を集めていく。

この余波は、それまで主婦層をターゲットにしていたはずの2時間ドラマ枠まで呑みこんだ。ティーン俳優陣を配役し、ソレらしき筋書きのストーリーでB級風味のドラマを次々と放送し始めたのだ。

旦那とはごぶさたでイケメン家庭教師にときめく母。それに対抗心を燃やす娘が宣戦布告し同じ男を取り合うことになる母娘。母親役の女優が、刷りガラスの扉越しにシャワーを浴びる家庭教師を見て舌なめずり…… あゝ、筆者は一体なんて時代に青春を過ごしていたのだろうか?

かといって道を大きく踏み外すこともなく生きてこられているワケだから、あれはあれで必須科目のようなモノだったと捉えるべきなのか。現にこれらブームをきっかけとして、性教育が科目として確立されるようになったというのだからまんざらでもないのである。

作詞は松本隆、ドラマで築いた中山美穂のパプリックイメージを最大活用


ミポリンの「C」で描かれる物語も、こんなムフフH時代を象徴したかのような筋書きで展開される。が、その描写は極めて美しく、品の悪さを一切感じさせないのが特徴だ。

 トパーズの月明かりあなたを追って
 Tシャツを脱ぎながら入り江に走る
 見ないでね 約束よ 水晶の波
 てのひらにもぎたてのリンゴをかくして

キラキラ系アイテムを用いながら、若い2人が「C」に至るまでのプロセスを描く。それはブルック・シールズ主演映画『青い珊瑚礁』の各場面をスライドで眺めているかのような美しさだ。

ミポリンが『毎度おさわがせします』で築いたパプリックイメージを最大活用しながらも、あのドタバタ感やチープな加減を完全払拭。さらに、ヘタすると生々しくなるだけの場面すら、こんなにも美しく描くことが出来るのは「さすが」としか言いようがない。

作詞の松本隆は、ドラマで大暴れするミポリンを観てデビュー曲の作家候補として自ら名乗り出たという。ヤンキー娘としてノってた姿にA級アイドルになれるであろう可能性を見出したに違いない。実際、あのテのドラマに出演するも道は外さず、立派にA級街道をまい進したミポリンも賞賛に値する。

若い娘が、テレビで下着姿になるような役を演じるのは覚悟がいったはず。が、このようなオファーが舞い込んでくるのだから結果オーライと言えたのでは? 大センセイが志願してくださるなんて… “ツイてるねノってるね”。ミポリン自身も、最初こそ抵抗があったものの、撮影が進むにつれ女優という仕事をE(イー)なと思えるようになったと語っていたもの。

表現のプロ松本隆、プロセスにおける諸々をニクいくらいに美化


 濡れた砂のスロープ ほうき星が流れる
 私 夜空ただよう ガラスの魚みたい

ドラマの役柄、そして曲のタイトルが「C」という先入観がなければ、なんのことを描いているのか分からなくなるフレーズが並ぶ。あのプロセスにおける諸々が、ニクいくらいにボヤかされ美化される。そこはさすがに、歌謡曲隆盛時代に職業作詞家と呼ばれた人が紡いだ歌詞である。彼らは歌詞に紗をかける、いわゆる間接表現のプロ。

 Cから始まる恋のバラード

なんてトリック(音楽で “C” はドレミの “ド” を表す音名)めいたものまで仕掛けるのだから、抜かりないったらありゃしない。

ちと気になるのは、主人公とCの最中とおぼしき相手の描写が見当たらないこと。熟れたバナナだの、天を仰ぐ椰子の木(※陳腐な表現力に我ながら絶句!)などと挿入(歌詞に!)することは可能だったと思われる。が、女子アイドルのデビュー曲なんだゼ! という既成事実からも不必要との判断が下されたのではないかと。実際のブツに慣れ親しんでいる男性側からの意見としても、まさしく異口同音でアリマシテ。まぁ、E(いー)らないわナ。

どれもが高品質!松本隆×筒美京平×萩田光雄×中山美穂


そして、海辺で営みを続ける2人は…

 ピアノのように優しく弾いて(※Bまで済んだとー)
 さそり座の赤い星 涙で曇る(※アハハハハハ~~ン)

恋のアルファベットを過激に進ませ、オトナへの階段を登っていったことを明白にするのであった。フレーズに登場する、さそり、赤、涙という語句から察するに… 主人公にとっては “E気持” というよりも、赤い滲みを伴う行為だったことを匂わせつつ… いわゆる、「ちょっと痛い関係(リレーション)」になったというワケか。

松本隆氏による完全無欠な歌詞、筒美京平氏による抜群のメロディライン、萩田光雄氏が施した卓越なるアレンジ、そしてミポリンのオーラ… どれもが高品質でCどころかAがズラリと並ぶ出来栄えなのだから。イタす前か後の描写が主となる喪失歌謡において、ミポリンの「C」は始まりから果てるまでのプロセスを映し出す実況中継型。完成形とも言える構成が秀逸で、特A級に認定させていただきたいのである。

意欲的にドラマ出演、中山美穂の行き着く先は絶対女優 “Z”?


さて、リアルでも諸々の紆余曲折を経てオトナの階段を登り続けるミポリン。近年は、意欲的にテレビドラマに出演。『彼らを見ればわかること』(WOWOW)ではレディコミ作家役、夏樹静子原作『Wの悲劇』(NHK-BS)では事件に絡みまくる母親役、『コンフィデンスマンJPスペシャル 運勢編』ではあくどい女社長役でハっちゃけ、『東京二十三区女』(WOWOW)では念願だったという老婆役(全くミポリンに見えず)を見事に演じ視聴者を驚愕させたばかり。

Cからはじまり、Wまで歩んできたミポリンの役者人生が充実しているのは、ミポリンを見ればわかること。残り “X+Y=LOVE” として大勢を魅了し、最後の “Z” で絶対女優の地位を手にすることができるか。これからも、“JINGI・愛させてもらいます” … ヨ。

■ C / 中山美穂
■ 作詞:松本 隆
■ 作曲:筒美京平
■ 編曲:萩田光雄
■ 発売日:1985年6月21日
■ 発売元:キングレコード
■ オリコン最高位:12位
■ 売上枚数:17.0万枚


※2021年3月1日、2021年6月18日に掲載された記事をアップデート

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2023.03.01
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カタリベ
1968年生まれ
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