4月26日

心に茨を持つ中年=ムーンライダーズ「最後の晩餐」を大人になった今聴いてみよう!

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ムーンライダーズのアルバム「最後の晩餐」がリリースされた日
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日本のロックレジェンド、ムーンライダーズ5年ぶりの復活


1991年、私は19歳の大学生でバイト代のほとんどをCDやレコードの購入にあてていた。英米のインディーロックやオルタナティヴロックを一早くチェックするのと同時に60~70年代の名盤を中古盤やリイシューCDで追いかける日々。

今までの人生で最も音楽どっぷりの生活をしていた頃だった。まぁ、大学生なので時間に余裕があったということだ。そんな調子で聴いている音楽も99%は洋楽ロック一辺倒、ジャパニーズロックが入り込む余地は一部の例外を除いてほとんど無かった。そんな中、ムーンライダーズが5年間の沈黙を破り11枚目のアルバム『最後の晩餐』をリリースした。

私がリアルタイムでムーンライダーズを聴き始めたのも『最後の晩餐』からだった。洋楽かぶれの私がムーンライダーズを聴いてみようと思ったきっかけは… 申し訳ない、全く覚えてないっす。おそらくは “日本のロックレジェンド、5年ぶりの復活” 的な叩き文句に釣られて衝動買いしたのか… FMで流れていて気になったのか… そんなところだろう。そんな調子で購入した『最後の晩餐』に19歳の洋楽かぶれの少年は完全にノックアウトされてしまった。

洋楽のトレンドを一早く取り入れたアルバム「最後の晩餐」


当時、イギリスのインディーシーンでは、ロックにハウスビートを取り入れる手法が大きな流れとなっていた。一方、アメリカではグランジが一大ブームを巻き起こす直前の時期だった。こうした洋楽のトレンドを一早く取り入れて作られたアルバムが『最後の晩餐』た。

アルバムのオープニングは XTC のアンディ・パートリッジがムーンライダーズのメンバーを紹介するアナウンスから始まる。続く実質的なオープニングナンバー「Who’s gonna die first ?」は洋楽との同時代性を強く感じさせる代表的な曲だ。性急なデジタルビートにノイジーなギターが絡むムーンライダーズ流ハードロックは、これ以降のライブでも鉄板の盛り上がりナンバーに定着している。

当時、ムーンライダーズは40代に突入したメンバーがちらほら、残りのメンバーも30代後半になっており、お世辞にも若いバンドとは言えない年齢だったが、最新の洋楽トレンドをサラリと取り入れるフットワークの軽やかさに “カッコいい大人” の魅力を感じた。

クラシックロックへのオマージュと最新洋楽トレンドの融合


ムーンライダーズは前身バンド、はちみつぱいのレコードデビューから数えて、この時点で既に18年という長いキャリアを積み重ねている。年齢からしてもロック黄金時代をリアルタイムで体験してきた世代だ。『最後の晩餐』では、随所にクラシックロックへのオマージュを感じさせるアレンジが施されている。

「涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない」からは後期ビートルズ、「はい!はい!はい!はい!」のギターソロはブライアン・メイ(クイーン)、「Christ, Who’s gonna die and cry?」のアンサンブルはザ・バンド… といった具合にロックの黄金律がそこかしこから聴き取れる。特に全編を通して後期ビートルズからの影響を強く感じさせる。

最新洋楽トレンドとクラシックロックへのオマージュが絶妙のバランスで融合したサウンドデザインは “流石” の一言に尽きる。当時、洋楽新譜と名盤リイシューを漁りまくっていた私の嗜好にピタリとはまり、聴き込めば聴き込むほどムーンライダーズにしか作れないサウンドの魅力に憑りつかれていった。

凝りまくったサウンドに乗せて歌われる深みのある歌詞


本作の凝りまくったサウンドに合わせて、歌われる歌詞はどのようなものなのだろうか考えてみたい。リリース当時、本作の歌詞は深みがあり、多くのポップソングやロックバンドとは明らかに違うことはノンキな大学生でも理解できた。そして、48歳になって聴くムーンライダーズの『最後の晩餐』は心にヒリヒリと染みてくる痛々しいアルバムなのだ。

 死ぬ程 悲しい目に
 あわされてきた 夢みるたびに
 どうにか よろけながら
 愛する事など 認めてきた
 冬のバースディ クラクラする
 冬のバースディ 重ねて
 これから先 見えない 深い闇の淵を
 何も持たず行けるだろうか
 (プラトーの日々)

 テーブルに肘をついて眠る
 疑問符にそっと毛布掛ける
 質問は山ほどあるのに
 この家は静かすぎる
 愛情の見返りは
 物になりすましてる
 感情の起伏は
 愛に押しつぶされる
 (犬の帰宅)

『最後の晩餐』は一人の大人として、生活者として、家庭人としての内面が赤裸々に歌われている。特に人生後半戦に対する自問自答や家族との関係性を歌ったものは私の心に重たくのしかかってくる。初めて聴いた当時19歳の私はこれらの歌を聴いて心が痛まなかったのだから、能天気に楽しく生きていたのだろうか、それとも単に若かっただけなのだろうか…。

心の痛みを歌うムーンライダーズ、日本のロックに与えた孤高の輝き


『最後の晩餐』は中年のやるせなさや悲哀が痛いほどに歌われている。その歌は決して聴き手を優しく包み込んではくれない。むしろ、心の奥にしまい込んで、さらに蓋までしている厄介な気持ちや心の傷を思い出させる。音楽を聴いて嫌な気分になりたくないという人はたくさんいるだろう。しかし、楽しいことだけでは大人になることはできないし、大人になったからこそ分かる心の痛みもあるのではないだろうか。

ムーンライダーズの『最後の晩餐』は聴き手に寄り添うことなく、突き放すこともなく、複雑な感情の起伏を完璧なサウンドデザインに乗せて歌う大人のロックだ。

分かりやすい共感が魅力のバンドブーム、聴いているだけでちょっとしたスノッブを気取れる渋谷系。どちらも80~90年代の日本のポップミュージック史における大きなムーブメントである。この狭間でリリースされた本作は安直にシーンに与することなく孤高の輝きを放っており、日本のロック史に与えたインパクトはとても大きい。

本作は、現在アップルミュージックやスポティファイでも聴くことができるので、世代的にもど真ん中のリマインダー読者の皆さんにこそ、是非とも聴いて頂きたい名盤中の名盤なのだ。


追記
私、岡田浩史は、クラブイベント「Fun Friday」(吉祥寺 伊千兵衛ダイニング)で DJ としても活動しています。インフォメーションは私のプロフィールページで紹介しますので、併せてご覧いただき、ぜひご参加ください。


2020.04.26
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カタリベ
1972年生まれ
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